【小説】連城三紀彦『恋文』
【感想】
久しぶりに本を読んだ。
というのも、今年の1月に転職…というより出戻りし、平日は仕事→呑み→仕事→呑みを繰り返し、土日は泥のように眠る生活を送っていたから。
そんなこんなで本を読むという習慣が完全に失われていたわけ。
つくづく、読書というのは習慣がモノを云うと感じる。
一度サボれば本を開くのが億劫になってしまう。
とはいえ、せっかくのお盆休みだし、何か1冊くらい読もうと思って、リアルに6時間くらい悩んで手に取ったのがコレ。
もしかしたらコレが今年最後の1冊になるかもしれない。
それとも、ここからまた読書の悦びを思い出し、習慣化するかもしれない。
いずれにせよ、下手な本は選べない。
結果、連城三紀彦に行き着いた。
コレ以外無いって。
昨年読んだ連城三紀彦の単行本未収録短編集『黒真珠』
落ち穂拾いであのクオリティ。
今も鮮烈に覚えてる。
ましてやこの『恋文』は直木賞受賞作。
外すワケがない。
頁数も肩慣らしにはちょうど良いしね。
それでは、対戦よろしくお願いします。
(各短編の短評↓↓↓)
『恋文』
白状すると、予備知識無しで読んだせいで、完全にミステリを期待してしまった。
ミステリ的解釈もできないこともないけど、無理してこじつける必要もない。
ただただ、連城三紀彦の物語を構築する能力の高さに平伏すしかない。
“恋文”により物語が幕を開け、”恋文”により物語が転調し、”恋文”により物語が幕を下ろす。
何が恐ろしいって、この3つの”恋文”を綴った人物はそれぞれ別で、想い人もバラバラで、思惑すら異なっている。
なんだこの超絶技巧。
もはや笑うしか無い。
『紅き唇』
連城節が炸裂。
あまりに自然で、到底気づくことのできない要素が伏線に昇華し、物語を反転させる。
暗澹とした物語が突如として、遣る瀬のない悲運の物語へと変貌を遂げる。
コレだから連城三紀彦はやめられねぇ。
『十三年目の子守唄』
いかにも裏がありそうな人物の言動、挙動に目を奪われていると、在らぬ方向からの一撃に面食らう。
連城三紀彦はミスリードだって一級品なのだ。
ただ、一撃を喰らわせるだけじゃない。
しっかりとこの一撃が物語に深みをもたらす。
救済の一撃。
『ピエロ』
“嘘”
コレの扱いの巧さで連城三紀彦の横に並ぶ者は居ない。
ミステリ的な反転は無いけど、”嘘”と”優しさ”の危うい均衡の上で織り成す物語は、主人公の奥さんと同じく、読者すら不安にさせ、焦燥させるであろう。
氏の巧みな筆致を味わえる一編。
『私の叔父さん』
大傑作。
五つの写真に込められた、たった一つの想い。
これがこんなにも心を震わせる。
トリックなんていらない。
反転すらしない。
あるのはたった一つの真実だけ。
そして、言われるまで絶対に気付けない伏線の妙。
読後、物語としてあまりの完成度にあてられ、何も手につかなくなってしまった。
ミステリ好きだけじゃなく、全人類に読んで欲しい。
飛ぶぞ?
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