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幹が育まれ、実を結ぶ 〜永武幹子×加納奈実『Jabuticaba』リリース記念Interview〜

近年、国内ジャズシーンで精力的に活動し、その名前をいろいろな所で目にすることが多い2人、永武幹子(ピアノ)と加納奈実(サックス)。

永武幹子(ピアノ)


加納奈実(アルトサックス、ソプラノサックス)

音楽的嗜好で深く通じ合う2人は、たびたびデュオで演奏活動を続け、デュオの名を「Jabuticaba」(ジャボチカバ)と名付けて、東京近郊だけでなく、加納の地元である名古屋へも演奏を重ねて、さらに熟成させてきた。
そしてついに、2月10日にOWL WING RECORDからデュオ名を冠したアルバム、『Jabuticaba』をリリースした。

アルバムから1曲、“Samambaia”が視聴できる。

今回のアルバムリリースで、さらに注目度が高まる2人にインタビューを敢行。作品についての事、それぞれの演奏についての事など、いろいろとお話を聞いてみた。

「Jabuticaba」のオリジナリティ

-デュオで演奏するようになった経緯を教えてください

(永武)2017年の10月に小岩COCHIのマスターがデュオでブッキングしてくださって、それが初対面&初共演でした。
(加納)そのあと、新宿Polkadotsの順子ママが「好きな人とブッキングしていいよ」と言ってくれた事がキッカケで、また共演したいと思っていた幹子ちゃんにオファーしました。
(永武)そのライブが2017年12月くらい。そこからちょくちょく一緒に演奏するようになりました。

-初めて、または共演して間もない頃のお互いの演奏の印象はどんな感じでしたか

(加納)人柄も演奏もハッキリしていて、ダイナミック!
(永武)サックスの方とあらゆる場面でデュオでの共演機会をいただいてきたのですが、その中でも奈実さんは楽器の巧さはもちろん、アドリブのアプローチと選曲が独特で、私の好きな感じだなぁと思っていた気がします。

-当初はスタンダード曲や他ミュージシャンの方などの楽曲中心だったのでしょうか

(永武)2人の曲の好みが似ていて、カーラ・ブレイやウェイン・ショーターの曲をよく演奏していました。
(加納)デュオで演奏したショーターの曲はたとえば、“Miyako”や“Beauty & Beast”、 “Aung San Suu Kyi”などですね。初共演の時から好きなミュージシャンが似ていたので、お互いの好きなミュージシャンの曲が多めで、オリジナルも持ち寄っていました。いわゆるスタンダードと言われている曲はほとんどなかったですね。
(永武)カーラ・ブレイやウェイン・ショーター以外だと、スティーブ・スワロウやアントニオ・カルロス・ジョビンなどですね。何回目かのライヴ後に奈実さんが、「こんなにマニアックな曲で好みが合うというのは、特に同世代ではなかなかないことだから、こういう繋がりは大事にしたほうがいいと思うんだよ!!」と言ってくださったのをよく覚えています。
あ、これはバンドになるんだろうな〜!と思いました。

-共演当初から、音楽観がピッタリとハマったんですね

(永武)今振り返ると、本当にそうですね。最初のうちは1setに1曲はスタンダードを入れることもあったのですが、スタンダードに関しては、スッとこの曲を演奏しようと意見がまとまることは少なくて(笑)、ここ2年間くらいはこのデュオでスタンダードは全くやっていません。
それはおそらく私と奈実さんのバックボーンの違いかなと思います。私はジャズ研出身(早稲田大モダンジャズ研究会)で奈実さんは音大(名古屋音楽大学)出身なので、よく演奏するスタンダードナンバーが異なっていたからだとも思います。
オリジナルを演奏するようになったのはここ1〜2年ですね。お互いの曲を難しいと言いながら演奏しています(笑)。

-今回のアルバムを拝聴すれば、独自の世界観をお待ちだという事が明確にわかりますが、このデュオの演奏には理想形というか、モデルになったアーティストや作品はありますか

(永武)このデュオを“意識している”というのは特にありません。
例えば、カーラ・ブレイの曲を演奏する時はカーラやアンディ・シェパードの音を聴いてそこから採譜して演奏するので、彼女らの音は少なからず私たちの頭の中にはありますが、そこに固執したり逆にそのサウンドから無理に離れようとするようなことはないような気がします。
(加納)私も同じく、モデルになったものは特にないですね。最初の頃から幹子ちゃんの音の中で演奏するのが心地良くて、回数を重ねるうちに2人のサウンドがブレンドされて、自然と出来上がっていきました。

「Jabuticaba」という名前に込めた想い

-「Jabuticaba」(ジャボチカバ)とは、ライナーに書かれている通り果実の名前ですが、 なぜ、この名前にしたのでしょうか。なかなか聞き馴染みのない名前で印象に残る、というか、最初何と読むのか戸惑いました(笑)

(永武)思わず言いたくなるバンド名がいいなあと考えていて、最初はレストランで「ボッコンチーニ」(ひとくちサイズのチーズ) を候補に挙げたのですが、奈実さんに即座に却下されてしまいました(笑)。

-そんな紆余曲折があったとは。
ボッコンチーニは確かに却下で正解だと思います(笑)

※ボッコンチーニ参考画像

(永武)その後、奈実=なみ=Waveだから…とか名前を軸に色々考えていて、ある晩に “実”と“幹”でGoogle検索したら “Jabuticabaジャボチカバ)’”が出てきました。木の幹からそのまま実がなる果実の名前で、語感も良かったので奈実さんに提案したら賛成してもらい、この名前に決まりました。奈実さんの漢字がよく“実”ではなく“美”に間違えられるということもあったので。漢字も覚えてもらえるし、ちょうどいいね!と話していました。

・ライナーにもイラストを提供している、ドラマーの木村紘さんによる、ジャボチカバのイラスト

作曲やデュオでの演奏について

-それぞれの楽曲が2曲収録されていますが(永武さんは“桜東風”、“Along with You,Sunnyman”、加納さんは“Foggy Mind”、 “Mysterious Dress”)、永武さん、加納さんが作曲される際の主なインスピレーションはどういったものが多いでしょうか
例えば、日常生活の出来事、映画や本などからの影響など、さまざまあると思いますが

(永武)色んな場合があります。
一時期は家でよく映画を観ていて 。特にユダヤ関連のもので、具体的に作品名を挙げると『ライフ・イズ・ビューティフル(1999年)』『戦場のピアニスト(2002年)』 、『アドルフの画集(2002年)』 ですね。感情がぐちゃぐちゃになったところでピアノに向かって即興的に弾いて、それを録音したものの中から良いモチーフを抽出して曲にしたりとかしていました。
また、日常生活の中 からピンときた情景や言葉などはiPhoneのメモに書き留めていて、気が向いた時に見返して曲にしたりしています。リズムやハーモニーから作ることもあります。
駄洒落から作ることも多いですが、それは早稲田ダンモ研出身の性(さが)なんだと思います。

-駄洒落ですか。早稲田のダンモ研はそういう伝統があるのでしょうか

(永武)駄洒落好きの方が諸先輩方にも多いので(笑)。
今回の収録曲だと、“桜東風”はいつもと違うような曲を書きたくて、タブラのリズムを参考にしてそこから曲ができ、“Along with You, Sunnyman”はスティーヴィー・ワンダーのような楽しい曲が書きたくて作曲しました。
“Along with You, Sunnyman”を書きたくなった3日後に奈実さんとのライブがあったので、奈実さんのサックスの音をイメージして書きました。
(加納)私は映画や本からの影響もありますが、日常生活の中から生まれることの方が多いかもしれないです。ふとした時にメロディが出てくる事もあれば、“Foggy Mind”のように感情を曲にしたものもあります。

-このデュオで特に意識している演奏面の取り組みはどのような点ですか

(加納)演奏する時はいつもバンドの刺激になるプレイをしたいと思っているので、このデュオでも景色が変わったり色を濃くしたりと、変化をつけられるような演奏がしたいなと思っています。どんな曲でもワクワクしたい。びっくりしたり、スリリングだったり、キュンとしたり、色んな「Jabuticaba」でいたいですね。
(永武)自分が好きな、ちょうどいい温度感 (湿度感?) にすることですかね。
「Jabuticaba」のライブではカーラ・ブレイによるアレンジの“Lost in the Stars”などのロマンチックな曲を取り上げたりするのですが、甘すぎな感じで意味ありげに演奏してしまったりすると、あとでプレイバックを聴いた時にどうも押し付けがましく聴こえてしまい納得できないので、それはちょっとだけ気をつけているかもしれません。そういった点では、個人的にはカーラ・ブレイのあのぶっきらぼうだけど、ジーンとくる音を理想としているかもしれません。

あとはとにかくグルーヴィーに!!といつも思っています。

・「JAZZ SUMMIT TOKYO」での演奏動画

今の私たちをギュッと詰め込んでます!

-加納さんはアルバムで楽曲によって、アルトサックスとソプラノサックスの使い分けをされていますが、それは最初から、その楽器を想定していた楽曲だったのでしょうか、それとも演奏するうちに、今回の使い分けに至ったのでしょうか

(加納)どちらもあります。「これは奈実さんのアルトサックスで聴きたいです」と幹子ちゃんが言ってくれた曲もあれば、演奏していくうちに 「やっぱりソプラノサックスだな」と決まっていった曲もあります。
曲に、よりピッタリと合って、良さを引き出せる方を選びたいといつも思っていますね。

-永武さんから指定があったのはアルバムではどの曲でしょうか?

(加納)幹子ちゃんから指定のあった曲は、彼女のオリジナルです。“桜東風”はソプラノ、“Along with You, Sunnyman”はアルトで!と決まっていました。私もしっくりときています。

-今回のアルバムで、特に注目してほしい点はありますか
演奏面、楽曲面、アートワークなど、どんなことでもかまいません

(永武)個人的には“What Kind of Fool am I ?”のテイクが気に入っていて、是非じっくり聴いてほしいなと思います。奈実さんの音が本当にいい音!
あと、“Foggy Mind”はミキシングの時にエンジニアさんにお願いして、ラジオ風に仕上げました。

-あのアレンジ、やっぱり意図的に昔のラジオ風だったんですね

(永武)次の“Mysterious Dress”とメドレーで録音したのですが、その繋ぎ部分で音を戻してもらい、“Foggy Mind”の霧が晴れるような雰囲気にしてみました。 アートワークも2人で喫茶店に居座って(笑)、写真の選定やページの割り振りなど、あれやこれやとこだわりました。奈実さんの1人称は “わたし”で、私の1人称は “私”になっているのも、こだわりポイントの1つです!本当です(笑)!

-あ、1人称の違い、気付きませんでした(笑)

(加納)どの曲も2〜3テイク以内で決めている事もあり、今の「Jabuticaba」が凝縮されています。
ライブを目の前でしているような2人の音の会話を楽しんで頂きたいです。幹子ちゃんからも先ほど説明があったように、曲の説明、ユニット名の由来など、2人の言葉を大切に紡いだブックレットもぜひ読んでほしいです。

-ライナーもレイアウトの細部に至るまで、お2人のこだわりをとても感じます。それでは最後にアルバムをこれから聴く方、ずっと応援してくださっているファンの方々にそれぞれメッセージを!

(永武)今現在の私たちの音をギュッと詰め込んだアルバムになっています。この1stアルバムのリリースを1つの基点として活動の幅をどんどん広げていきたいと思っておりますので、 どうぞ今後とも「Jabuticaba」にご注目ください!
(加納)演奏活動を始めた頃から応援してくださっている方には 「お待たせしました!」、そしてこれから聴いてくださる方には「はじめまして!いつかお会いできたら良いなぁ!」という想いが込められています。
このご時世、まだまだライブには行きにくいなぁという方にも、お家でワクワクするような、楽しい時間のお供になれたら嬉しいです。

インタビューは以上です。
永武さん、加納さん、アルバムリリース直後のお忙しい中、ご協力ありがとうございました。
このアルバム、ありきたりなジャズ(ってなんだ!?)からは得られない刺激的な音と、お2人の自由奔放な語らいが面白くて、聴くたびにじわじわと面白さが滲み出てきます。
このアルバムを引っ提げて、今まで以上に色々な所へツアーへ向かう「Jabuticaba」(ここまで読んだ方、もう読み方は覚えましたよね!?)、私も早くライブで体感したい!

〈『Jabuticaba』リリースツアーInformation〉

・2021年4月2日(金)
新宿 Pit inn
http://pit-inn.com/

・2021年4月28日(水)
京都 Bons Rosary
https://bondsrosary.com/_m/

・2021年4月29日(祝・木)
神戸 Born Free
https://www.bornfree-kobe.com/

・2021年4月30日(金)
名古屋 The Wiz
https://www.wizjazz.jp/

・2021年5月1日(土)
岐阜 Island Cafe
https://gifu-islandcafe.com/

・2021年5月3日(祝・月)
江古田 そるとぴーなつ
http://salt-peanuts.music.coocan.jp/

※詳細は各店舗へお問い合わせください

〈OWL WING RECORD 『Jabuticaba』リリースPV〉
スタジオライブや、OWL WING RECORD代表の荒武裕一朗さんとの対談も収録されています。

〈『Jabuticaba』CD販売情報〉

・Amazon

・タワーレコード

・HMV


<アーティスト公式サイト>

・永武幹子


・加納奈実


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