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マイケルジャクソンに憧れた少年がベガスで彼のダンサー達に認められる話⑤

まさかと思ったが、名前が呼ばれた。もう一度、踊ることができる。そして何より、認められたのだ。

この時再度ステージに呼ばれたのは、自分を含めて3人だった。一人は恐らく10代後半の女の子。とにかく楽しそうに、自分のスタイルを入れて踊る姿は、ずっと見ていたいと思った。もう一人は完全にマイケルの"Billie Jean"の格好をした20代前後の背の高い男の子。彼もまた、マイケル愛を感じさせてくれるダンスだった。そして、もちろん唯一のアジア人である自分。

ステージに立つと、リッチがこの審査基準を言った。

「今選ばれた人達は、マイケルと同じ”熱”を感じさせてくれた人達だ。俺らはマイケルと踊ってきて、動きがどうとかよりも、あの時の熱を持った人達を選びたかったんだ。」

これはきた。そう確信した。この3人が、自分がマイケルと同じ熱を持っていると言ってくれるなら、絶対いける。もう先ほど小さくなっていた自分とは反対に、ステージ、いや会場すら小さく感じた。

「これからランダムに曲をかけるので、即興でその場で踊って下さい。」

そう言われて指先まで血がしっかり行き渡るのを感じたその時、ガラスの割れる音が会場に鳴り響いた。”Jam”だ。

ここでは、1回目のダンスよりもうんと冷静に自分と周りを見ることができた。こういうとき、どうやったら目立つのかが咄嗟に分かるのだ。もちろんみんな、マイケルになりきっている。それは当たり前だ。マイケルがライブでこの曲を歌う時と同じ動きをしている。なら自分はどうしたら目立てるか。「1992年のブカレスト公演でのマイケル」をやっているみんなに対して、自分は「今のマイケルならどう踊るか」に集中した。彼が最期、This Is Itでとっていたグルーヴを思い出しつつ、熱を上げる。もうこの時点で、明らかに動きは他の2人とは違う。だけど、もっといける。もっと驚かせられる。曲がサビに差し掛かるところで、両脇の二人がやる動きは分かっていた。両サイドに火花を出す、マイケルがこの曲をやる時にやっていた動きを絶対にやる。ならどうするか。火花になろう。そこで二人が火花を散らしている中、自分はマイケルがステージから飛び出てくる姿よろしく、一気しゃがんで上に向かって飛び出た。そして、ただ止まる。両脇二人が踊っている中、自分だけオープニングのマイケルよろしく微動だにしない。そして次のビートで首だけを振り、サングラスを取る動作をする。そこから一気にボルテージを上げると、目の前のジェイミーキングが叫んでいるのが確認できた。しばらくすると、曲が止まって拍手が鳴り響く。

「みんな凄くいい感じだ!それじゃあ次は一人ずつ、順番に踊ってもらう。合図をするから、順番に前に出てきてくれ。」

リッチがそう言って流れてきたのは、”Working Day and Night”だ。とにかく細かいリズムと音。これらを掴まない手はない。確か自分は3番目くらいだったと思う。みんながマイケルに徹してる中、しっかり音を掴みにいった。ホーンの音を分かりやすく大きく取ると、「こいつは音楽分かってるぞ!」とリッチがマイクを通して言った。まだいける。ここでまた、マイケルのため息に合わせて肩を落とす、お決まりの振り付けがある。その動きは絶対に、後ろで見ているダンサー達もやるはずだ。そこまでの動きはマイケルらしくやって、一気に裏切ろう。回り、みんなが肩を落とすところでジャケットを半分脱ぎ、天を仰いだ。その瞬間、会場が「どっと」沸いた。大きな水風船が、壁に弾けるような歓声が聞こえた。トーンにバカうけしてるのが分かる。そこからはもう音楽に身を任せて、この後倒れてもいいと思う程に全てを出し切った。身体にあるマイケル愛を、とにかくマイケルに届けたかった。マイケル、ありがとう。あなたのおかげで、世界は大きく広がりました。沢山の素敵な人達と出会えました。今、とても幸せです。審査員や観客には向けていなかった。とにかくマイケルに、ありがとうと言っていた。


結局自分達3人は勝者ということで、Tシャツやら何やらが入ったグッズをもらった。正直、結果や景品はどうでもよかった。とにかく嬉しかったのは、自分のマイケル愛を尊敬してきた3人、そしてその場にいた観客やシルクドソレイユのダンサーキャスト達に伝えられたことだ。

埼玉の田舎で育った自分が、10数年後にラスベガスでマイケルにありがとうと言う。

こんなのは全く想像していなかったけど、納得できた。だってただただ好きだから。好きなことしかしてこなかったから。

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