ワン・モア・ヌークを読み終えて
ワン・モア・ヌーク(藤井太洋著/新著文庫)を読み終えました。
未来をこえる前に感想を書き残しておきます。
2月はじめ、Twitterのタイムラインで、本書のことを知りました。
堀さんもオススメしていたこともあって、2月4日に地元の本屋に駆け込み、購入。積読の順番を最優先に変えて読み始めました。
新しい読書体験
物語は、2020年3月6日から10日までを描いています。オリンピックイヤーとなった2020年、そして3.11に向かって物語が展開します。
未来を追いかけるという読書体験は初めてでした。
読んでいるときの「のめり込み感」は読みやすさとイメージのしやすさにあったと思います。
全編通して、起こる一つ一つがリアリズムであり、読み進めるにつれて「これはフィクションで、本当におきることなのではないか」と錯覚するような感じで読んでいました。
そして読み終えたときに感じたのは「人間はここまで想像することが出来るのか!」との驚愕です。著者の藤井太洋さんの表現技量に感服しました。
2015年に書かれた文章に思えない…。
美しさ
小説とはいえ扱うテーマの深さに対して、正直なところ不謹慎かもしれませんが、最後まで美しさを感じた小説でした。
文体、流れ、描写、背景、仕草、すべてが美しい。
特に科学技術が持つ美しさを完璧に描写されていました。
主題である深刻で根深い問題を描き出しているのにも関わらず。美しい表現でラッピングされ、私は読んでいる間、美しさに囚われ続けていました。
だからこそ考えさせられる小説としての本質をついていたのだと感じます。美しさと多雑な感情、テーマの深さから目をそらし続けた9年間と、中心にある美麗なプロダクトのギャップが、この小説の面白さを象徴しているように思えました。
こういう美しさを感じる本は滅多に出会えるものではありません。
物理を表現する小説は多数ありますが、本書は作り出されたアイテムの描写がリアルであり完全体として描かれて秀逸です。
製品的な品質、機能、対して社会に影響する大きさ。プロトタイプで世界に一つしか無い製品の設計品質が桁違いに高いこと。これが驚異、不安に写る実態感。
多分、ものづくりをしてる人、新しいものを研究している人ならば、この独特の奇跡を味わえるのではと思います。
未来に向けた希望
最後にある解説にも記載がありますが、本書は未来に向けた希望の小説です。
参考図書としての「0.02%の嘘」は、本書を読む上で必要不可欠な文章です。
この文章を改めて読み、3.11について考えさせられました。
常に思うのですが、社会の問題は科学技術によって解決されるべきだと考えています。
本書は物理学者が核技術をどう考えて接しているのかを一つのケースとして読み取ることができます。
私は、原子力に関してどのように考えるべきなのか、
そして、正しい情報を正しく判断できる知識が必要なのだと痛感しています。
私は、経済/社会/環境/技術の側面から、今の社会/経済を支えるインラとして平和的な原子力は必要不可欠な技術だと考えています。しかし、原子力技術の過程において、安全を完璧に担保出来ていないことと、社会的信頼が失墜してる現状では運用は難しいでしょう。産廃の問題も解決できていません。
何よりこの技術が恐怖の技術から始まった歴史、そして現在もその恐怖の傘の下で社会が均衡していることも、それを扱う人(スイッチを押す人)、それを観る人(私も含めて)のリテラシーも健在問題として扱うべきでしょう。被爆国であり被爆教育を受けてきたことも然りです。
現時点で、私はこの科学技術は平和的であっても使われるべきでは無いと考えます。しかし環境破壊を担保に社会を維持している矛盾もまた、人間の本質的な現実だと感じています。
個人的な勝手を言えば、純粋に原子力科学が平和的かつ環境的に、より良く社会へ貢献できるよう変化していく未来に、そして技術に希望したいと思っています。
それは唯一の被爆国であり被爆教育を受けてきた日本人だからこそ、という個人的なナショナリズムの側面も隠せない感情も含め、今感じていることです。
3.11に向けて、想いをはせる時ができました。
I think , about one more nuke.
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藤井太洋さんの本があまりに読みやすかったので、ハロー・ワールドも積読リストに追加しました。
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20200213:新規作成
20200214:修正追記
20200215:修正追記、記事投稿
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