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食品廃棄物の排出権取引の理論について

地球温暖化問題は、世界各国で気候変動につながる重要な問題として認識されており、地球温暖化を抑制するための様々な取組みがなされている。地球温暖化の主たる原因は、化石燃料の燃焼によって放出された二酸化炭素を中心として大気中の温室効果ガスが増大していることであり、大気中の温室効果ガスを削減することは、地球温暖化対策として効果的であると考えられる。本記事では、大気中の温室効果ガス増大につながる要因として、食品廃棄物の量に注目し、食品廃棄物の排出量削減による温室効果ガス削減を目指す理論について議論した。現在、温室効果ガスについて適用されている排出権取引制度を食品廃棄物について適用した場合について検討した。ただし、排出権取引制度が、外部不経済を与える可能性のある排出物質に対して一般的に適用可能であると仮定した。

[1] 課題

地球温暖化

産業革命以後、1850-1900年から2009-2018年にかけて、世界の平均気温が約 $${1.10  ℃}$$ 上昇しているということが観測によってわかっており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、その他の観測データと合わせて、地球温暖化の進行が明白な事実であると認定している¹。気候変動問題の代表的な問題である、この地球温暖化問題は、人間活動によって大気中の二酸化炭素量が増大していることが主たる原因であると推測されている。大気中には、生物の呼吸や火山活動、人間活動などによって二酸化炭素が供給される一方で、光合成生物の生物活動や海洋での炭素固定などによって除去されてもいる。しかし、産業革命以後、化石燃料の燃焼を中心とした人間活動によって、除去速度を大きく上回る速度で大気中に二酸化炭素が供給されており、大気中の二酸化炭素量の増大が続いている。

食品ロス

食品ロスとは、まだ食べることが可能であるにもかかわらず、廃棄される食品のことである²。一般家庭や飲食事業者などから排出される食品廃棄物は、一部の食品循環資源として再利用される³ものを除き、通常、焼却処理される。食品廃棄物の焼却処理時の燃焼によって大気中に二酸化炭素が供給され、温室効果ガスの増大につながっている。また、食品廃棄物を焼却処理しない場合、細菌による分解が進行してメタンが発生することがある⁴が、メタンは、二酸化炭素と同じく温室効果ガスであるため、焼却処理しない場合でも地球温暖化の進行に寄与する。

標準的な食品廃棄物(生ゴミ) $${1 \times 10^{3} ~\mathrm{kg}}$$を焼却処理すると、食品廃棄物自体の燃焼と燃料の燃焼を合わせて、約 $${2 \times 10^{3} ~\mathrm{kg}}$$の二酸化炭素が排出されるという試算結果がある⁵。日本では、年間約 $${5 \times 10^{9} ~\mathrm{kg}}$$の食品ロスが発生していると推定されており⁶、これらの食品ロスすべてが単純に焼却処理されると仮定すると、食品ロスによって年間約 $${1 \times 10^{10} ~\mathrm{kg}}$$の二酸化炭素が大気中に供給されると推計できる。日本の二酸化炭素総排出量は、約 $${1 \times 10^{12} ~\mathrm{kg}}$$である⁷から、食品ロスの焼却処理による供給が全体の約 $${1 ~\%}$$ を占めていることになる。

以上のことから、食品廃棄物の増大は、大気中の温室効果ガスの増大に重要な影響を与えるため、地球温暖化問題に対する対策として、食品ロス削減は、効果的な対策となる可能性がある。

[2] 対策案

食品廃棄物のうち、家庭系廃棄物と事業系廃棄物のそれぞれに食品ロスが存在していると考えられている⁸。以下では、特に事業系廃棄物のうち、飲食事業者が排出する食品ロスを削減することを目指す。

食品廃棄物の排出権取引

食品ロス削減を実現するために、飲食事業者から排出される食品廃棄物の排出量に対する規制を行う。このとき、二酸化炭素の排出権取引制度を参考にして、食品廃棄物排出権取引制度を導入する。二酸化炭素の排出権取引制度とは、二酸化炭素を排出する排出枠を各排出主体に設定し、その排出枠を取引する制度のことであり、従来の各排出主体のみの排出量削減政策よりも効率がよいと言われている⁹。食品廃棄物の排出権取引制度を導入することで、市場メカニズムを利用して食品廃棄物の排出量の削減を実現することを目指す。

今回の食品廃棄物排出権取引制度では、各飲食事業者に対して、食品廃棄物の排出枠を設定し、その排出枠の取引市場を提供する。排出枠を下回る食品廃棄物を排出する飲食事業者は、排出枠を事前に設定された取引価格で売却することができ、一方で、排出枠を上回る食品廃棄物を排出する飲食事業者は、その取引価格で購入することができる。排出枠の取引価格は、前年度の排出枠取引市場における需要供給均衡から計算されて設定されるものとする。政府は、排出枠を自由に設定することができるが、排出権取引制度の開始から数年後に削減目標を達成できるように設定するものとする。

[3] 説明

大気中の温室効果ガス量

太陽放射から受け取る入射エネルギー $${F_{\mathrm{in}}}$$、地球放射で放出される放射エネルギー $${F_{\mathrm{out}}}$$ とする。地表温度 $${T}$$、地球半径 $${R}$$、地球アルベド $${A}$$、放射率 $${\epsilon}$$、Stefan-Boltzmann定数 $${\sigma}$$ とすると、放射平衡 $${F_{\mathrm{in}}=F_\mathrm{{out}}}$$ のときの地表温度

$$
T
= \left[ \dfrac{I (1-A)}{4 \sigma \epsilon} \right]^{\frac{1}{4}}
= G( \epsilon )
$$

と書ける。つまり、太陽放射と地球アルベドが一定ならば、地表温度は、放射率の減少関数 $${G( \epsilon )}$$ として書ける。ここで、放射率 $${\epsilon}$$ は、大気中の温室効果ガス量 $${g}$$ の減少関数として書けると推測できるから、これらより、地表温度 $${T= H(g)~~( H'(g) > 0 )}$$ と書ける。つまり、地表温度は、大気中の温室効果ガスの増加関数として書ける。

以上のことから、大気中の温室効果ガスを削減する政策を実施することは、地球温暖化を抑制するうえで効果的であるといえる。

飲食事業者の経済活動

廃棄物削減に関する削減費用と削減便益を金銭的損益に変換できるとし、飲食事業者の事業売上 $${R_{\mathrm{B}}}$$、事業費用 $${C_{\mathrm{B}}}$$、削減費用 $${C_{\mathrm{R}}}$$、削減便益 $${R_{\mathrm{R}}}$$ とすると、飲食事業者の利潤 $${P = R_{\mathrm{B}} - C_{\mathrm{B}} - C_{\mathrm{R}} +R_{\mathrm{R}} }$$ と書ける。事業売上と事業費用が廃棄物量 $${x}$$ に関係なく決定されると仮定すると、

$$
\dfrac{\partial P}{\partial x}
= \dfrac{\partial}{\partial x} \left[ - C_{\mathrm{R}} (x) + R_{\mathrm{R}} (x,p) \right]
$$

と書ける。廃棄物排出枠 $${X}$$、廃棄物排出権の価格 $${p}$$ とすると、削減便益 $${R_{\mathrm{R}} (x,p)=p(X-x)}$$ と書ける。ここで、廃棄物削減に関する削減費用 $${C_{\mathrm{R}} (x) = f(x)~~( f' (x) < 0 ,~ f'' (x)>0 )}$$ と仮定すると、

$$
\dfrac{\partial P}{\partial x}
= - f'(x) - p
$$

より、飲食事業者の利潤最大化時の廃棄物量 $${x^{\ast}}$$ は、$${\partial P / \partial x=0}$$ から求めることができ、$${x^{\ast} = x^{\ast} (p)}$$ となる。ここで、ある年度 $${n}$$ の廃棄物排出権価格 $${p_{n}}$$ が前年度の廃棄物排出枠 $${X_{n-1}}$$ の関数として、$${p_{n} = g (X_{n-1})}$$  と書けると仮定すると、ある年度 $${n}$$ の廃棄物量 $${x_{n}^{\ast} = h ( X_{n-1} )}$$ と書ける。つまり、廃棄物量 $${x_{n}^{\ast}}$$ は、前年度の廃棄物排出枠 $${X_{n-1}}$$ の関数として書くことができる。削減目標としての廃棄物量 $${x_{g}}$$ とすると、$${X_{n}}$$ を調整することで、十分大きな $${n}$$ が存在して、$${x_{n}^{\ast} \to x_{g}}$$ を実現することができる可能性がある。

[4] 参考文献

  1. Dessler, A.E. 神沢博・石本美智訳 (2023). “現代気候変動入門 地球温暖化のメカニズムから政策まで”. 名古屋大学出版会.

  2. 消費者庁. “食品ロスについて知る・学ぶ”. 閲覧:2023-08-23. https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/education/

  3. 食品産業センター. “食品リサイクル法の基礎知識”. 閲覧:2023-08-23. https://kankyo.shokusan.or.jp/food-2/f-1/f-1-3

  4. 井出留美. “食品ロスは温暖化の主犯格? 知られざる気候変動との関係”. 閲覧:2023-08-23. https://www.asahi.com/sdgs/article/14444362

  5. 生ごみリサイクル全国ネットワーク. “標準生ごみ1トンを焼却した場合のCO2排出量”. 閲覧:2023-08-23. http://www.namagomi-rz.sakura.ne.jp/index1/1tonsokyakuco2.pdf

  6. 環境省. “我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和3年度)の公表について”. 閲覧:2023-08-23. https://www.env.go.jp/press/press_01689.html

  7. 全国地球温暖化防止活動推進センター. “日本の二酸化炭素排出量の推移(1990-2021年度)”. 閲覧:2023-08-23. https://www.jccca.org/download/65455

  8. 消費者庁. “日本の食品ロスの状況”. 閲覧:2023-08-23. https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/exchange_of_opinions/pdf/131028_sanko2-5.pdf

  9. エコスタイル. “排出権取引とは?仕組みやメリット・問題点を解説!”. 閲覧:2023-08-23. https://www.eco-st.co.jp/27511/

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