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9/30 Bs-M サヨナラスクイズについて

ラインアウトにより、打者走者は『アウト』
これが今回のプレイに対する私の考え(判定)です。
その理由について説明していきます。

ルールを考える上で大切にしていること

私がルールを考える上で大切にしている順番は、
『野球の常識やルールの成り立ちがあり、その上に現在の野球規則(ルールブック)がある』という考えです。

この理由は、まず野球規則の文章のみで全てを判断した場合、とても乱暴な解釈をしてしまう可能性があるためです。
例えば、ボークルール。
『投手が走者を意図的に騙そうとすることを防ぐルール』であり、“打者を騙す”とかは関係ないのです。
ただこれを、記載されている文章だけで解釈してしまい、ルールを適用すると問題ない投球までもボークにする恐れがあります。

そもそも、野球規則はアメリカのルールブックを忠実に日本語訳されたもので、かなり原文に近いものの、どうしても100%原文通りの意味で伝えきれないこともあります。
さらに言えば、野球規則に出てくる【注1〜〜】のような文章は、日本の野球規則のみで記載されており、アメリカのルールブックや、その他の国では記載されていない内容となります。

また私の審判人生は少し特殊で、ヒッチハイクを使いアメリカでの審判学校(アメリカの解釈)でスタートしたこともあり、当時(18年前)はルールは同じでも、日米で解釈や適用方法に違いがあり、アメリカの解釈しか知らなかった私は、帰国後に少し戸惑ったことがありました。
※現在はかなり近くなっています。

今回のプレイを見た上での私の見解

そこで今回の映像を見た最初の直感は、ラインアウトで打者走者アウト。
そして何度か映像を見返した上での判断でも変わらず、打者走者アウトと見ています。

もちろん今回の判定が間違っているとかいう訳ではなく、ラインアウトに関してはジャッジメントですので、その場で見て感じて判定した今回の「セーフ」という答えが、試合中での正解であることに変わりはありません!

今回のプレイで「アウト or セーフ」で意見が分かれている理由は、ベースパス(走路)についての解釈が、下記2点のようにあるのが理由かなと感じています。

タッグ行為を避けるために膨らみ始めた位置からベースパス(走路)と考える方。
タッグ行為があった位置からベースパス(走路)と考える方。

私の考えとしましては、上記画像① として見ているため「アウト」と判断しております。
もちろん、野球規則 5.09b(1)に記載されている文章を理解した上での回答です。

理由としましては、まずベースパス(走路)を考える上での“通常の基準”は、塁間を結ぶ一直線のものであり、その直線を中心に左右3フィートにあたる場所が通常のベースパス(走路)と考えます。
ただ『守備をしようとしている野手を避ける場合』や、『ランダウンプレイ』『次塁を狙うために膨らんだ場合』など、その他にも色々と理由はありますが、このような場合に関しては、ベースパス(走路)はその対象の走者と塁を結ぶ直線へと変わる場合もあります。

この上記の内容があり、さらに私がルールを考える上で大切にしている「野球の常識やルールの成り立ち」という部分で、今回の走塁が三塁ゴロの時と同じような「通常の走塁」には見えない。
さらに、ファウルテリトリー側に膨らんでいる走塁が、野球規則に記載されている「打球処理をしている野手の妨げにならない行為」にも当てはまらず、あくまで「タッグ行為を避けるため」にファールテリトリー側に膨らんだと見ました。
また、打者走者以外の走者の場合は、帰塁する可能性やランダウンプレイなどで、その都度、ベースパス(走路)の基準が多少変わる場合も考えれますが、打者走者に関しましては一塁に向かうこと、ましてや今回のような打球の場合は、二塁を狙う為に膨らむことは考えられません。
このような理由をふまえて、「タッグ行為を避けるために膨らみ始めた場所」を基準にベースパス(走路)を考えています。

仮に、上記画像② のベースパス(走路)で考えた場合は、今回のような一塁ライン側の打球の場合、タッグプレイを予想してあらかじめファウルテリトリ側に膨らんで走塁すれば、守備側がタッグすることは不可能に近く、ほぼセーフとなってしまう。
また、今回の走塁はルールブックに記載されています「打球処理をしている野手の妨げにならない行為」とは見えないため「タッグプレイが生じたときの、走者と塁を結ぶ直線」との解釈には至らないためです。

判定する上で大切なこと

そして、判定する上でもう一点重要になってくるのが『選手がどう考えてプレイしたか』ではなく『審判がそのプレイについてどう感じたか』が判定する上で重要になってきます。
よく「そんなつもりはなかった」「一生懸命プレイをした結果」「避けようと思ったが」などのコメントが出たりしますが、判定するのは審判であるため『審判がどう感じたか』が重要になるのです。

今回のプレイは、あくまでジャッジメントであるため、何が正解とかは置いておきまして、野球のルールについて多くの方が関心を持っていただけたプレイであり、ルールってこんなに複雑なんだ。と認識していただけ、とても良かったと感じています!
言いたくはないですが、実はルールに詳しくなれば、選手や監督としてかなり得するルールもあります。笑
もちろんファンの皆さんにとっても、より野球が楽しくなると思います!!

ここまで文章を書くのは少し時間がかかるので、これまではあまりしませんでしたが、今回は問い合わせが多かったことや、SNSなどでは文字制限があり、ざっくりした解答しかできないため、今回は私の考えを詳しく書かせてもらいました。

最後に

私の考えが正解であるって訳ではないので「こんな考えもあるんだ」くらいで考えていただき、今後のルールを考える上での参考程度にしてもらえると嬉しいです!笑

今回は専門用語が多く、もしかしたら難しい内容かもしれません。。
次回以降はもっと噛み砕いて、わかりやすく書きます。
文章のプロではないため、誤字脱字なども多くあったかと思いますが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

◆坂井 遼太郎(さかい りょうたろう)
1985年5月4日、大阪府出身。
高校時代は金光大阪の野球部に在籍。卒業後、審判の勉強の為に渡米し、帰国後、2007年からセ・リーグの審判員となった。最終年となる2018年の在籍12年間で1軍では350試合に出場。17年にはオールスターゲームに出場。
2019年からは、高校野球や東京六大学野球を映像配信する会社に就職し、映像配信以外にも、サッカー本田圭佑と音声サービス立ち上げるなどを経験。
2021年からは「ULALA」を起業し、講談社での新規事業立ち上げや、現在は全国の大学野球を配信するなど、多方面で活躍中。

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