クリエイティブサロン吉田塾
山梨県富士吉田市、富士山のお膝元でひらかれるクリエイティブサロン吉田塾。毎回、さまざまな業界の第一線で活躍するクリエイターをゲストに迎え、“ここでしか聴けない話”を語ってもらう。れもんらいふ代表、アートディレクターの千原徹也さんが主宰する空間です。第十一回のゲストはDJ / 音楽プロデューサーであるFPMの田中知之さん。
とにかく夢中になった90分でした。田中さんと千原さんのカルチャーの話は、飛び出したキーワードから二人の脳内リンクがタブをひらき、次々と新しいエピソードへと展開してゆく。京都METRO、ピチカート・ファイヴ、信藤三雄、渋谷系、東京オリンピック、アイスクリームフィーバー……二人の対話は美しく、芳醇な音楽のように、複雑性を帯びながらも雅な一本のラインを描いて広がってゆく。
クリエイター“千原徹也”の人生とことばを記録してきたわたしとしては、かけがえのない時間となりました。千原さんのクリエーションは「デザイン、ファッション、映画」のカクテルで成立しています。その中で、常に彼はカルチャーの重要性を説いてきました。“千原徹也”を形成するエッセンス。その意味が、ようやく理解できました。
それは、田中知之さんだからこそ、ひらかれた扉だったような気がします。“渋谷系”というカルチャーが生まれ、育まれていったその背景。当事者としてのその景色をどう見ていたか。クリエイターたちはその土壌から、どのように茎を伸ばし、葉を広げ、豊かな実を結んだのか。
渋谷系はまだ終わっていない。今を活躍するクリエイターたちに連綿と受け継がれ、その一つとして今年公開される映画『アイスクリームフィーバー』へとつながっている。千原さんが監督し、田中さんがサウンドトラックを担います。
クローズドだからこその熱気のある空間とエピソードの数々。実際に語られた話はほとんどここには書けません。まさに、“ここでしか聴けない話”。
ささやかですが、二人の対話の模様をお届けします。
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京都と渋谷系
その内の1枚が映画音楽のコンピレーション。そこで田中さんが選曲したものが映画『Fantastic Plastic Machine』のサウンドトラック。1970年に制作されたとあるサーフィン映画のタイトルだった。
1995年、ピチカート・ファイヴのアルバム『ロマンティーク 96』内に、Fantastic Plastic Machine=FPM 名義の楽曲『ジェット機のハウス』が収録されメジャーデビュー。
2023年2月10日、アートディレクター/映像ディレクター/フォトグラファー/映画監督/書家の信藤三雄氏は永眠した。3月20日(みつおの日)、『1日限りのSEE YOU !320展』と題して追悼パーティーがひらかれた。
会場では、元ピチカート・ファイヴの野宮真紀、コーネリアスの小山田圭吾、クレイジーケンバンド、オリジナルラブ、UA…と、そうそうたる面々がステージに立った。田中さんもDJとして故人を偲ぶ会を盛り立て、千原さんも関係者として招かれた。
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キーワードは“渋谷系”
音楽との出会い方は、ここ数年で大きく変わった。今でこそGoogleで検索すればデータベースがあり、クリックすれば簡単に手に入る。しかし、当時は実際にレコード屋に足を運ばなければ出会うことができない。おっかなびっくり視聴する。その体験と共に新しい音楽を発見してゆく。世界中でそのようなことが繰り広げられていた。
コギャル、チーマー、渋谷系のカルチャー……街自体があらゆる文化とマテリアルのメルティングポットだった。あの時代、渋谷を中心に音楽が世界をつないでいた。
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サンプリング文化
海外で日本のシティポップがブームになって久しい。この10年で山下達郎や松任谷由実など1970~80年代に日本で人気だったさまざまな盤がリバイバルされている。次に訪れるブームは90年代の渋谷系の楽曲ではないかと田中さんは予想する。
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“渋谷系”第一幕の終焉
2001年3月31日、ピチカート・ファイヴは解散した。同年、911が起こる。時代が変わる瞬間だった。
同年、田中さんは日本コロムビアからエイベックスへと移籍し、アルバム『beautiful.』をリリースする。
2000年代、リミックスのバブル期が到来する。バブル経済は90年代初頭に崩壊するが、音楽界のバブルはそこから5、6年後に訪れる。エイベックスは隆盛を極め、世の中ではCDが飛ぶように売れた。
また、ダフト・パンクのギ=マニュエル・ド・オメン=クリストとのリミックスを実現。基本的に彼らはリミックスをほとんど請負わない。おそらく日本人で唯一の実例。
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東京オリンピック
2021年、田中さんは東京2020オリンピックの開会式/閉会式の音楽監督に就任(2020年東京パラリンピック開会式も同様)。渋谷系のカルチャーを育ててきた当事者たちが東京オリンピックのクリエイティブメンバーとして起用される。
東京オリンピックは準備段階からさまざまなアクシデントが起こる中、進めれらた。コロナウィルスという世界的なパンデミックと重なったことは言うまでもない。最初の大きな問題としては、ロゴデザインの変更を余儀なくされたところにはじまる。
「僕は、リスペクトがあるものが引用だと思っています」
田中さんは、トークショーの中でそう言った。渋谷系はサンプリング文化であり、そこには知性と美意識が求められる。SNS時代、つくり手はもちろんのこと、鑑賞者もまたリスペクトと教養を養っていかなくてはいいモノは生まれない。受取り手の知性と品性の欠如が、有能なクリエイターの可能性を消すことにもつながる。
“渋谷系”というカルチャーの土壌が、なぜここまで豊かに育ったのかを考えることは、これから何かを生み出す者にとって重要なテーマだ。
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アイスクリームフィーバー
2023年7月14日。“渋谷系”のDNAを受け継いだ千原さんの監督作品『アイスクリームフィーバー』が公開される。サウンドトラックはFPMの田中知之さん。渋谷系のリバイバルと共に、このカルチャーの第二幕がはじまるのかもしれない。
次回の講義は五月二十七日。ゲスト講師はデイリーフレッシュ株式会社代表取締役/アートディレクターの秋山具義さんです。
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そして、わたしも制作にかかわっている本塾の主宰、千原徹也さんの著書『これはデザインではない』もチェックよろしくお願いします。