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【小説】梶龍雄『龍神池の小さな死体』

【あらすじ】

「お前の弟は殺されたのだよ」死期迫る母の告白を
受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学
教授・仲城智一は千葉の寒村・山蔵を訪ねる。村一
番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い
槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。龍神の呪いか? 座
敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?

【感想】

トクマの特選なる業書で復刊した一冊。

梶龍雄という存在は以前から知っていたし、なんならノベルス版の『リア王密室に死す』も持っている。
実家を出た際に、本棚に入れたまま幾星霜。
帰省したら読もうと思ってはいたけど、気づいたらその『リア王』すら復刊されてた。

読みたいけど既に持ってる本を買うのは嫌だし、実家に帰るのも面倒臭い。

ってことで、本書『龍神池』を買って読んでみた次第。

結果、大当たり。

戦後作家で本格ミステリの書き手と言うと、横溝正史、山田風太郎、高木彬光、鮎川哲也、土屋隆夫なんかが真っ先に挙げられるだろうし、僕もこの人たちの作品は大好き。
特に山田風太郎『妖異金瓶梅』高木彬光『人形はなぜ殺される』は生涯ベスト10に入るくらいお気に入り。

そんな錚々たる面子の作品群の中に本書を入れても、なんら遜色のないくらいに面白かった。

昔の小説にしては平易な文章で、テンポよく進む読み心地の良さ。
母の遺言に端を発する魅力的な謎。
そして、突飛な真相を補強する伏線の数々。

どれを取っても一級品だし、何より小説としてべらぼうに面白い。

兄弟であったのに、戦争という時代の流れのせいで縁遠かった弟の追想の為に、真相を解き明かそうとした主人公にとって、あまりに残酷で業の深い結末。
この時代ならではの仄暗い青春小説といった趣が堪らなく刺さってしまった。

ミステリ面で見ても、物語の構成能力の高さが遺憾なく発揮されている。

一連のものに見えた事件の構図が、中盤で数々の伏線に裏打ちされた説得力のある推理で分断されたかと思いきや、最後には一点の曇りなく一本の筋の通った物語に帰結する。
ここでも、思いがけない描写が伏線となって押し寄せる。
まさに、全編伏線。

作中に登場する物理トリックや、それがもたらす効果は、正直今の時代から見てみれば、陳腐なものに映るかもしれないけど、このトリック自体に真相を補強する為の伏線が幾つも張られているのだから恐れ入る。

探偵役が言うように、飛躍した発想から、それを補強する為の材料を集めるといった捜査手法のため、ロジック偏重の解決編ではないけど、その飛躍した発想があまりに面白いもんだから、ロジック大好き人間の僕でも、黙って拍手するほかあるまい。

なぜ長らく入手困難が続いていたのか、疑問が湧くほど傑作と言っていい本格ミステリだった。

全ての本格ミステリファンにオススメしたい一冊。

これは実家に『リア王』を取りに行くなんて悠長なこと言わずに、復刻版を買うべきかもなぁ。

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