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キャメロン・グレイヴス『SEVEN』をより楽しむための7枚

Introduction ~Cameron graves 『SEVEN』~

現代ジャズシーンの中枢に鎮座するカマシ・ワシントンと学生時代より親交深く、共に音楽を創造してきたピアニスト/キーボーディスト、キャメロン・グレイヴス。カマシの『The Epic』や『Heven and Earth』といった大作はキャメロンの活躍なしに語れないでしょう。

カマシだけでなく大御所ベーシスト、スタンリー・クラークのアルバムやツアーにも参加するなど、アメリカ西海岸を拠点に世界を股にかける活躍をする彼は、2017年に初リーダー作『Planetary Prince』を発表。ジャズだけでなく、プログレッシブロック、メタル、クラシック、ファンクなどあらゆるジャンルを包括したインパクト抜群の作品で、盟友カマシや、サンダーキャットアドリアン・フェロー(共にベース)、ロナルド・ブルーナー・ジュニア(ドラムス)の参加も話題を呼びました。

・『Planetary Prince』収録曲 “The End of Corporatism” ライヴ映像

それから約4年。キャメロンの待望の2ndアルバム、『SEVEN』が2021年2月19日にリリースされました!!

前作に引き続き、カマシのゲスト参加も注目ですが、それ以外はメンバーを一新。2020年2月にブルーノート東京で公演した時と同じ、マイク・ミッチェル(ドラムス)、コリン・クック(ギター)、マックス・ゲール(ベース)を迎えた、徹頭徹尾アグレッシブな作品。『Planetary Prince』でも垣間見えたキャメロンの“メタル愛”が強く押し出されており、リリース前のインタビューでも、今回のアルバムがメタルからの影響を表現していると語っています。
前作は70分越えの大作志向でしたが、『SEVEN』は半分以下の30分弱、まさに疾風怒濤の勢い!
すでに“Metal Jazz”や“Thrash Jazz”と形容したレビューがあることからもそれは明白、そしていざ聴けば、その形容に深くうなずく事でしょう。とにかく沢山の方に聴いていただきたい熱いアルバムで、ジャズリスナー以外にも大いにアピールする作品となっています。

そこで本記事では『SEVEN』でのサウンドがお好きな方向けに、さらにその世界観を楽しんでもらえるような、音楽性が通ずる作品をアルバムタイトル『SEVEN』にちなんで7枚選んでみました。
キャメロン・グレイヴス『SEVEN』の世界観の深みにさらにハマるための、7つの扉をどうぞご堪能ください。

1.Return to Forever 『Romantic Warrior』(1976)

2021年2月9日に惜しくも亡くなったチック・コリアが率いたスーパーバンド「Return to Forever」の傑作アルバム、『Romantic Warrior』。
邦題は『浪漫の騎士』。勇壮!
Return to Forever」には、キャメロンの才能を広く紹介したスタンリー・クラークが在籍、スタンリーは「Return to〜」での活躍によってジャズシーンで名を上げました。
スタンリーの他にアル・ディメオラ(ギター)、レニー・ホワイト(ドラムス)が参加していますが、リーダーのチック含めて、複雑な曲展開をメンバーが軽やかに演奏していく様は圧巻。
1976年の時点ですでに“プログレッシブメタル”と言っても過言ではないサウンドです。また、組曲を含めたアルバムのコンセプトもキャメロンの楽曲やアルバム構成と通じるものを感じます。

スタンリーは後にレニー・ホワイトと共に「Vertu」というユニットを結成。MR.BIGやPOISONで活躍したギタリスト、リッチー・コッツェンを迎えたハードフュージョンのアルバムも残しているので、そちらもオススメです。

『SEVEN』に参加しているドラマー、マイク・ミッチェルとキャメロンの邂逅もスタンリー・クラークバンドでの共演がキッカケ。キャメロンのキャリアにとってスタンリーとの活動はカマシとの共演と共に大きな影響を与えているだけに、「Return to Forever」でのスタンリー参加作は必聴です。

・スタンリー・クラーク、キャメロン・グレイヴス、マイク・ミッチェルのトリオによる演奏


2.Mahavishnu Orchestra 『Between Nothingness And Eternity』(1973)

マイルス・デイヴィスの『In A Silent Way』や『Bitches Brew』、『Jack Johnson』の参加でも知られるギタリストのジョン・マクラフリンが1970年に結成したジャズロックバンド、「Mahavishnu Orechestra」。
ジャズ、ロックの要素だけでなく、インド音楽、また当時マクラフリンが傾倒していたヒンドゥー教の影響を反映させた独自の音楽性は未だ唯一無二です。
「Mahavishnu」が最も激しい演奏を繰り広げていたのは今回紹介するライブアルバム『Between Nothingness & Eternity』(邦題は『虚無からの飛翔』。深遠!)の頃までではないでしょうか。
それまでのスタジオ盤でも充分に強力でしたが、特にこのライブ盤で聴かれるビリー・コブハム(ドラムス)の演奏は、叩いていない時間はないのではないか!?と感じてしまうほどの怒涛のドラミング。
このドラムを聴くと、『SEVEN』でのマイク・ミッチェルの強力なドラミングを彷彿とさせるものがあります。
もちろんジョンも弾きまくり、キーボードのヤン・ハマーも弾きまくり!もうとにかくみんな弾きまくり!これを聴いて、みなさん燃え尽きましょう!

3.Vitalj Kuprij 『High Definition』(1997)

キャメロンはショパンからの影響を公言しています。実際、日々の練習においてもクラシック曲を取り上げ、技術の研鑽に励んでいるようです。どんなスタイルの曲でも力強い打鍵で弾きこなせる基礎的な力もそういった努力の賜物でしょう。

メタルシーンにおいても、クラシックからの影響を取り入れた“ネオクラシカルメタル”というジャンルがありますが、そのジャンルで代表的なピアニスト/キーボーディストの1人がヴィタリ・クープリです。
もともと、クラシックピアニストとしても旧ソ連の全連邦ショパン・コンクールで1位を獲得するなど、正真正銘のクラシックピアニストなだけに、その鍵盤技術は強者揃いのメタルシーンでも一際光っています。
ギタリストのロジャー・スタフルバッハとのユニゾンプレイが大きな魅力のの1つであったバンド「Aretension」でシーンに登場。瞬く間にネオクラシカルメタルを代表するバンドになりましたが、キーボーディストとしての演奏をより存分に楽しむなら、ヴィタリのソロアルバムが打ってつけ。
今回紹介している彼の1stソロアルバム『High Defintion』はギタリストのグレッグ・ハウと全編これでもか!とネオクラシカルの美味しいフレージングが満載。ネオクラシカルインストの金字塔とも言える名作です。
グレッグの普段の演奏は、ネオクラシカルの音楽性とは違うのですが、それでもここまで役割を全うし、ヴィタリと渡り合う腕前、そしてプロデュースも担う才覚にはただただ脱帽であります。

キャメロンのクラシック及びメタルの影響に惹かれる方には、ヴィタリの本作のような演奏は充分に訴えかけるものがあるのでは。

4.Liquid Tension Experiment 『Liquid Tension Experiment 2』(1999)

先述した「Retern to Forever」にプログレッシブメタルの萌芽を感じると記しましたが、そのプログレッシブメタルの総本山として長きに渡り君臨するのが「Dream Theater」である事は揺るぎない事実でしょう。時折メンバーチェンジをしながら、高品質のアルバムリリースを続けています。
高度な演奏技術、綿密なストーリー性を感じる楽曲など未だ他を寄せ付けない貫禄を示しています。

もちろん「Dream Theater」の音楽性も素晴らしいのですが、ことインストゥルメンタルに特化するとなると、「Dream Theater」のメンバーが中心となって結成された「Liqued Tension Experement」の方が『SEVEN』のリスナーの方には大いにアピールするのではないでしょうか。
この「Liqued〜」結成の時点ではジョーダン・ルーデス(キーボード)は「Dream Theater」へ加入していませんでしたが、のちに正式に加入することになります。
ジョン・ペトルーシ(ギター)、マイク・ポートノイ(ドラムス、現在はDream Theater脱退)、ジョーダン、そしてベースには「King Crimson」などで活躍したトニー:レヴィンが加わった、まさに“超絶”集団。
今まで2枚アルバムをリリースしていますが、代表曲“Acid Rain”を収録した第2作を推薦致します。

そしてこの「Liqued〜」、2021年3月にまさかの新譜リリース!楽しみです!

5.Derek Sherinian 『Black Utopia』(2003)

先ほど紹介した「Dream Theater」に過去在籍していたキーボーディストのデレク・シェリニアン
「Dream Theater」脱退後もイングヴェイ:マルムスティーンのバンドや自身が中心となった「Planet X」を結成するなど創作意欲旺盛な方ですが、彼はとってもギターサウンドが大好き!
彼のソロアルバムには必ずジャズ/フュージョン、メタルシーンから腕利きギタリストが多数参加しており、デレクと丁々発止のソロバトルを展開しております。
今回紹介する『Black Utopia』では、先述したチック・コリアの「Return to Forever」に参加していた名ギタリスト、アル・ディメオラがゲスト参加!!彼以外の何者でもない速弾きを披露してくれていますので、アル・ディメオラフリークの方は聴き逃せませんよ。疑似共演とはいえ、イングヴェイとアルが同じトラックで共演しているのは感慨深いです。

他にもザック・ワイルドスティーヴ・ルカサーが参加、おっとベースにはビリー・シーンも!!また2004年に発表した『Mythology』にはアラン・ホールズワースも参加していますのでそちらも是非。

『SEVEN』でのコリン・クックのギターの格好良さに痺れた方にはデレク・シェリニアンのアルバム群はとってもオススメです。

6.Jonas Hellborg 『PERSONAE』(2002)

今回の『SEVEN』でのサウンドは、フィジカル的な極限に向かっているような、そんな印象を受けます。ジャズ、というよりもインストゥルメンタルの可能性を追求しているような…。そういったハードな演奏で真っ先に頭に浮かんだのがベーシストのヨナス・エルボーグの諸作品。
ヨナスは80年代に再結成されたジョン・マクラフリンの「Mahavishnu Orchestra」への参加で脚光を浴びた超絶奏者です。
早逝が悔やまれる天才ギタリスト、ショーン・レーンを迎えて、それこそまさに演奏の限界値に挑むような壮絶な作品を残しています。
この『PERSONAE』を含めてライブ盤でリリースしている物もいくつかあるので、それを聴くと改めて尋常ではない高水準の演奏技術、そして迫力に圧倒されます。

7.MESHUGGAH 『Nothing』(2002)

そして最後に紹介するのはキャメロンが影響を公言し、またよくこのバンドのTシャツを着ているのも目にする(笑)、スウェーデンのエクストリームメタルバンド、「MESHUGGAH」の代表作『Nothing』です。

「MESHUGGHH」のサウンドを一言で語るのは不可能なのですが、主な特徴として挙げられる7〜8弦ギターの使用、特異なリズムパターンなど、その独自性生成の過渡期に生み出されたアルバムがこの『Nothing』。バンドの中心人物であるフレデリック・トーテンダルアラン・ホールズワースを彷彿とさせるギターソロを随所に披露しています。変拍子、スラッシュ、デスメタル、そしてジャズからの影響を感じさせる、まさに“エクストリーム”なサウンド作りは様々な音楽要素を集約して音楽を生み出していくキャメロンに大きなインスピレーションを与えています。

Conclusion

以上、メタルやジャズ/フュージョンのアルバムを中心に7枚選んで紹介しました。
キャメロン・グレイヴスのファンの方には、すでに上記で挙げた作品をご存知で、なおかつ愛聴されている方も多いと思うので、何を今さらと思われるかもしれませんが、「Return to Forever」や「Mahavishu Orchestra」をご存知のベテランジャズリスナーの方や、「Dream Theater」や「MESHUGGAH」などのメタル系リスナーの方にも、これを機にキャメロンの素晴らしい作品に触れていただけたら嬉しく思います。
世の中が平穏になったら、ぜひキャメロン御一行に来日していただいて、実際にライブで“Metal Jazz”、そして『SEVEN』の世界観を体感したいものです。

先人達が創造してきた様々な情景を巧みに絡ませながら、自己の独創的な世界観を編み出していくキャメロン・グレイヴスの壮大な音絵巻はまだまだ始まったばかり。次のアルバムが出るまで、『SEVEN』を聴きまくりましょう!

・キャメロン・グレイヴス、マックス・ゲール、マイク・ミッチェルのスタジオライブ

・コリン・クック “Inner Urge” Guitar Solo


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