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生まれ(遺伝子)か育ち(環境)か? ~ まずはキツネの話

Neuroscienceに関する英語の論文や記事を読んでると、よくこのNature(生まれ)かNurture(育ち)かという話が出てきます。リンデンの新著(あなたがあなたであることの科学)の第1章や第2章でも、まさにこのテーマについて語られています。

ちなみにリンデンはNature or Nurtureという対立軸的な考え方が嫌いで、そして特にNurtureに含まれる「育てる」という概念が、親が子を育てるという遺伝以外の要因のごく一部に光を当ててしまっているため、このNurtureという言葉に嫌悪を持ち、うぇーと言ってます(いや、本当はうぇーとは言ってませんが、こき下ろしてます)。

リンデンの第1章ではまず「キツネの家畜化」の話から始まってます。

1万5千年以上前に野生のオオカミが家畜化され犬になりましたが、ソ連の遺伝学者ドミトリ・ベリャーエフは、家畜化のプロセスにおいて一番重要な特性は「人間への攻撃性が低く、人間を恐れないこと」であるという仮説を立てます。

そして、この特性にフォーカスをして野生のキツネの交配を繰り返すと、犬と同じようなキツネの家畜化が起こるかどうか、人懐っこいキツネが生まれてくるのどうかを実験によって検証して行きます。

Peter Ahrend (Pixabay)

本の中ではこのキツネの交配の過程はそこまで詳しく触れられていませんが、とても興味深いのでWikipediaの内容をもとに流れを追ってみたいと思います。

まずキツネを家畜化する方法は極めてシンプルで、生まれたキツネの子の中から人間になつく性質を持ってるかどうかのスコア(Tameness Score)をつけ、そのスコアが高いキツネだけを繁殖し、次世代の子キツネを作ります。そして、その子孫の中でもスコアの高いキツネを選別し次の繁殖を行う。これをひたすら繰り返していきます。

選別に用いるスコア(Tameness Score)は「実験者に近づこうとする性質」があるかどうかとか「実験者が触ろうとすると噛み付くか」などから判断されます。純粋に遺伝子が生み出す行動の差異によってキツネを選別するために、キツネにはいかなる訓練もせず、人との接触もごく短時間に限定されました。

そして早くも第2世代(1959年)からスコア(Tameness Score)に変化があり、世代を重ねるごとにスコアは上昇を続けて行きます。

4世代目(1963年)には、ある雄キツネに「尾を振る」行動が観察されます。また1962年には繁殖行動にも変化が表れ、通常の1月~3月ではなく、10月~11月という早い時期に「発情」の兆候を示すキツネが表れます。野生の哺乳類はたいてい年に1回だけ短期間の繁殖期を持つの対して、家畜化された動物は年に2回以上繁殖することが多いのも特徴の一つです。

1972年には、10月から11月にかけて発情する雌も出てきました。しかし、雄の方はまだ交尾に対しては準備ができていませんでした。1976年になると、最も家畜化が進んだ雌は12月20日という早い時期に交尾し、一部は雌を出産した後、3月から4月にかけて再び交尾を行いました。

少し時間が前後しますが第10世代(1969年)では、雌の子キツネに"floppy ears"、つまりタレ耳のキツネや、他の子キツネにも腹・尾・前足に白と茶色の斑点のある「まだら模様」のキツネが現れます。この可愛らしいタレた耳やまだら模様は、家畜化された他の動物にも見られる特徴です。

家畜化されたキツネのその他の特徴としては、尾が短くなる・頭蓋骨の長さが短く幅が広くなる・巻いた尾などもあります。

ナショナルジオグラフィック PHOTOGRAPH BY DARYA SHEPELEVA

行動レベルや見た目の変化だけでなく、生理的なレベルでの変化も起こりました。まずはアドレナリンのレベルが低下したことが挙げられます。ストレス反応に関係するコルチコステロイドのレベルも、12世代にわたる選択的交配の結果、飼いならされたキツネのコルチコステロイドレベルは対照群と比較して半分程度になりました。そして28~30世代後には、そのさらに半分のレベルになります。また、飼いならされたキツネの脳には、より高いレベルのセロトニンが存在しました。このようなアドレナリンやセロトニンのレベルの変化が飼いならされたキツネの攻撃性の低さと相関しているのでは、と考えれれてます。

ということでキツネの話だけで力尽きてしまったので「Nature(生まれ)or Nurture(育ち)」の話は次回に。


【龍成メモ】

科学的な話を書く場合は、面白く書こうとすると不正確になり、正確に書こうとするとつまらなくなる、というジレンマがあります。

キツネの話についても本文では「野生のキツネ」を繁殖させと書いていますが、本当に野生のキツネではなく農場で飼育されていたキツネを使ったようです。

また家畜化による身体的特徴の変化も、全動物に共通して起これば面白いのですが、実際は必ずしもそう単純ではないようです。

The taming of the neural crest: a developmental perspective on the origins of morphological covariation in domesticated mammals

いずれにてもこのソ連の研究、そして研究から得られた仮説は非常に重要で、これを発生学(embryology)に基づいて説明ができないか?という試みもあるようです。

The “Domestication Syndrome” in Mammals: A Unified Explanation Based on Neural Crest Cell Behavior and Genetics

普段読まない分野なので間違いもあるかもしれません。是非ご指摘ください。

アタマが完全にウニなので、この辺りで今日は撤退したいと思います。最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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