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あの日、上京してしまった君へ

君がSNSにアップしていた写真に写っていた人は一体誰なのだろうか。LINEのアイコンも変わってしまった。くたびれたスーツ、しわくちゃのシャツ、その全てを私がアイロンしていたのに、もう別の誰かが手入れをしているのだろうか。黒色の服しか着たくないと言っていたあの頃、SNSにアップされていた写真の服装は紺のジーンズや赤色のタートルネックを着ていた。とてもおしゃれだとは言えないけれど、真っ黒に覆われていたあの頃のよりは少しマシになった。

服装にこだわりがない。そう言っていた君は私が選んだ服を着ていた。なんでもいいよと自分がないその態度にも少し苛立っていた。だが、その苛立ちもいなくなった今では美しい思い出へと昇華している。お付き合いをしていた頃の君の面影はもうどこにもない。東京は壮大すぎて自分には合わないと言っていた君は、私とお別れしてすぐに上京した。もう2度と会わないと思っていたのだけれど、ほんの僅かな未練がSNSでの繋がりを残していた。

初めてだった。私にとってのお別れとは、その人との関係性を絶つことだ。友達に戻れると考える人もいるが、私にはそんな考えは持てない。何もかもを知った以上は、もう友達には戻れない。恋人ではなくなった人はもうこの世に存在しないという考えだ。それなのに、彼との関係だけは完全に繋がりを絶てなかった。東京という街は私には似合わない。彼に会いたい気持ちはあるけれど、君にはもう私以外の人が隣にいる。それは抗えない事実であり、私に成す術はない。

田舎は世間が狭い。誰と誰が付き合った、別れたという話はすぐに周りに伝わる。友人の婚約者が知り合いといったケースは往々に発生するし、そこから始まる友人関係だってあるのだ。君がここを出たときに、もう繋がりはないと思ってはいたけれど、SNSという存在がそれを阻止した。遠い場所にいるはずなのに、写真の投稿やストーリーがその距離を失くし、すぐそばにいるような感覚を連れてくる。近くにいさえすれば、偶然会えるかもしれない。だが、事実は残酷で距離の分だけ合う確率が下がってしまう。

SNSの出現によって物理的な距離はあれど、心の距離は近くのような気がする。これは向こうが私を認識していればの話なのだけれど、君にはもう新しいお相手がいるようだ。私には幸運が訪れる瞬間はやって来ない。私が幸せになるためには、君以外の誰かを選ぶ必要がある。だが、それを選べない私がここにいて、新しい道の作り方が分からないまま前に進めていない。近くにいさえすれば、もう一度巡り会えたかもしれない。だが、物理的な距離の発生によって、その可能性は絶たれた。

私は田舎に住んでいる。君は東京に移り住んでしまった。もしどこかで巡り会えたとしても、私たちがもう一度交わる瞬間はやって来ないのだろう。前に進みたいけれど、前に進めない。失恋の傷を癒すには何が必要なのだろうか。友からもらった自立しなさいという助言を素直に受け取れない。私の弱さが招いた結果が今の現状を作り出している。

東京という街は人を変える。おしゃれに興味がないと言っていた君もおしゃれを楽しむようになった。当時の姿のままでは生きていけないと思ったのだろう。街行く人の服装を参考にして、すっかり東京の人になってしまった君。私の服の系統は君とお付き合いしていた頃と変わっていない。その理由は、君に可愛いねと褒めてもらったためだ。私とお別れして、新たな変化を受け入れた君にはもう私は必要ない。未練がましい私には君の動向を知る術はSNSしかない。関係性を絶てば前に進めるのに、弱さがそれを阻止し続ける。私は今もあの頃に囚われたまま、君が暮らしていたこの街で君の面影をずっと探し続けている。それだけが事実だ。

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