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“今を生きるストレートアヘッドジャズを” ~小沢咲希『Cheers!』リリース記念Interview~

東京を中心に活躍中のジャズピアニスト、小沢咲希

洗足学園音楽大学ジャズコース在学中から活動を開始、卒業後も順調にキャリアを重ねてきた。
2023年3月にはポーランドへ渡り、現地のミュージシャンと交流するなど、今後の国際的な活躍も期待されている。

・東京日本橋浜町「dinning SESSiON」でのソロピアノパフォーマンス

明るくスウィンギーで、力強いピアノに筆者も前々から注目していたが、ついにその本領を発揮した、記念すべきファーストアルバム、『Cheers!』(リボーンウッド RBW-0027)が2023年6月7日にリリースされた。

小沢咲希『Cheers!』アルバムジャケット

〈アルバム収録曲〉
1.Introduction
2.Poppin’
3.Stella By Starlight (Victor Young)
4.Serendipity
5.Something Like That
6.My Old Granddad
7.I Wanna Be A Duck! (作詞作曲 : 小沢咲希)
8.M’s Mark
9.Time After Time (Jule Styne)
10.Dear Gene

※3,9曲目以外、小沢咲希オリジナル曲

〈Recording Member〉
小沢咲希
…Piano
安田幸司
…Bass on 1,4,5,7
粟谷巧
…Bass on2,6,8,9,10
柳沼佑育
…Drums
Ema
…Vocal on 7

安田幸司栗谷巧という腕利きのベーシストを曲によってそれぞれ起用し、ドラムスには稀有なジャズフィーリングを持つ柳沼佑育が担っている。
また、小沢の作詞曲が1曲収録されているが、その曲にはヴォーカリストのEmaが参加し、花を添えている。

非常に注目を集める今回のアルバムリリースを記念してのインタビューを企画したところ、その取材に小沢が快く応じてくれた。
彼女のジャズピアニストとしてのルーツから、
もちろん初リーダーアルバム『Cheers!』について、そして今後の展望などを大いに答えてくれたので、ぜひご拝読を。

ジーン・ハリスの衝撃

-まずピアノを始めたキッカケを教えてください

3歳の時、両親に「バレエかピアノ、どちらを習いたい?」と聞かれ、ピアノと答えたようです。当時のことは記憶には残っていないのですが、今思うと、ピアノを選んで良かったです。

-ジャズが好きになったのは、どういった経緯だったのでしょうか

ジャズに興味を持ち始めたのは中学3年生の時です。幼稚園の頃からピアニストになると言っていた私を、両親が色々な音大のオープンキャンパスに連れて行ってくれたのがキッカケでした。
色々な学科を見ているうちの1つにジャズ科というものがあるのを知り、父の車の中でいつもフュージョンや洋楽などを聴いていたことも相まって、興味を持ち始めました。
その後ジャズのレッスンに通うようになって色々なミュージシャンを教えていただいた中で、ジーン・ハリスを聴いた時は本当に衝撃的でした。
ジャズピアニストになりたいと明確に思ったのはその時です。

ジーン・ハリス・カルテット「Blues For Basie」

-今回、「Dear Gene」という曲を収められているように、ジーン・ハリスへの深い尊敬の念を感じます。ジーン以外に、影響を受けた、というよりも、ストレートにお好きなピアニストを教えてください

ジーン・ハリスは根幹の部分でとても影響を受けていますが、その他にもシダー・ウォルトン、ボビー・ティモンズ、レッド・ガーランド、ビル・チャーラップ、ウィントン・ケリー、ホレス・シルバー、ビル・エヴァンス、バド・パウエル、キース・ジャレット、ジェームス・ウィリアムス、マッコイ・タイナーなど、王道かもしれませんが、好きなピアニストは数えきれないほどいます。

・ジェームス・ウィリアムスによるソロピアノ演奏「Blues Etude」

-ジェームス・ウィリアムスの名前が出てくるあたり、小沢さんの音楽的嗜好が明確に伝わってきます。さて、またまたド直球の質問で恐縮ですが、
小沢さんにとってのジャズの魅力を教えてください

形が決まっていない、その通りじゃなくても良い、何が起こるかわからない"自由"なところが1番の魅力だと思います。
自由になるために自分の今考えていることや感じていることをピアノを通して、さらけ出して、共演するミュージシャン達のコアの部分を感じて、その瞬間にあるサウンドを作っていく。その過程もジャズを演奏する中でもっとも美しい部分の1つだと思っています。

-自由な発想が進展して、予想もつかないサウンドが発せられるのは、本当にジャズならではですよね。洗足学園音楽大で学ばれたとのことですが、そこで師事された、ユキ・アリマサさんからの教えで特に印象に残っていることを教えてください

アリマサさんはフレーズやスケールなどは教えない方です。これから1人のピアニストとして自らで学んでいけるようにどうやって考えていけばいいかという心の部分を本当に深く教えていただきました。
沢山の壁に悩んでいた時期に「過信ではなく自分を信じること」の大切さを伝えてくださったこと、心配性で考え込まないと行動に移せなかった私に「どうなるか分からない未来のことを考えたって意味がないからその瞬間の直感に従ってもいいんだ」という言葉をかけてくださったこと、他にも沢山のことに本当に感謝しています。

-これからの演奏活動の指針となる考えを、在学中に教えてくださったのは何物にも代え難いことだと思います。そういった教えを経て、小沢さんが普段の演奏の時に心がけていることは、どういった事でしょうか

その瞬間を感じることです。練習している時は、頭であれこれ考えながら演奏しますが、ライヴをする時はその時その瞬間に起こっていることを全身で真っ直ぐピュアに捉えられるように集中しています。後は臆病にならないこと、ポジティブに果敢に音楽に向き合っていけるよう努めています。難しいですが(笑)

バラエティ豊かなオリジナルナンバー

-今回のアルバム『Cheers!』を制作することになったキッカケを教えてください

1年ほど前からアルバムを制作したい意欲が出て、
どうやって出すのが私に合っているんだろうと考えていました。
ちょうどそのタイミングで出会った方々に相談させていただいて、私が一番これだけは外せないと思っていた、「オリジナルナンバーを大好きなメンバーと録音する」ことを叶えてくださったレーベル、リボーンウッドレーベルから発売させていただくことになりました。曲順やジャケット、アーティスト写真などについても私の意見を尊重してくださったレーベルにとても感謝しています。

-アルバムジャケットもとても素敵です。小沢さんの音楽性、そして、このアルバムの音を見事に表していると思います。
今回のアルバムでは、10曲中8曲が小沢さんのオリジナルですが、曲を生み出す時のアイデア、インスピレーションはどういったことから得られるのでしょうか

自然に触れた時、初めて行く土地の空気を感じた時、聴いたことのない音楽を聴いた時など心にすっと入ってくるものがある時に自然と頭の中にイメージが湧いてくることが多いです。

-5曲目の「Something Like That」では、ブラジル北東部のリズム、バイアォンを取り入れられています。取り入れたのは、2022年の1ヶ月間のニューヨーク滞在での影響との事ですが、その時の滞在で印象に残った事を教えてください

ニューヨークでの滞在期間は毎日が刺激的でした。
ライヴをいくつもハシゴして聴きに行き、夜中のセッションで現地のミュージシャンと演奏して交流しました。
他にも野球場や街中でもジャズが聴こえてきて、
街にジャズが根付いていることを肌に感じました。
また、演奏をしていた時にミュージシャンが連絡先を交換してくれたことがあったり、お客さんが「良かったよ!」と声をかけてくれたりしたのが印象的でした。文化の違いはあっても音楽を通せば心を通わせることができるんだ!と嬉しい気持ちになりました。

-7曲目の「I Wanna Be A Duck」では作詞もされていますが、作詞は今までにもされていたのでしょうか

作詞は初めてしました。今まで歌詞を書きたいという気持ちが湧いたことがなかったのですが、この曲を完成させた時に伝えたいコンセプトがハッキリしていたので、歌詞をつけて、もっとこの曲に想いを投じたいと思いました。
結果、素晴らしいヴォーカリストであるEmaさんにも参加していただけて、アルバムのアクセントになったかなと思っているので、挑戦して良かったです。


-オリジナル以外に選んだスタンダード曲、「Stella By Starlight」と「Time After Time」、この2曲を選曲した理由を教えてください。
また、「Stella〜」はソロピアノですが、意図的にアルバムの構成上でソロピアノを配したように感じました。アルバムの曲順は、かなり試行錯誤されたのではないでしょうか

この2曲を選んだのは、スタンダードナンバーの中でも私の心に浸透している曲だからです。
「Time After Time」は私が好きなピアニストがよく弾いていて、特にビル・チャーラップ・トリオのアルバム『'S Wonderful』に入っているものは何百回聴いたか分かりません。
「Stella By Starlight」は美しい曲で、じっくりルバートで演奏したいと思いました。収録されているものは、よく演奏されるキーとは違うのですが、全てのキーで試してから一番私がしっくりきたキーで演奏することに決めました。
アルバムの流れはとても意識していますが、すんなりと決まりました。「Stella By Starlight」は次の曲「Serendipity」に繋がるイントロ的な役割も兼ねていて、全体を通して1つの作品としてまとまって聴こえるように工夫しています。


・ビル・チャーラップ・トリオの「Time After Time」(アルバム『'S Wonderful』収録)

・小沢咲希トリオの「Time After Time」

深く信頼するレコーディングメンバーたち

-今回のレコーディングメンバーは、普段から頻繁に演奏している方々なのでしょうか

安田幸司さんとのトリオは長く続けているトリオです。
また、最近は粟谷巧さんとのトリオのライヴも増やしていたところで、どちらのサウンドも好きだったため、お2人とも、レコーディングに参加していただきました。Emaさんが入っているカルテットで実際に演奏したのはレコーディングの日が初めてでしたが、Emaさんとは、普段からデュオで演奏を重ねていたため、不安はありませんでした。

-レコーディングに参加された方々の演奏の魅力を教えてください

安田さんはメロディックで柔軟なベーシストだと思っています。ハーモニー的なアイディアを出してくれますし、ほしい所にいてくれる、常に気配りが行き届いている方です。

粟谷さんは男気あふれるベーシストです。
音楽の流れが大きく広く見えて、自分の視野も広くなる感覚があります。また、何があっても大丈夫という安心感をいつも与えてくれます。

-安田さん、栗谷さん、それぞれ個性の違うベーシストが入ることで、アルバムのサウンドがよりバラエティ豊かになっていますし、小沢さんのおっしゃる通りの音をご両人が響かせています

ドラムスの柳沼佑育さんは私のバンドに欠かせない存在です。やりたいことを常にキャッチしてサポートしてくれ、スウィングに対しての心意気が、いつも演奏から伝わってきます。また、いつでも周りに気を配っていて、気にかけてくれる素晴らしいメンバーであり、友人です。

-柳沼さんのスウィングフィールには、ビバップ、ハードバップのドラミングの美味しいところが盛り沢山です。このアルバムが持つノリの良さ、ドライブ感には柳沼さんのドラミングが大いに貢献していますよね

Emaさんと初めてお会いして歌を聴いた時、胸が熱くなり、鳥肌が立ったのを覚えています。言葉1つ1つを大切に丁寧に表現していて、感情が歌に乗って伝わる素晴らしい表現者です。曲に歌詞を書いている段階で、必ずEmaさんに歌ってもらおうと決めていました。

-Emaさんの伸びやかな歌声と明るい曲調がとても合っていて、この後に続く「M's Mark」との流れが、アルバムの中で私は特に好きです(笑)

今を生きるストレートアヘッドジャズを体感してほしい

-小沢さんご自身の、今回のアルバムで特に聴いてほしいポイントを教えてください

今回のアルバムには、20歳頃に書いた曲から、つい先日出来上がった曲まで録音されていて、私の音楽家としてのこれまでの人生を表した一作になったと思います。今まで経験したこと、今感じていること、これからの未来への期待が詰まった宝物のようなアルバムです。
バラエティーに富んだオリジナルナンバーを楽しんでほしいですし、今を生きるストレートアヘッドジャズを体感していただけたら幸いです

-今後の予定、そして展望を教えてください

リリースライヴはひとまず6,7月に都内近郊で行い、8/30の丸の内Cotton Clubまでの予定を立てています。全国の皆さまにもぜひ生で聴いていただきたいバンドですので2024年以降になってしまうかもしれませんが今後地方にも伺うつもりです!

次回作は頭の中ではすでに構想を立てておりまして(笑)、アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズが大好きで2管を入れてのクインテットで演奏したいオリジナルを書き溜めているので、次回はぜひクインテットで録音できたらと思っております。
そのためにも今作の『Cheers!』が全国の皆さまの手に届くことを心より願っております!

-2菅クインテットの作品もぜひ聴いてみたい!さっそく次回作も楽しみに待っています。
最後にリスナー、ファンの方にメッセージをお願いします

既にたくさんの方々からアルバムについてお言葉をいただけていて、本当に幸せな気持ちでいっぱいです。
私のアルバムを聴いて、その日1日が少しでも華やかな日になったら、皆さまの生活にパッと明るい彩りが添えられたら、こんなに嬉しいことはありません。
これからも人と人とのつながりを大切に、まっすぐジャズと向き合っていきます。直接ライブでお会いできる機会があればぜひお越しください!今後も応援よろしくお願い致します!


インタビュー/編集構成…小島 良太

〈小沢咲希 オフィシャルサイト〉

〈『Cheers!』CD販売〉
・Tower Records

・HMV

・ディスクユニオン

〈リリース記念ライヴ〉

2023/8/30 (水)
東京丸の内 コットンクラブ

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