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「習近平主席・2023年新年の挨拶」動画を観てみた

去年「習近平主席・2022年新年の祝辞」を観て非常に勉強になったので、今年も早速チェックしてみたいと思います。日本語訳は中国共産党中央委員会の機関誌『人民日報』のネットメディアによるものです。

少々テンションの低い出だし

昨年の新年挨拶では『「二つの百年」の奮闘目標のバトンタッチが行われ』という非常に壮大な話から始まってました。

昨年2022年が節目の年ではなかったからなのか(それとも国内が混乱しているからなのか)、今年は落ち着いた出だしで「社会主義現代化国家の全面的な建設」と「中国式現代化による中華民族の偉大な復興」という言葉で始まります。

当たり前の話ではありますが、あくまでも「社会主義」に基づいて経済運営がされるということが分かる内容です。同じく「中国式」にこだわる点も重要です。

中国経済は穏やかに発展(经济稳健发展)

中国語の稳健(穩健)には「しっかりしている,力強い」という意味もあるので、本当に中国語で「穏やかに発展」と言いたかったのかは分かりませんが、ゼロコロナ政策で経済が疲弊したことが原因で経済成長も鈍化していたので、経済に関して強気な発言ができなかったのも事実だと思います(「ゼロコロナ」政策の影響で成長率見通し3%台に沈む(日経))。

中国の食糧生産は19年連続して豊作(我国粮食生产实现“十九连丰”)

演説では「中国の食糧生産は19年連続して豊作を実現し、中国人の食糧需要はより満たされるようになりました。」とあります。

ネットで検索しても、この件については中国メディアの報道しか出てこないため真偽は定かではありませんが、「黒竜江省、大豆の作付面積と生産量が過去最高に」というニュースもあるように、農作物の生産量は増えているようです。

Chinese Peasant Workers Go to Russia - A Small Village on the Border The battle for food!

話は少し変わりますが、極東ロシアには人が600万人程度しかいません(ソ連崩壊時にはそれでも800万人いた)。それに対して国境の向こう側の中国(黒龍江省・遼寧省・吉林省)には1億を超える人が住んでいるため、ロシアに人がどんどん流れてきてロシア領が中国化してしまうのでは?という懸念がロシアにはあります。

領土を奪い取るという事態まで発展はしていませんが、極東ロシアでは放置されていた農地を中国人が開拓し、農作物を中国に輸出してしまうことがロシアでは問題になっています。

このテーマについて特集している「極東ロシアの農地が中国人に奪われていく」という動画で大農園を営む中国人は、John Deereの最新式の30万ドルもする機械を使用しています。John DeereはCESに毎年出展しているハイテク農業機械メーカーです。

一方、お金がない地元のロシア人農家は30年近く前、ソ連時代の旧式農作機械を使って畑を耕しています。

コロナに関しては人民の生命の安全と健康を最大限に守ってきた(最大限度保护了人民生命安全和身体健康)

『「人民至上」「生命至上」の理念を貫き』という表現を用いて、コロナに対して国民の命を第一に考えてきたということを主張しています。

中国は「リソースの乏しい病院のネットワーク、重症化のリスクが高い膨大な高齢者人口、さらに国産ワクチンの有効性が比較的低い」というファンダメンタルの脆弱さを抱えているため、(多少の邪念はあったとしても)やむを得ずゼロコロナ政策を取り続けてきたと考えるのが妥当です。

昨年の演説では「中国はコロナに世界に多大な貢献をしている」というスケールの大きな話ばかりでしたが、今年はそのような話は一切なく、上記のように大衆に訴えかけるメッセージが中心です。

コロナの話の最後も『まもなく光は見えるでしょう。皆さん、もう少しだけ頑張ってください。団結しやり抜くことで、初めて勝利は収められるのです。』という言葉で締めくくっています。

江沢民にはさらっと触れるだけ(江泽民同志离开了我们)

2022年には江沢民元出席が死去しました。

この事について『私たちは彼の偉大な功績と崇高なる風格を深く追想するとともに』などを述べる程度で、江沢民の発言を引用するでもなく、ある種淡白な内容です。

ただ、こちらの記事を読むと追悼大会での礼賛が尋常でなかったという話もあるので、(習近平と江沢民の距離が遠いわけではなく)場面を使い分けているだけなのかもしれません。

オリンピック、有人飛行、そして宇宙ステーションの完成(北京冬奥会、神舟、中国空间站全面建成)

天宮号宇宙ステーション (完成型)

2022年には「神舟13号」「神舟14号」「神舟15号」の有人飛行が成功しました。宇宙ステーションも完成したようです。NASAのサイトによると、中国は宇宙ステーションをさらに拡大する計画があるようです。

3隻目の空母「福建号」も進水。「福建」という名前は、台湾統一に対する習氏の強い意志から、台湾の対岸に位置する福建省にちなんで、習氏自身が命名したそうです。海軍は「江蘇」や「浙江」などのより穏便な名前を準備していたとか。

内容とは関係ありませんが、「“太空之家”遨游苍穹」という中国語が「蒼穹(そうきゅう)を、心の赴くままに旅する宇宙ステーション(太空之家)」という詩的な香りがして、なんかよかったです。

中国経済は全く問題ない(中国经济韧性强、潜力大、活力足,长期向好的基本面依然不变)

中国の実体経済がどうなっているかはともかく、中国経済は全く問題がないということを、沿海地域・中西部地域・東北地域・辺境地域と、各地域の名前をあげて説明しています。

「自由貿易試験区」の名前も挙がっていたので調べたところ、中国には21の自由貿易試験区が建設されていて、対外開放のモデルの模索やイノベーションの推進が行われているようです。

例えば「人民元・外貨一体銀行決済口座」サービスなども、自由貿易試験区の上海海南(海口、三亜、儋州の3市)で始まります。

海南島と言えば、ドバイのパームビーチそっくりの海南海花島があります。

世界頂級人工島-海南海花島

中国共産党、苦難の歴史

「私は第20回党大会後に仲間たちと延安に行き、延安時代に党中央委員会が世界でも稀な困難を克服した輝かしい時代を再訪し」と習主席は語っています。

延安、そして延安時代とは何のことでしょうか?

去年の新年挨拶では「延安」という言葉は使われていませんが、「窯洞対(ヤオトンでの会話)」という毛沢東と黄炎培の対話について触れられています。この「窯洞対」が行われたのが延安です。

延安は中国共産党の歴史では「毛沢東が延安の窰洞を拠点に抗日戦線の指揮を行った」とされていて、革命の拠点いわば聖地です(実際の歴史は少し異なるようです)。なので、新年の挨拶などの重要な節目では必ず延安に触れる(もしくは匂わす)のかもしれません。

宗の詩人、蘇軾(そしょく)の言葉「犯其至難爾図其至遠」を引用

宗の詩人、蘇軾(Sū Shì)の思治論(嘉祐八年作・1063年)から「犯其至難爾図其至遠」という言葉も引用されています。

これは「最も困難な領域に取り組むことによて、最も野心的な目標を追求する」という意味です。習氏はこの言葉を2019年の演説でも使用しています(こちらはさらに詳しい演説内容があります)。

「たとえ道のりが遠くとも、歩いていけば必ずゴールに辿り着けます。いかに物事が難しくとも、貫けば必ずやり遂げられます。」という言葉も添えていますが、ここでの中国語は「路虽远,行则将至;事虽难,做则必成」です。ピンイン(発音)ではLù suī yuǎn, xíng zé jiāng zhì; shì suī nán, zuò zé bì chéngとなり、きれいに韻を踏んでいます。

「愚公山を移す」の志を持ち、「雨垂れ石をうがつ」の根気(愚公移山的志气、滴水穿石的毅力)

歴代古文鈔 : 評註 漢書鈔 巻2 | 国立国家図書館 デジタルコレクション

「何事も根気よく努力を続ければ、最後には成功すること」の例えとして列子・湯問篇の「愚公山を移す」や漢書・枚乗伝由来の「雨垂れ石を穿つ」を引用しています。

白紙革命 | Wikipedia

「雨垂れ石を穿つ」の元となっている話には「わざわいの種は小さなうちに摘み取るべきだ」という意味があり、穿った見方かもしれませんが、白紙革命を意識しているのかも?と思いました。

いや、さすがに関係ないかもしれません。

海峡両岸は親しい家族(海峡两岸一家亲)

昨年の演説では「祖国の完全なる統一の実現は、両岸同胞の共通の願いです」と言ってます。

今年は「海峡両岸は親しい家族」という表現に留めており、昨年の「完全なる統一の実現」と比較すると、かなりのトーンダウンです。

ただし、中国語の原文を見ると「海峡两岸一家亲」とあり、親しい家族ではなく「一つの家族(一家亲)」と言っています。かなり婉曲的ではありますが、「統一」とも取れる言葉を使っています(=日本語にする時にあえて表現を丸めた可能性がある)。

いずれにしても、米国や日本での報道、そして中国の軍事的行動から受ける強硬な印象とは全く異なる表現です。

全ての青年たちが愛国の念を深く抱き、麗しい青春時代を過ごすべき(广大青年要厚植家国情怀、不负时代,不负华年)

昨年の演説では「奮闘努力しつつ、怠けることなく信念を堅持して初めて、歴史に背かず、時代に背かず、人民の期待に背くことがないでしょう。」と訴えていました。これは当然、国民全員で努力しようということです。

昨年使用された「歴史に背かず、時代に背かず、人民の期待に背かず(不负历史、不负时代、不负人民)」に似た表現、「不负时代,不负华年」が今年も使われています。

しかし、今回はメッセージのターゲットも、使用されている文脈も異なります(従って似通った単語を使用していても意味は異なる)。

メッセージ内容は「(国家に反逆的な行動をするのではなく)愛国心を持って努力し、(デモなどせずに)麗しい青春時代を過ごすべき」ということです。

「不负时代,不负华年」を人民網は「麗しい青春時代」と意訳していますが、直訳すれば「時代と年齢に相応しい」となります。

もちろん「未来の国を作るのは若者なんだから、がんばって欲しい」という期待も込められているとは思います。

【龍成メモ】

習主席の昨年の挨拶は躍動感があり読んでいてドキドキする内容でしたが、今年は落ち着いた地味な演説です。

ゼロコロナ政策に対する中国共産党の苦悩、そして若者を諭すような言葉も印象的でした。

個人的には古典の引用と、漢文Rapが好きです。ピンインをちゃんとチェックする時間がなかったので、漢文Rapについてはかなり見落としていると思います(時間のある時に再度チェックしたいです)。

#習近平  #中国共産党 #台湾統一 #中国経済

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