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「読むこと」は教養のエチュードvol.1

第二回教養のエチュード賞にご応募いただき、誠にありがとうございます。

それぞれが、それぞれのてんてこまいを過ごしたであろう年の瀬。その中を僕宛の手紙がこれだけ届きました。胸がいっぱいです。お礼は僕なりの方法で返していきたいと思っています。昨年学んだ大切なことがあります。それは「誠意というのはいつだって、簡単な方法では伝えることができない」ということです。

2020年を迎え、僕からプレゼント。全ての作品を紹介させていただきます。結果発表はその後。みなさんが送ってくれた僕宛の手紙にお返事を。「わたし」と「あなた」がつながる。それはコンテスト開催の応募要項に書いたことの証明。

このコンテストにおいて、僕は「最良の書き手」でありながら、「最良の読み手」であることに努めます。

それでは、『「読むこと」は教養のエチュード』のはじまりです。


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1.好きって言うだけ #呑みながら書きました

前回、プリマドンナ賞を受賞したillyさん。このことはインタビュー記事でも書こうと思うのですが、彼の「冷静と情熱」はすごい。彼は常にキンキンに冷えていて、メラメラ燃えている。その両輪のバランスが整った瞬間、爆発的な力が生まれ、読み手の心を鷲掴みする。アリストテレスよろしく、パトス(共感)とロゴス(論理)がエトス(信頼)を生む。

そしてこの記事はお酒の力を借りて、いつもより情感を躍動させ、〝illy的エモさ〟で鮮やかに「好き」を言葉にする。このしたたかさがキュートなんです。

という、個人的な感想は置いておいて。彼が何に共鳴し、その形ない「好き」をいかに言語化しているのか、ということが気持ちよく整理されたこの記事は一読の価値がある。軽やかに概念を言語化している。「好き」は正義なんだ。そのことを真っ直ぐに教えてくれた。



2.極彩色のこの世界で、私たちは生きるしかないんだ。 

前回、教養のエチュード賞副賞を受賞した秋月みのりさんの作品。森絵都さんの『カラフル』を題材にした物語。これはブックレビューでもあり、彼女の私小説でもある。言葉に宿る正直さと、見事な構成力には惹かれざるを得ない。森絵都さんまで届いてほしい。「あなたの小説を題材にして、こんなすばらしい作品ができましたよ」って伝えたい。良い作品は、次なる豊かな作品の種になる。スターウォーズに憧れた少年が、デザインをつくったり、音楽をつくったり、映画を撮ったりするように。クリエイターの内面に広がる世界の一部となる。

「出会い」というのは決して「人」だけではない。僕も豊かな「出会い」を集めて宝物にしたい。それを形にすることはこんなにも素敵なんだとみのりさんは教えてくれる。

この作品は彼女の中で一つの答えが出たかのような。そんな清々しさが、凛々しい文章で語られている。きっと、「書くこと」で何かを手に入れたに違いない。



3.手のひらに愛 

椿さんの作品。淡々とした文体とは対照的に、この短編小説の中には複雑な要素が絡まり合っている。愛おしさ、恥ずかしさ、いじらしさ、恐怖、希望、絶望、そして儚さ。それは「恋」という形で、その普遍性を物語る。そう、一行ではとても言い切れないから僕たちは小説を書くんだ。そのようなことを改めて気付かせてくれる。

儚さへの美しさ、愛おしさ、恐怖を物語で表現する椿さんの作家性に惹かれる。そのセンスは、椿さんの揺るぎない才能。他の作品も読んでみたい。



4.希望に満ちて 

千ちゃんの作品。人生が変わるほどの出会い。そんな「出会い」を僕たちは人生の中で一体どれだけ体験できるだろうか。ワタナベアニさんとの出会いが千ちゃんの日々に彩りを与えてくれた。これは感謝の手紙でもある。心を込めた「ありがとう」は心の深いところで響く。

読みながら目頭が熱くなるのを感じた。それは「わたしのため」ではなく、「あなたへの感謝」という想いが宿る文章だから。「誰かのため」の言葉は、人の心を動かす。それは本人が思っているよりもずっと強い力で。またnoteという場所のすばらしさを改めて教えてもらった。



5.夜見枯書店カイ想録 

千羽はるさんの作品。ミステリー/サスペンス小説。クラシカルな香り、それはコーヒーの香りに包まれた本の匂いと似ている。文章が情景を描く。人物の息遣いが聴こえる。「言葉」が好きな人は、この文体と世界観の中にずっと漂っていたいと思うのではないだろうか。もちろん僕はそうだった。一行一行が心地良い。文章なのに、映画を観ているようで。まずはその筆力に敬意を。

何よりの好感は、その「ていねいさ」。選ぶ言葉も、表現も、全てに心遣いが行き届いている。心地良さの正体ははるさんの「ていねいさ」にある。この体験をいただけたことに感謝。物語の内容は……ぜひ、あなたにも読んでみてほしい。



6.夜についての詩

成瀬鷗さんの作品。夢と現実の間。それは彼女の美意識で保たれている。彼女はセンスがいい。リリカルな表現で映像を飛ばす。それは花火のようにパチパチと。音と遊び、知性と遊び、退廃と遊ぶ。

「あなたもお好きでしょ?」と囁くような。そのいたずらっぽさは、ゴダール映画に登場するミューズ(ヒロイン)のようで。ちょっぴりなまいきなキュートさが愛おしい。



7.友達のままで 

百瀬七海さんの作品。胸が詰まるような想いを描く恋愛小説。呼ばれる名前に幾層もの感情がまだら模様に現れる。百瀬さんの「言葉」や「物語」に抱く想いは読み手へダイレクトに伝わる。彼女にとって小説は自己表現であり、生きる意味であり、心を磨く大切な宝物。きっと神聖な存在なのだと思う。だから、彼女の言葉や作品には自然と敬意が生まれる。

「言葉」への愛は、文章を書く人間なら誰しも持ち合わせている。その愛に共鳴するだろう。もちろん僕もその中の一人だ。

身を焦がされるようなそのロマンティックは、読み手に特別な感情と体験を与える。




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vol.2へと続く

「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。