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さよならしなきゃって

一生君と生きていきたいと思っていたあの頃。自分の願望はただの虚無で、この世には存在しないものだった。

春、君と出会う。最初はただの仕事の同僚だった。新卒で入った会社でたまたま出会っただけの関係性。

仕事がうまくいかない毎日。何をしても失敗ばかりの自分は怒られるだけの毎日を過ごす。そんな僕とは裏腹に仕事をそつなくこなす君。羨ましさばかりがただ募り、その時は憧れの感情しか抱いていなかった。

憧れの存在であり、ライバルだと思っていた関係性。いつも通り仕事が終わったから帰路に着く。最寄りの駅がたまたま近いという理由で君とたまにお酒を飲みに行っていた。

仕事の話やプライベートの話。とにかく努力量が凄まじくて、僕には到底追いつけないなという気持ちだった。でもたまに君がふと弱さを見せる時があって、その時もかっこいい言葉を投げかけられず、ただ話を聞くことしかできなかった。

夏、少しずつ仕事に慣れ、できることもいくつか増えた。あいも変わらず君は絶好調で、仕事もプライベートも順調そうだった。

2人でいる時に見せた弱音を見せない強さ。僕に足りない部分を君はいくつも持っていた。君への憧れはいつしか好きという感情に変わり、たまに開催される飲み会をこれでもかと楽しみにしていた。

秋、君に好きな人ができたらしい。会社の先輩のことが好きになり、その先輩の話をよく聞かされた。好きな人が自分ではない別の誰かを好きになる。

とてもじゃないけど正気ではいられない。でも君の話を聞くためなら、一緒にいるためなら、好きな人の好きな人の話を聞くことを我慢することができた。

いつも気にする終電の時間。好きな人ができてより一層君は終電を気にするようになった。聴きたくない好きな人の好きな人の話と終電の時間。

それでも君と過ごしていたのは君が好きだから。でも自分ではない誰かと幸せになる君を想像したくなかった。できれば君は僕と一緒に幸せになってほしい。でもその願望は儚くも叶わない。

「好きな人が恋人になりました」

冬、好きな人に恋人ができた。そして、別の会社への転職も決まったみたいだ。

君に恋人ができて、前までは開催されていた飲み会もめっきり開催されなくなった。別の会社だし、会うこともなくなってしまったし、君からの連絡もこない。

突然のメッセージに悲しさが募る。僕は君が好きだった。でもその思いを伝えることができなかったから、僕には君を幸せにする権利がない。

「本当は君のことが好きだったの。でも好きな人ができてしまったし、君からのアプローチがなかったから別の人とお付き合いすることにしたの。」

情けなくなった。行動できない自分がたまらなく醜くなり、後悔ばかりがただ募る。

なぜ行動しなかったんだろう?

君を幸せにするという言葉を君に言ってあげれなかったんだろう?

「君とさよならしなきゃなって思って、最後に自分の気持ちを打ち明けたのよ。」

ああ、愚かだった。君を幸せにする権利を自分の勇気のなさが自ら放棄してしまっていたということだ。

幸せは目の前にあったこと。そいつを自分の手で掴めなかったこと。

今では全てが虚無で、君とさよならしなきゃって。

「君が好き」という言葉はもはや君には届かず、ただの空気となって消え去るだけだ。



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