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ファンが集うオンリーワンの火を起こそう

IR系のアドベントカレンダー施策をやるので、一瀬さんもどうですか?」とバシマエさんにお誘い受けまして、参戦させていただきました。

初めましての方も多いと思いますので、少し自己紹介をさせていただきます。私はIR支援会社であるリンクコーポレイトコミュニケーションズという企業で主にセールス部門を担当していますが、もともとはグループ会社であるリンクアンドモチベーションでIR部門の立ち上げを行っていたIR担当でした。大学ではセメントの研究をしていましたが、「もっと目に見えないものを研究したい」と考えてモチベーションをテーマとしたリンクアンドモチベーションに入社。経理財務部門配属となり、数字にまみれているうちにIRという仕事にたどり着き、今は「モチベーション×IR」という新領域を開拓中です。

今日は、4年前にNoteを更新して以来の投稿ですが、よい棚卸し機会としたいと思います。

1.焚火とIR

人を魅了する焚火の奥深さ

突然ですが、IR担当時代に他社のIR仲間に連れて行ってもらったキャンプがきっかけで家族でキャンプにハマっています。
子供のころにはよく親に連れられて山や川にキャンプに行っていましたが、どういうわけかその当時は焚火というものはやったことがなく、IR仲間と行ったキャンプで初めて焚火を体験し、その魅力に心奪われました。当時4歳だった長女もそこに居たのですが、恐る恐る薪をくべながらもジーっと火を見る光景が非日常の体験となっていて、こういう体験をもっとさせたいと思ってキャンプに目覚めていくのです。
(その後キャンプ道具をいろいろと買い揃えていくわけですが、最初に買った道具が、テントや寝袋ではなく、焚火台でしたw)

中途半端な都会暮らしの私にとっては、木に火をつけることさえも新鮮で、木がパチパチ音を立てながら火が大きくなっていく様子は特に好きです。
ゆらゆらと揺れる炎を観察して、じんわりと暖かさを感じる。
薪をくべたり、火吹き棒で空気を入れて火を育てる。
そして火を囲んで仲間と飲み食い、語り合う。そこにしか流れない時間を楽しむ。

焚火の醍醐味、少しでも伝わりましたでしょうか?w

焚火とIRは似ている!?

「この人、IRの企画でいきなり何語っちゃってるの?」と思った方が多数かと思いますので、話をIRに戻しましょう。
実はこの焚火とIRは似ていると私は思うのです。こじつけと思われるかもしれませんが、焚火をIR活動と重ね合わせていくと、いろいろと合点がつくことがあるのです。

私がIR部門に配属された当初の自社の時価総額はおよそ100億円でした。
およそ3年の間に時価総額は1400億円ほどになったわけですが、そのプロセスで感じた投資家の期待感の高まりが、焚火の火がついて大きくなっていく感覚に似ているのです。

今回のNoteでは、この焚火のメタファーでIRを考えていきたいと思います。

企業価値の正体は、「期待」という名の炎

企業価値を高めていく(≒時価総額を高めていく)ためにIR活動が行われていくことが一般的ですが、企業価値とは一体何でしょうか。

Wikipediaには「企業が持つ有機的一体としての事業の価値を金額で表したものをいう。法人の事業実体がつかみにくく、かつ、営む事業の特性に応じた評価が必要となることから、企業価値を一義的に決めることは非常に難しい。」とありますが、結局のところ何なのかよくわかりません。

「会社全体が持っている経済的価値」と表現することが多いですが、その企業が持つ資産や資本の状況から算定する方法や、将来キャッシュフローから計算する方法などがあります。いずれの方法でも完全に経済合理的に判断することは難しく、非財務部分や未実現な未来の部分については評価者の「皮算用」が加味されることになります。
要は、「今見えている価値」に、「見えていない価値を上乗せしている」といえますし、それは「市場の認識者」に依存しているのです。見えている価値は合意形成しやすいですが、見えていない価値は、認識者次第で全く理解が変わるのです。

これは、特に上場前と上場後で顕著に違いが出ます。
上場前は、企業価値を算定する比較的合理的な評価者がいるわけですが、上場後は無数の認識者の総意である「株価」というもので表現されます。上場前の評価と上場後の評価が全く違うことが起きるのはこのためです。
つまり、企業価値(狭義の意味で時価総額)は、市場の無数の認識者の認識や気持ち次第であり、誰からも認知されることがなければ、どれだけキャッシュフローを生んでいても、優秀な人材や知的資本を抱えていたとしても、企業価値は低い評価になる、と言えます。

そのように考えると、企業価値とは何とも空虚なもののように感じられてしまいますが、逆に言えば、「見えていないのに上乗せできるのはなぜか」を考えていくことにヒントがあるようにも思えるのです。ここに企業価値の本質があるように思います。

それこそが、「期待」なのではないかと思います。

「期待」とは「待ちたい」という気持ち

IRに携わる多くの方が仰るように、企業価値の本質は「期待」にあると思うのですが、では「期待」とは何でしょうか。
「期待(expectation)」という言葉の意味を調べてみると以下のように記載があります。

・「期待」
何らかのことが実現するだろう、と望みつつ待つこと。また、当てにして待つこと。
・「expectation」
「外を(ex-)見て(specio待つこと-tio)」
Wikipedia
語源英和辞典

このことから、「未実現な何かが起きることを、待ちたいと思ってもらえるかどうか」がIR活動の本質といえるのではないでしょうか。

つまり企業価値は「期待」という炎。ここで焚火の話とリンクしていくのですが、IR担当は、期待の炎を育てていく火起こし番長ともいえそうです。

「きっといいものが見れるにちがいない」
「一緒にこの火種を大きくしたい」という気持ちを資本市場と育むことがIRにおいては大事だと私は思います。

2.焚火(IR)はキャンプ(経営)に必要か

目的なき焚火に火は灯らない

IR支援者に転身して、多くの企業の方々とIRのお話をさせていただきました。企業の規模や成長ステージによってIRのテーマや考え方は様々ですが、企業経営の中でIR活動のプライオリティはまだまだ低いと感じています。

IRはステークホルダーとのリレーション構築の一種だと思いますが、ほかのリレーション構築活動である、営業やマーケティング、採用活動などと比較しても、その企業投資の割合は非常に低いと言わざるを得ません。

それはなぜか。これは私見ですが、IR活動の意義や目的が不明瞭になりがちだからではないかと考えます。キャンプでいえば、「まぁ別に焚火しなくても楽しいからいいんじゃない?焚火があってもいいけど、わざわざやる?」という感じでしょうか。

残念ながら、そのようにIRを捉えている企業は少なくないと感じます。

上場企業はソロでは生きていけない

実現したい大業や社会的なインパクトがあって企業はそれぞれ経営(キャンプ)をしているはずです。
その実現の道筋やロードマップとして、焚火の炎が必要かどうかが論点になろうかと思います。

ここまで、焚火の炎は「期待の炎である」という話をしてきました。
では期待が高まると何が嬉しいのか。それは「経営の選択肢与えてくれるファンが増える(経営の自由度が広がる)」ということではないかと思います。企業経営に共感し応援してくれるファンステークホルダー(ファン投資家)が様々な関わり方で支えてくれるのです。

最もわかりやすいのは、投資という行動で、株価を支えてくれることでしょう。時価総額が高まればそれだけファイナンスの選択肢も広がるわけですし、何か経営に変化が生じたときにも、変わらず支援してくれる可能性があります。また、熱心なファンは経営にフィードバックをしてくれます。激励の声もそうですが、「もっとこうしてみてはどうか?」という提案やアイディア、情報を提供してくれるのです。まさに企業経営の応援団です。こうしたファンの存在が、資金に留まらず、情報やアイディア、あるいは勇気を提供してくれるのです。これが期待という名の資本市場からのプレゼントなのだと思います。パーパスの実現に向けて、こうしたプレゼントを獲得し続ける経営を目指すかどうかが、大きな分水嶺なのではないでしょうか。

逆に、ファンが少なく、経営に共感されない企業は淘汰されていくことでしょう。企業の評価軸は多面化・多様化しているので、「今見えている価値」だけを伝え続けていても、なかなか評価はされません。昨今のサステナビリティシフトの流れを踏まえても、持続的経営の実践を訴求し、ステークホルダーの共感を創造していかなければ投資家だけでなく、消費者や取引先、社員や採用応募者にも愛想をつかされてしまいます。そういう意味では、上場しているパブリックカンパニーはソロでは生きていけませんし、IRはもう「投資家向け」だけのものではなく、「オールステークホルダーのため」のものになってきています。(新卒採用応募者である学生も、最近は統合報告書や中計などのIR資料に目を通して面接に臨む学生が増えてきた印象があります)

焚火をする目的はファンの創造

このように、IRで期待の炎を燃やしていく目的は、ファンの創造だと思います。それは、中長期的に何があっても応援してくれる相思相愛のパートナー獲得であり、資本市場から得られる自由の総量を高めることであり、まだ見る未実現な夢を共に歩む仲間集めと表現してもよいでしょう。

そのように経営におけるIR活動を捉えなおすと、決算説明資料の作成で手一杯になっていては勿体ないのです。業界横並びを気にして、「そろそろ私たちも・・」と正解探しの情報開示を進めていくだけがIRではないのです。

・私たちのファンは、何に期待して応援してくれているのだろうか
・どのような対話やコミュニケーションがファン創造につながるだろうか
・ファンからの苦言やアドバイスを踏まえて、社内をどう動かすか
・自社の期待認識(リスクも含めて)と市場の認識のGAPをどう埋めるか

こうしたことに時間やリソースを投入してもらいたいものです。

IR担当の役割定義を変えるのであれば、
「情報開示担当」ではなく、「ファン創造プロデューサー」として社内外に影響力を発揮してほしいと願います。そうすれば「どう開示するか」というよりも「資本市場のファンに応える企業をいかに創るか」という会社の変革者の視点で、市場と対話し、経営や現場へのアプローチ・対話も増えていくはず。

オンリーワンだから、ファンになる

では、ファン創りにおいて何が大切か。
それは「独自の魅力を、本音で語る」ということかと思います。

統合報告書などで活用される開示ガイドラインが昨今乱立しています(一応統合されていく流れにはなっています)が、単純にそれに沿って形式的に開示してもファンの心に届くことは部分的です。(もちろん統合報告書やESG情報などの開示は、企業情報の見える化であり、比較可能性のあるデータ情報の公表という意味があるので、投資家にとって有用であると考えています。)

大切なことは、企業に語りたいことがあるかどうかです。
こういう部分を見て、ファンになってほしいという気持ちを告白し続けることにあるのではないかと思います。

企業のIRページや任意開示のIR資料を見ても、「社名隠せばそのまま他社のIR資料に使えるんじゃないだろうか?」と思われる内容を目にすることもあります。トップメッセージといいつつ、おそらくIR担当者が書いた文章なんだろうなと想像してしまうような情報開示も散見されます。
そういったニュアンス含めて、投資家たちには伝わっていると思います。
これは決してIR担当だけの問題ではなく、経営が資本市場とどう向き合うかの問題であり、会社全体のテーマであると思います。

こうした点も踏まえて、市場と対話して「このメッセージは、私たちにしか語れないよね」「ファンが待っているのは、こういうことなんじゃないか?」という議論を社内に巻き起こすような、そんな火種をまず投げかけていくことがIRの醍醐味なのではないでしょうか。

そう考えると、IRは、万人ウケを狙わなくてもいいのかもしれません。
サステナビリティの観点では、より広いステークホルダーへのバリューを踏まえる必要がありますが、ファン投資家は、もっとコアな繋がりであってもよいと思います。

3.オンリーワンの火で、輝く日本経済を

焚火という切り口からIRを考えてみる企画、いかがでしたでしょうか。
せっかくの機会だったので、私ぐらいしか書かないだろうオンリーワンの内容で編集してみました。

最後の結びとして、想いを綴りたいと思います。

日本の労働力人口は減少を続けています。
これはおそらく不可逆的な流れでしょう。
それでも、ここまで受け継いできた経済や文化は後世に残していきたいと思います。
であれば、人口が減っても、キラリと光る豊かな国であってほしいと思うわけです。

一方、日本には外国資本が多く入ってきているが、
個人の資金の投資先は日本企業ではなく、外国株や外貨に流れています。
国内投資といってもインデックス投資やパッシブ投資も多く、
個別の日本企業への期待は高くない。
円安や、米国金利の動きなどがあり、そのような動きになるのは
合理的にはわかります。
しかし、「それでよいのか、日本!」とも思うわけです。

私は、日本の個人ひとりひとりが、
この国の経済にもっと期待し、応援したい企業であふれている未来を創っていきたい

日本に眠る個人の金融資産は2000兆円とも言われており、
この資産が、「日本の未来にきっと何かが起きるに違いない」と信じて
企業の価値創造のドライバーになっていけば、この国の未来はもっと明るくなるでしょうし、後世に伝えていきたい経済にできるのではないかと思うのです。

そんな可能性が、IRには秘められていると思います。
IRのモチベーションが高まれば、この国は変わっていく。
本気でそう思っています。
IRに関わる方々がTwitterでお見かけすることも増えてきましたし、
こうした企画で盛り上がっていくことは、非常にポジティブなことだと思います。
ぜひ引き続きこのIRという領域を一緒に盛り上がっていければと思います!

IR系アドベントカレンダー、次はアピリッツCFO 永山とおるさんです、宜しくお願い致します!

#IR系AC

リンクアンドモチベーション初のIR専任担当として2年で株価10倍を経験し、全社MVP受賞。同社IR・PR責任者を経て、リンクコーポレイトコミュニケーションズ(LCI)マネジャーとしてIR支援者に。IRの常識を変える。Twitter→@1nose_Ryotaro