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週に一度の焼き鳥屋さん。

 僕の昔の上司は週に一度、奥さんと二人だけで焼き鳥屋さんに行く人だった。確か子供は二人いて、その日だけは子供たちを家に残して、夫婦だけの時間を楽しむんだと言っていた。いつもの店で、酒を飲みながら、焼き鳥を食べ、子供たちのことや些細なことを話す。ルールのようなものは特にないけれど、仕事の話はほとんどしない。と教えてくれた。上司はとても仕事熱心な人で、いつも遅くまで残っていたが、週に一度だけは定時ぴったりに帰っていった。

 当時はまだ独身だった僕は、上司のその習慣がとても格好いいものに思えた。その話をしてくれた上司の顔もとても嬉しそうで、自分も結婚したら絶対まねしようと思った。

 けれど、これは結婚してわかったが、週に一度そうした習慣をつくることはなかなか難しいことだった。お互いのコンディションもそうだし、仕事の都合(遅かったり、次の朝が早かったり)が合わなかったりする。こっちが飲みたい気分でも、相手がそうじゃない日もある。それに継続しないと習慣にはならない。そして僕はある日気づいた。多分そうしたものは作るのではなく、作り上げて行くものなんだと。長年一緒にいるうちに、そうしたものが出来上がっていくんじゃないかと。

 

 だから僕たち新米夫婦は、お互い負担のない程度にすることにした。まだ習慣になっていないけれど、家の近くにお気に入りの焼き鳥屋さんを見つけた。引っ越してきてふらっと立ち寄った店だ。 

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希少部位も焼き鳥以外のメニューも充実している。お気に入りはソリレス。ももの付け根の近くにある肉で、フランス語では「これを残すものは愚か者」というらしい。今では月に一度くらい通っている。新型コロナウイルスの影響で少しばかり足が遠のいてしまったが、また行きたいものだ。