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【小説】倉知淳『大雑把かつあやふやな怪盗の予告状』

【あらすじ】

ミステリ小説みたいな事件なんて、現実にはそうそう起きたりしない。殺人事件の犯人はだいたい怪しい人間だし、犯行現場の指紋を偽装するヤツなんてめったにいない。世に起きる事件の98%は一般的な事件であり、優秀な日本の警察によって早急に解決されていく。だが、しかし。2%はそうではない。この平和な日本でも起きるのだ。密室殺人が。怪盗による犯行予告が。そうしたやっかいな事件は並の警察官では歯が立たない。いわゆる「名探偵」の力が必要だが、毎回民間人に協力を仰ぐのも警察の名折れである。それならば警察組織にしてしまえばいい!こうして生まれたのが、警察庁特殊例外事案専従捜査課――略称「特専課」――通称「探偵課」。探偵課に所属するのは民間の名探偵たち。名探偵の例にもれず全員クセがすごい、というか全員めんどくさい。事件が起きると召集され、ずかずかと現場に現れて華麗に解決する。なお報酬は歩合制である。そんな愉快な探偵課に配属になったのは、警察庁に入庁したばかりの新人・木島。
中途半端な密室、あやふやな予告状、見立てっぽい殺人事件。次々と巻き起こるヘンテコな事件に天を仰ぎながら、クセツヨ探偵とともに今日も立ち向かう。

【感想】
わりと寡作な方だと思っていたけど、近年は年一冊くらいのペースで安定してるね。

雑誌掲載の短編をたくさん書いて、1冊に纏まる。
この感じは大山誠一郎と似てる。
彼も最近はよく本出してるし。

本作もウェブ掲載ではあるが、連載していたものが連作短編集として1冊になった形。

まあ短編と言っても、倉知作品にありがちな中編サイズにはなってしまっているのだが、、、

どのお話も100ページ超という長尺ではあるけど、相変わらず軽妙な語り口でスラスラと読める。

かと言って、ライトなミステリなのかと言われれば、断じて違う。
ロジック重視でガチガチの本格ミステリだ。
それも”名探偵、皆を集めて「さてーー」と言い”的な古き良きコード型の本格ミステリ。

扱われる謎も密室、窃盗、見立て殺人とバラエティに飛んでいる。
それらの事件が分かりやすいロジックで瞬く間に解決されていく。

これは倉知作品全般に言えることだけど、解決編の手際が素晴らしい。
読者がロジックについて来れるように、順序立てて説明し、読者が疑問に思うであろう箇所を登場人物に代弁させ、それに探偵が答える。
この分かりやすい解決編によって、不可解な事件の構図にかかった靄が取り払われていく。

ロジック偏重の本格ミステリに苦手意識を持っている人でも、倉知淳なら楽しく読めるはず。

特に本書はシリーズ物でもないし、取っ掛かりとしては最高なのではなかろうか。

それでは以下に各短編の短評を。

『古典的にして中途半端な密室』
令和のこの時代に”針と糸の密室”のご登場である。
決してネタバレではないので大丈夫。
この”針と糸の密室”の仕掛けが作動されず、密室内に残ってしまったにも関わらず、何故か密室が出来上がってしまったという奇妙な謎を扱ったお話。
かなり真相が見えやすくなってしまっている部分もあるが、上でも触れた解決の手順が良く練られている一編。

『大雑把かつあやふやな怪盗の予告状』
表題作だけあって、本書の中で個人的ベスト。
衆人監視の中、如何にして怪盗は獲物を奪取するのかとわくわくしながら読んでいると、唐突に訪れる解決編。
それまでの何気ない描写が伏線に様変わりして、怪盗の正体が暴かれ、計画も暴かれ、さらには過去の犯罪まで明るみに出されてしまう。
事件に対して抱いていた印象からは随分とかけ離れた真相ではあるものの、言われてみれば大いに納得の解決編は実に見事。

『手間暇かかった分かりやすい見立て殺人』
作者らしい捻りの効いた一編。
見立ての理由、切断の理由に大した見所はない。
けど、そこから派生する犯人特定のロジックはあまりに単純すぎて、当たり前すぎて、逆に盲点になってしまっていたもの。
脱力系のトリックは数多くあるけど、脱力系ロジックってのもあったんだね。


どの短編も高水準の本格ミステリで、とても愉しめた。
本ミスであれば、ある程度良いところまでいけるかしら。

なにやら著者は今年、書き下ろし長編も出してるらしい。
近いうちに読まねば。

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