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それぞれの歴史が奇跡的に集まった結晶 ~西口明宏『FOTOS』リリース記念Online Interview~

自身のリーダー作として、これまでに
『Tre agrable』(2010年)、『PINGO』(2013年)とリリースしてきたサックスプレイヤーの西口明宏さん。

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西口明宏さんホームページ


『PINGO』発売以降、様々な形態の演奏活動で多方面から多くのオファーが絶えず、久しくご自身のリーダー作の発表はありませんでしたが、2020年8月に久々のリーダー作『FOTOS』を発表。しかも個人名義ではなく、「Akihiro Nishiguchi Group」名義という事からも、バンドでの活動に対する強い想いを感じます。

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『FOTOS』Akihiro Nishiguchi Group
(Member)
西口明宏…Sax,Flute
ジェームス・マコーレー…Trombone
ハクエイ・キム…Keyboards
マーティ・ホロベック…Bass
吉良創太…Drums

(Guest)
メリンダ・ダイアス・ジャイアシナー…Vocal

『FOTOS』と名付けられた、このグループの姿を捉えたアルバムの魅力をさらに知るために、今回、西口さんにオンラインインタビューを敢行しました。

下記インタビュー記事となりますので、ご拝読いただけたら嬉しいです。


『FOTOS』誕生の経緯

-そもそも、“FOTOS”とは。
まさに「写真」と言う意味でしょうか。
このアルバムタイトルは 収録曲のタイトルでもありますが、どういった意味合いを込めているのでしょうか。

“FOTOS”は人工言語であるエスペラント語でPhotos=写真という意味です。 僕は エスペラント語を全くしゃべれないし、合っているのすら不明ですが(笑)、エスペラント語って、綴りや読みがユニークなんで、たまに曲名で使っています。
僕はあまり曲名に意味合いをつけないことが多いのですが、ちょうどこのアルバムが出来上がった頃に自分の幼少期の頃のフォトアルバムを見る機会があって。何か自分の歴史みたいなものを感じたんですよね。
このフォトアルバムの先に自分がいて、仲間であるミュージシャンと出会い、音を出す。出会ったミュージシャンの方々にも、私と出会うまでにそれぞれの歴史があって。そしてそれぞれが奇跡的に集まって、今こうやって一緒に音を出して演奏している。そういった事を考えていたら、ジャズのアンサンブルって、みんなの今までの写真を集めたモザイクアートみたいだなと思って。
だから、“Photo”というキーワードがしばらく頭にあったんです。

-確かに語感が印象深いですし、お!何という意味なのかな?と私みたいに引っかかる(笑)方もけっこういらっしゃるかもしれませんよね。
写真から人それぞれの歴史を感じて、その先が見えてくるというのは面白いインスピレーションですね。
このアルバムを作る構想はいつ頃からあったのでしょうか。

アルバムの構想は結構前からありました。2〜3年くらい前ですかね。 2018年の12月だったと思います。
アポロていう下北のすごい雰囲気の良いライブハウスがあるんです。

<下北沢APOLLO ライブスケジュール>

ここをホームのようにライブをさせてもらっているんですが、そこで初めて、トロンボーンのジェームス・マコーレーがまだ加わっていなかったカルテットでライブをやったんです。それがもう楽しくて!なんかたまにあるんですよね、これはやらなあかんな。って思うバンドが。
それでこのアルバムの構想が一気に前に進んだ感じです。このバンドでアルバム作るぞっ!と思いました。
もちろんそのままじゃ納得がいかなかったので、 数ヶ月曲書いたりなんやら色々試している時にジェームスがライブに遊びに来てくれたんです。
その時は彼と飲んだだけで、ジェームスは楽器も持って来ていなかったから、音も聴いてなかったんですけど、めちゃユニークなやつで(笑)。
面白いことになりそうだと直感して、それで彼を加えて後日クインテットでやってみたんです。そしたら、さらにこれやらなあかんわっ!!てなったんです(笑)。


-西口さんの思い描くピースが集まっていく感じですね。

その時々の感覚が曲を作る

-今回のアルバム、どの曲ももちろん、聴きどころだと思うのですが、あえてアルバムの核、中心となるような曲を選ぶとすると、どの曲でしょうか。

アルバムタイトル曲の“FOTOS”は、結構初めの頃に書いた曲の断片だと思います。


“FOTOS”


“The Bench”が完成したのが一番最近ですね。

“The Bench”


ゲスト参加のメリンダ・ダイアス・ジャイアシナーに歌を入れてもらったのが、バンドで録音した後でしたから。一応、私はその時々の感覚が曲を作っていると思っているので全部ですかね(笑)。
うーん、でも、ただあえて選ぶとするなら“Mangrove” かなぁ。やっぱり元気が一番です(笑)。

“Mangrove”


メンバーの“格好良さ”を伝えたい

-アルバム全体を聴いて思ったのは、もちろん西口さんのリーダー作ですが、特にそこが強調されているというわけではなく、それぞれのメンバーの持ち味がバランスよく出ていて、バンドの一体感を感じるサウンドだと思いました。それは狙っていたのでしょうか。
それとも結果的に自然とそうなったのでしょうか。

みんな凄腕ですからね、僕なんかを強調する方が難しいです(笑)。
ただこのアルバムを制作する上で気付いたのが、
自分は曲を書くのがめちゃ好きだな、と。周りにすごい作曲家がたくさんいるので、なんとなく自分の曲には自信が無いところがあったんですけど、曲の良し悪し関係なしに、曲を書いている時は没頭できているんですよね。それって結構好きなんやろなと。じゃあそれに関してはワガママ言ってみようと。私が不器用なので、多々ある変更で、メンバーにめちゃ迷惑かけましたし、わけわからんことばっかり言うてましたが、それに対して、メンバーみんなが意見をすごく出してくれて、本当よく付き合ってくれたと思います。それもあってみんなに、格好良くなってもらいたいという事は思っていました。



-西口さんが、メンバーそれぞれの格好良さをこの作品で伝えたいとの事ですが、西口さんから見た、メンバーそれぞれの“格好良い点”または“興味深い点“を紹介していただけませんか。


・ハクエイ・キム…ピアニストとしての彼をイメージされる方が多いと思いますが、元々キーボードプレイヤーでもあるハクエイさんは、僕のグループではキーボードとアナログシンセサイザーをメインに弾いてもらっています。
ハクエイさんはすごく“おちゃめな人”なんです。
その見た目からは想像できないアブノーマルな世界観を持っていて、僕はそれが大好きなので、出来るだけ自由にやってもらいたいなと思っています。
たまに喧嘩したりすることもあるのですが(笑)、僕の悪いところも良いところも言ってくれる、とても信頼している兄貴みたいな人です。
・ジェイムス ・マコーレー…彼は本当に面白いやつで、いつも“しょうもないこと”ばかり言ってるんですが(笑)、その音楽性は本当にいつも刺激的で、彼との演奏はいつも背筋が伸びるような気持ちになります。
いつもおちゃらけていますが、実は人一倍繊細で。そんな彼らしい魅力が詰まった音は、いつ聴いてもとても魅力的です。ボーカリストでもあるジェイムスの音は“その瞬間のすべてが正解になる”マジカルな音で、いつも羨ましく思っています。
・吉良創太…吉良君は、このバンドで一番大人かもしれないですね(笑)。繊細かつワイルドな彼らしい音でバンドをサポートしてくれて、無理難題にもいつも笑顔で答えてくれて、とても頼もしく思っています。めちゃくちゃなノリのこのバンド でも、いつも優しく見守ってくれている“お母さんみたいな人”です。
10月末から11月頭にかけてこのバンドのツアーがあるので、彼の新たな一面が見れるのを個人的にとても楽しみにしています。
・マーティ・ホロベック…最年少とは思えない包容力と経験値の高さ、素晴らしい音楽力、そして何よりその明るいキャラクターのマーティは、このバンドには欠かせないムードメーカーです。どこに行っても人気者なのも頷けます。メンバー全員そうなのですが、彼の出してくれるアイデアにはいつも助けてもらっています。今回はミックス、マスタリングでもとても助けられました。
エレベとウッドベース、そして空間エフェクトも操り、バンドのムードを支えてもらっています。


聴き流す感じで聴いてほしい

あと、今回のアルバムを、なんか聴き流すみたいな感じで全体の雰囲気を聴いてもらえばなぁとも思います。

-え!?聴き流す感じですか!?

はい、ぼんやり景色を眺めるみたいに。
そしたら何かこの音やグルーヴかっこええなーとか、気づいたらどれかの曲のフレーズを口ずさんでたり。そんな、もっと質感、触感みたいな所をを聴いてもらえたら嬉しいですね。

-なるほど、最初は全体を聴き流して、後になってから耳に残る曲の魅力を深掘りしていく聴き方も面白いかもしれませんね。実際、アルバムはバラエティ豊かな楽想なので、色々な音楽嗜好の方の心に引っ掛かるフックが散りばめられていると思います。


試行錯誤から次の展開へ

-少し気が早い質問かもしれませんが、次作はこんな作品を作りたいなぁとか、このグループでの構想などは何かありますか。

今回の作品はこれからのスタートライン的な作品なので、この作品の延長になるような作品をまず作りたいなと思っています。あと、このグループだけでの構想ではないのですが、今いろいろな案を考えていて、その一つとして映像作品として何かできないか最近模索中です。


-映像作品!それは興味深いですね。以前、ハクエイ・キムさんと服部正嗣さんと映像作品を発表されていましたよね。

PVというよりもう少し作品的なMVを作れないか模索中です。もちろん『FOTOS』のMVも考えています。最近、映像作家の友人で『FOTOS』のジャケット写真を撮影してくれた小林崇臣といろいろ実験してる感じですね。フリー、即興音楽でも映像が入るだけで急に印象がポップに変わるので、それをうまく作品にできれば、もう少し四次元的にできるかなと思いまして。


-その試行錯誤から、新たな発想が生まれそうですね。

試行錯誤というか、遊んでるだけですが(笑)。


-そういう遊びというか、リラックスした感覚から、何か新しいアイデアが出そうですし(笑)。

そうですね(笑)。あとは来年、頑張って何かまたアルバムを作れればと思っています。『FOTOS』のメンバーで作るか、別のグループかまだわかりませんが、何か次に繋げたいと思っています。

-これからの活動、作品も楽しみにしています!

インタビューは以上です。
西口さん、ご協力ありがとうございました!
今年数多くリリースされたアルバムの中でも、ひと際斬新なアプローチと高い完成度を誇るアルバムとなっていますので、今回のインタビューや、その他媒体の記事を読んでいただきながら、西口さんの音楽観、そして『FOTOS』のサウンドをさらに深く聴きこんでみてはいかがでしょうか。

Akihiro Nishiguchi Group『FOTOS』


西口明宏『FOTOS』他メディアでの紹介記事


Mikiki


Arban

・The Beat Goes On









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