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【小説】雫零『不死探偵・冷堂紅葉01.君とのキスは密室で』

七月■日。謎の美少女・冷堂紅葉(れいどうもみじ)が転校してきた夏の日、
クラスメイトが殺された。密室殺人だった。
「私達で事件を解決しましょう、天内くん」
「まるでミステリ小説の名探偵みたいだな」
廃部寸前の文学研究会に所属する俺・天内晴麻(あまないはるま)は、なぜか転校生に事件の調査を依頼される。
そして冷堂も殺された――はずだった。誰にも解かれることのない究極の密室で。
「私を殺した犯人を見つけて下さいね――探偵さん」

不死探偵と“普通”の相棒。再現不可能な殺人事件に挑む学園ミステリー、堂々開幕!

【感想】

碌に動かしていない僕のTwitterが、何故か著者本人にフォローされたってことで、本書の事を認知した。

そうでもなければ存在を知る事も無かっただろうし、仮に知ったとしても手に取ることはなかったと思う。

けど、妙に気になってしまった。

見取り図があるらしい。
密室殺人が起こるらしい。
特殊設定ミステリでもあるらしい。
さらには読者への挑戦状もあるらしい。

目につく本書の惹句が、僕のツボに刺さっていく。

しゃーない、読むか。
過度な期待はやめておこう。

ラノベはラノベ。
ガチガチな本格ミステリを期待してはいけない。

例外は紙城境介くらいなんだから。

そんな心持ちで買ってみた。
友人と行った秋葉原のゲーマーズで。

結果、手放しで褒められはしないが、割と真っ当に本格ミステリをやっている、という感想になった。

ミステリとしての見どころは大きく2箇所。
体育倉庫で起きた密室殺人。
部室で起きた密室殺人。

前者は特殊設定の介在する余地のない、至ってシンプルな密室殺人。
殺人事件の前に起こった、下着の盗難事件が深く関わってくるわけだけど、その扱い方が意外と巧い。
盗難事件そのものをミスリードとして処理した構図は堂に入っている。
物理トリックは綱渡が過ぎるけど、一応フォローが入っているので不満はない。

後者は、探偵が不死であるという特殊能力により事件が明るみに出ることはなかった、主人公のみが知覚している密室殺人。
正直、こちらはかなり苦しい。
具体的いうと、密室を作る理由が弱すぎる。
かかる労力と、それに対する見返りが見合っていない。
作者もそれは承知していたようで、補足が入ったりはするのだけどね。

ここら辺はネタバレありで以下に詳しく書いてみたいと思う。

別に粗探しがしたい訳ではないんだけど、本格読みの哀しい性で、ついつい細かいところが気になってしまった。

けど、新人賞に応募するラノベで本格ミステリをやってやろうという気概は好きだし、著者のミステリ愛もよく伝わった。

どうやら秋に2作目が出るらしい。
うん、多分読む。


以下、第二の密室殺人の疑問点をネタバレありで書き連ねる。
未読の方はご注意。

窓、出入り口には鍵がかかっており、天窓も小さすぎて死体を通せるものではないという密室であったが、真相は単に死体をバラして天窓から投下。しかし、落下後に被害者ちゃんの不死能力(切っても元通り)が発動。身体が再生した結果、強固な不可能犯罪生まれてしまったというものである。
このトリック自体に瑕疵はない。
問題は密室を作る理由。

まず大前提として、犯人は被害者ちゃんの不死能力を察知できない立場にいる。
犯人は、鍵が掛かった部室に天窓からバラバラ死体を落とし、その際に死体の頭部を使ったトリックで鍵を締め、密室内で殺人が起こったかのように偽装したということだが、その後の再生までは予見できない。

ここで説明される密室を作った理由は”鍵を持っている主人公に罪を着せる為”というもの。
もし仮に主人公が被害者を殺したとして、バラバラにする理由はない。
バラバラ殺人においていちばん多い理由は”持ち運びを容易にする為”である。
もしこの部室でバラバラ死体が見つかり、出入り口に鍵が掛かっていたのであれば、真っ先に天窓という経路が疑われるはず。
一応、天窓にもトリックは仕掛けてあるが、痕跡が残り過ぎるので、調べられた時点でアウト。
ということは、そもそも密室事件として認識されたかすら怪しいのである。

改めて言うが、投げ込んだ切断死体が再生したのは望外のことである。
すなわち、事件の密室を作る理由として”鍵を持っている主人公に罪を着せようとした”という説明はあまりにも苦しい。

もし、この理由を成立させるのであれば、付加条件はたったひとつだけ。
“犯人は被害者ちゃんの不死能力を知っていた”
これだけ。

最終的には、主人公の時間遡行能力で事件は露見していないけど、これはあくまで結果論。
殺した時点では殺人の存在自体を隠蔽するトリックは弄されておらず、あくまで主人公に罪を着せるための密室トリックとの説明に終始してるので、犯人の行動は理にかなっていないのではないかな。

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