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恋は盲目―社会心理学が明らかにするこころのサングラス

「恋は盲目」という言葉があるように、人は恋愛感情を抱いている相手の短所に気づかなかったり、何気ない動作でも自分に好意を抱いているのではと誤った期待を抱いたりする。(例えば、筆者は高校時代に最近よく目が合うあの子は自分に気があるのではないかと感じたこともあった。)恋は時に客観的に考えれば不合理な信念を人に抱かせるが、その時人の心の内ではどのようなメカニズムが生じているのだろうか。このレポートでは、社会心理学がこれまでに明らかにしてきたいくつかの知見を参照しながら、恋が人の目を曇らせていく過程を追求していく。

1. 確証バイアス

誰かに恋愛感情を抱いた時、相手もまた自分に好意を持っているのか気になるものだ。自分とその相手との接点を振り返りながら、そういえば最近よく話すなあと思ったり、会話の中で相手が笑ってくれたシーンを思い出して安心したりする。
ところで、人は仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向がある。これは確証バイアスと呼ばれ、対人認知にもこのバイアスが影響する場面は少なくない。例えば、血液型ステレオタイプをテーマにした坂元(1995)の研究では、ある人物がA型かどうかを判断するよう求められた際にその人物のA型的な特徴に注目をし(他の血液型でも同様)、B型よりもA型であると判断する傾向が見られた(逆にB型かどうかを判断するよう求められた場合はB型であると判断する傾向が見られた)。これを恋愛場面に置き換えて考えると、相手が自分に好意を持っているかどうかを判断する場合には、話している時に笑ってくれたなど自分に好意がありそうな根拠ばかりに注目をし、その結果相手もまた自分に好意があると判断してしまう傾向があると考えられる。仮に気になっている相手と1時間も話せたと浮かれている場合には、その相手が自分と過ごしていない残りの23時間や、その間に話した別の人の存在などまったく想像もしていないのだ。

2. ハロー効果

恋は時として突然の一目惚れからはじまる。街や電車の中で、たまたま外見的に魅力的な人物を見かけると、それが自分にとっての運命の人であると信じ、その人との幸せな時間を想像するようになる。しかし偶然が重なって運良く交際するようになったとしても、一緒に過ごしているうちに相手の欠点が目につくようになり、別れてしまうケースも少なくはないだろう。
一緒に過ごしてみないと相手の本質は分からないが、一方で一緒に過ごす前に相手に対して高すぎる期待を抱いてしまうのも別れの原因の一つである。人はある対象を評価する時に、一つの特徴につられて他の全く関係のない側面を評価してしまう傾向がある(ハロー効果)が、外見的な魅力を持った人は性格や生活習慣も好ましいと考えてしまうのは、まさにこの効果の一例である。
なお、対人評価に関わる効果にはゲイン・ロス効果も存在する。これはどのような相手に好意的な印象を抱くかを説明する効果の一種で、自分に対してはじめは低い評価をしていたが次第に高い評価をするようになった相手に最も好意的な印象を抱き(ゲイン効果)、はじめは高い評価をしていたが次第に低い評価をするようになった相手を、終始低い評価をし続けた人よりも低く評価する(ロス効果)ようになるというものである。評価において言えたことが外見においてもそうであるとは単純には言えないが、期待が裏切られた際に、もともと期待が高かった方がそうでない場合よりも心理的なダメージが大きくなるのかもしれない。

3. 正常性バイアス

たとえ親密な間柄であっても、人と人が関わる以上、そこに対立が生じることは避けられない。けんかになったり、あるいは暴力へと発展したりするかもしれない。ドメスティックバイオレンス(DV)やデートDVと呼ばれる事態が生じていても、社会がこういう状況だから気が立っているだけで、落ち着いたらまた昔の彼(彼女)に戻ってくれるからと優しく受け止めようとする人もいるだろう。
残念ながらそれは慈愛などではなく、災害時に自分は大丈夫だと誤認する正常性バイアスで説明される可能性がある。大きな災害が起きても、人は少々の異常を正常の範囲内として捉えてしまうために逃げ遅れてしまうといった事例は多いが、同様にDVを受けていても、誰にも相談せず、相手と別れない人が多い。京都府が2014年に作成した資料には、DV被害者の3分の2は誰にも相談せず、相談しなかった理由の66.5%が「相談するほどのことではないと思った」から、とある。初めて暴力を受けたときに相手と別れた人にいたっては7.8%にとどまる。もちろん、別れたくても別れられない事情もあるだろうが、調査結果を鑑みるに、DVに対して別れるなどの対応をしない背景には、正常性バイアスの影響が多分に含まれていると考えられる。

4. 終わりに

常に合理的な人生などつまらないし、時に非合理な感情や判断ですら楽しめるのが恋である。しかし、相手の本当の姿を見ようとせずに、自分の歪んだ認知を相手に無理やり当てはめるのは真に幸福であるとは言えない。恋にまつわるバイアスを理解し、自分の言動が適切だったか振り返りながらものの見方を矯正していくことが、長期的に恋を楽しむためには必要である。

参考文献
坂元章 1995 血液型ステレオタイプによる選択的な情報使用―女子大学生に対する2つの実験 実験社会心理学研究, 35, 35-48.
京都府府民生活部男女共同参画課 2014 “DVに気づいてください”.
https://www.pref.kyoto.jp/josei/documents/dv_kizuite.pdf(参照2021-2-5)

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