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日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略 (光文社新書) 柴田友厚著

産業における日本のお家芸と言えば、まず真っ先に自動車産業が挙げられることが多い。
世界に冠たるメーカーとして君臨するトヨタをはじめ、国内メーカーの存在は日本人のモノづくりを象徴する存在として、国の威信を背負っている印象がある。

しかし、実はそれ以上に世界的なシェアを誇るものづくり産業がある。まさしく"知られざるガリバー"、工作機器メーカーだ。

ふだん消費者の私たちがその存在を意識することがない、陰の功労者として工業を支えている「いぶし銀企業」はいかにして成功を収めたのか。

本書はそんなガリバーであるファナック、文字通りファナックと持ちつ持たれつで共栄したインテルを中心に、1970年代の工作機器、半導体の産業史を振り返りながら、両社の戦略の巧を見ていく。

示唆に富む本書の中でも面白いと感じたのは、工作機器に不可欠なNCに関して、それまで遥かに進んでいたアメリカが、CNCの登場によって後発の日本に一気に後れを取ったということ。
しかも、そのCNCの構造の中で重要なウェイトを占めるMPUは皮肉にもアメリカ・インテル製のものだったのだ。

先行するアメリカは各工作機器メーカーがそれぞれ自前でNC開発まで手掛ける一方、後発の日本企業は比較的汎用性のあるNC部分をファナックのモジュールを採用し、自社の特殊性に特化することで競争力を手に入れた。
生産プロセスにおけるプレイヤーの違いという一見すると些細な違いが、日米の工作機器メーカーの明暗を分けたといえるという。

現金への信用性が高く、金融サービスが充実している日本だからこそかえってキャッシュレス化で中国などに後れを取る、といったような現象とよく似ているあたり、歴史が韻を踏んでいることをよく示していると思う。

また、ファナックにしろインテルにしろ、のちのドル箱となるCNC、MPUは当初、しばらく赤字を垂れ流す新規事業であった。

その間、既存の事業を士気下げることなく牽引し、新規事業にも投資を惜しまないというまさに両刀使いの芸当をやってのけたのは、技術はもとより経営力の賜物でしかない。

テクノロジーはそれさえ優れていれば成功する訳ではなく、優良なマネジメントが噛み合うことで企業はときにスタートアップに負けない力を発揮することを知る、素晴らしい教材である。

#ビジネス   #書評 #本 #ノンフィクション 

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