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「#君のことばに救われた」小説3作品

 あまく、優しいだけの言葉は要らない。共感だけに頼ったあざとい感動も要らない。そんな瞬間が私には間違いなくある。ただ一度、言葉でおれを殺し、甦らせてくれ。痛みと苦しみの果てからでしか生まれない強烈な情動。誰しもがそれに救いを求めているとは思わないし、その言葉を必要としない人間のほうが〈幸せ〉なのではないか、と不安にもなる。しかし(特に、かつての)私が必要としたように、そんな言葉でしか渇ききった心を潤せない人はいるはずだ。

 ①小川勝己『イヴの夜』(光文社文庫)

 純愛。純粋な愛。ひたむきで一途な想い……愛と呼ぶのをためらってしまうほど痛く、しかし愛としか呼びようのないものこそを、〈純愛〉と呼ぶのかもしれません。他者とうまく関わることのできない二人の姿は、〈恋〉や〈愛〉という言葉に唾を吐きかけたくなったことのある人こそ読むべき恋愛と言えるかもしれません。

《たとえささやかな抵抗だとしても、これからは、戦うことができる。自分たちに向けられる敵意と。そして、なにより自分たち自身に潜む悪魔どもと。》

 ②中村文則『その先の道に消える』(朝日新聞出版)

 誰からも愛される、という小説がもしもこの世に存在するのならば……。本書は誰からも愛される、ということを敢えて拒絶した小説だ。好感や共感から背を向けた作品だ。この小説を受け入れられない人も決してすくなくはないと思う。受け入れられない人の気持ちを否定しようとは思わない。

 だけど昏い感情の果てからでしか見いだせない希望をよすがにしか生きられない人間がいることを知っておいて欲しいとは思う。間違いなく私は手を差し伸べられたような気持ちになった。

 ③深町秋生『ヒステリック・サバイバー』(徳間文庫)

 いじめや身近な暴力を扱った学園小説は多いですが、暴力や狂気に走る者に対する見方や明確に区切られた勧善懲悪的な描き方を否定し、徹頭徹尾、理解の難しさを描く、過激な内容に反して、とても誠実な物語です。

 運動部とオタクの対立を描いた学園小説、という言葉だけでは想像できないほどに、本書は昏く、重い。読んでいる間、自身の中にある嫌な部分や弱い部分を何度も刺激されました。読んでいて苦しくなる小説ですが、優しさが残る結末の余韻とともに本を閉じた時、この小説に出会えて良かった、という気持ちになりました。

(今回は3作品とも再読なしの記事になります)

 優しい言葉や共感が救いになることはもちろんあると思いますし、私自身、救われたこともあります。ですが〈優しさ〉や〈共感〉だけでは何も感じなくなった時、その時はこれらの作品を読んでみてはいかがでしょうか。大切な出会いは意外と別のところから、やってくるものです。