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君がいない街

「私たち別れましょう」

家で映画を見ている途中で君が突拍子もない言葉を言った。

なんで今のタイミングなんだろうか?もう少し違うタイミングで言ってもらえたら、きちんと映画を見終えることができたのかもしれないのに。

映画はもうクライマックス。
主人公の恋路がクライマックスを迎えるまさにその時だった。

僕は嫌だと答えた。君がなぜ別れを切り出しているのかが僕にはわからない。

いつもなら冗談混じりで別れを切り出す君だが、今回はどうやら違うようだ。

理由を尋ねると、簡単に解決しそうなことばかり。

別れのきっかけはほんの些細なことの積み重なりからだった。

1つのボタンの掛け違いが、やがて取り返しのつかない自体を生み出した。

「自分でも改善しなくちゃダメだ」ということは、分かっていたのかもしれない。

なぜ改善しなかったのだろうか。なぜ改善できなかったんだろうか。

答えはもうわからない。いや、わかりたくないだけかもしれない。

自体はもう収束しない。どれだけ鈍感な僕でもそれだけはわかる。

僕らに残された道はただ1つのみ。

今考えると僕がバカだったことは間違いない。君に与えてもらった分を僕はちゃんと君に返せていなかったのかな。

君は私が悪いと泣いたけど、悪いのは全部僕だった。君が悪いわけがない。全部僕のせいだ。

きっと君が僕から離れないと勘違いしていたのだ。何をやっても一緒に居られるという幻想に惑わされていたに違いない。

恋は盲目だというが、よく言ったものだ。僕はおそらく君のことが好きな自分に盲目的なようだった。

君のことが見えず、君に恋をしている自分に酔っていた。

今まさに君は僕から離れようとしている。君の僕に対する執着心はもはやないに等しい。

僕は君から離れたくない。この先何十年と一緒にいると思っていた。

今日は一緒に映画を見て、一緒にベッドで眠りにつくはずだった。

これは執着なのか。はたまた愛なのか。僕もよくわからない。
ただ「君が好き」ということだけは、はっきりとわかる。

気持ちの整理がつかないまま、物語が進んでいく。

僕はどうすれば良いのかわからなかった。

何をすればわからなくなった僕は、君に「さよなら」を言わせないように、さよならをしないように、君の口を塞いだ。

最後のキス。君は僕の口を手で塞ぎ、涙を流しながら僕の部屋を出た。

ねえなんで君が泣いてるの?

ただ一緒にいるだけで笑えていたのに。

「ありがとう」も「ごめんね」も今ならきちんと伝えれるかな?

でも今さら伝えたところでもう遅い。

君の僕に対する気持ちはもう冷めてしまったみたいだ。

僕の声はもはや君に届かない。

あれから2年が経ち、2人で乗り越えてきた夜も僕は1人で乗り越えるようになった。

僕が暮らす街に君はもういない。

2人で揃えたTシャツやマグカップはもはやただのガラクタ。

歯磨き粉も減りが遅くなった。もう使わなくなった君の歯ブラシ。

お揃いのお椀にお揃いのお箸。今もまだ君のもので僕の家は溢れている。

離れてやっと気づいた。執着していたのは僕だった。

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