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【小説】連城三紀彦『恋文』

結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い。しかしそれを機会に、彼女には初めて心を許せる女友達が出来たが…。表題作をはじめ、都会に暮す男女の人生の機微を様々な風景のなかに描く『紅き唇』『十三年目の子守歌』『ピエロ』『私の叔父さん』の5編。直木賞受賞。

【感想】

久しぶりに本を読んだ。

というのも、今年の1月に転職…というより出戻りし、平日は仕事→呑み→仕事→呑みを繰り返し、土日は泥のように眠る生活を送っていたから。

そんなこんなで本を読むという習慣が完全に失われていたわけ。

つくづく、読書というのは習慣がモノを云うと感じる。

一度サボれば本を開くのが億劫になってしまう。

とはいえ、せっかくのお盆休みだし、何か1冊くらい読もうと思って、リアルに6時間くらい悩んで手に取ったのがコレ。

もしかしたらコレが今年最後の1冊になるかもしれない。

それとも、ここからまた読書の悦びを思い出し、習慣化するかもしれない。

いずれにせよ、下手な本は選べない。

結果、連城三紀彦に行き着いた。

コレ以外無いって。

昨年読んだ連城三紀彦の単行本未収録短編集『黒真珠』

落ち穂拾いであのクオリティ。

今も鮮烈に覚えてる。

ましてやこの『恋文』は直木賞受賞作。

外すワケがない。

頁数も肩慣らしにはちょうど良いしね。

それでは、対戦よろしくお願いします。

(各短編の短評↓↓↓)

『恋文』

白状すると、予備知識無しで読んだせいで、完全にミステリを期待してしまった。

ミステリ的解釈もできないこともないけど、無理してこじつける必要もない。

ただただ、連城三紀彦の物語を構築する能力の高さに平伏すしかない。

“恋文”により物語が幕を開け、”恋文”により物語が転調し、”恋文”により物語が幕を下ろす。

何が恐ろしいって、この3つの”恋文”を綴った人物はそれぞれ別で、想い人もバラバラで、思惑すら異なっている。

なんだこの超絶技巧。

もはや笑うしか無い。


『紅き唇』

連城節が炸裂。

あまりに自然で、到底気づくことのできない要素が伏線に昇華し、物語を反転させる。

暗澹とした物語が突如として、遣る瀬のない悲運の物語へと変貌を遂げる。

コレだから連城三紀彦はやめられねぇ。


『十三年目の子守唄』

いかにも裏がありそうな人物の言動、挙動に目を奪われていると、在らぬ方向からの一撃に面食らう。

連城三紀彦はミスリードだって一級品なのだ。

ただ、一撃を喰らわせるだけじゃない。
しっかりとこの一撃が物語に深みをもたらす。

救済の一撃。


『ピエロ』

“嘘”

コレの扱いの巧さで連城三紀彦の横に並ぶ者は居ない。

ミステリ的な反転は無いけど、”嘘”と”優しさ”の危うい均衡の上で織り成す物語は、主人公の奥さんと同じく、読者すら不安にさせ、焦燥させるであろう。

氏の巧みな筆致を味わえる一編。


『私の叔父さん』

大傑作。

五つの写真に込められた、たった一つの想い。

これがこんなにも心を震わせる。

トリックなんていらない。

反転すらしない。

あるのはたった一つの真実だけ。

そして、言われるまで絶対に気付けない伏線の妙。

読後、物語としてあまりの完成度にあてられ、何も手につかなくなってしまった。

ミステリ好きだけじゃなく、全人類に読んで欲しい。

飛ぶぞ?

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