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地方大学生のぼやき#37「だが、情熱はある」

自分の人生に夢や目標、そして信念と覚悟を持って生きようとする人たちに、昔から果てしない憧れがあった。

このような人たちに憧れを抱くようになったのは、高校の頃からだったと思う。明確な理由はないけれど、「クレイジージャニー」や「アナザースカイ」を観るのが好きだった。
特に「クレイジージャーニー 」に出演している人たちは、普段生活している中では、見ることのできない景色を視聴者に見せてくれた。そして、出演している「ジャーニー」の方々は、”生きている”実感を持った顔を常に僕ら視聴者に見せてくれていた。


「こんな大人になりたい」


僕は彼らに羨望の眼差しを向けていた。

それと同時期に僕はラジオを聴くことが新たな趣味となっていた。深夜のブースで、常に鳴り響く笑い声。大の大人たちが、くだらないことをしあったり、言い合ったりしているのが、高校生ながらに格好いいなと思った。僕も彼らのように、大人になってもくだらないことで笑いたいと強く思った。


けれど、当時の僕は、彼らの「”生きている”ことを実感している顔」と「くだらないことで笑い合う時間」の裏に潜んだ想像を絶する苦労を知らなかった。その道で進むための決意を固めた日の夜があったこと、その道で進むことで生じる苦労を乗り越えているということを。

表面しか見ていなかったのだ。

大学生になり気づいた。大学を卒業し企業に就職するという所謂社会のレールから逸れるような道に進むことの過酷さを。
それと同時に気づいた。


自分には「何もない」ことに。

その事実に気づいた時、とても悲しくなった。そしてさらに気づいた。自分は「中途半端」な人間なことに。

昔から、人とは違うものを好きでいることに「他人とは違う」と何の意味もない優越感と自信に浸っていた自分がいた。何も生み出しているわけではないのに。ただ、趣味が人と違うだけなのに。

何かを「好き」な気持ちを持つことは、誰でもできる。

「好き」な気持ちを、長い時間と熱意と努力と人生を投げうる覚悟から自分のオリジナルを生み出そうとするハングリー精神に変換して、それを他者に認めてもらうために挫折を繰り返すことこそが、”生きている実感を持った顔”と”仕事でくだらないことで笑う”こと、そして「生きた証」につながっていくのだ。

「好き」な気持ちは誰でも持つことができる。しかし、自分よりもその分野に詳しくて、熱量を持っている人が世の中にはたくさんいると考えてしまうと、何かをする前に自分の熱量と能力に勝手に限界を設けて行動を起こさなくなってしまう。

その程度の気持ちのやつが「何者かになりたい」なんて、馬鹿げた話で、ただ目先の欲望を満たしたいだけのクソ野郎だ。

なぜか僕の周りには、人生に夢を持ち、人生をかけて夢に向かって社会のレールから外れて行動する友人が多い。彼らを見ると、羨望と劣等感を当たり前に抱いていた。高校生の頃と違うのは、羨望と同時に劣等感を抱いてしまっていた。それが悲しかった。

ただ、その現実に気づくことができた現在の僕だからできることがある。それは、彼らの夢をひたすらに応援することと、自分が本当にしたいことは何かを改めて考えることだ。

昔に漠然と考えていた、この一度しかない生を全うする上での目標について思い出した。

一つ目は、何かひとつ楽器を弾くことができるようになることだ。

昔から、ステージ上でミュージシャンが楽器を弾いている時、音を鳴らしている時、普段生きているだけでは感じることのできない表情がそこにはあった。この世とあの世の狭間で生きているような雰囲気が立ち込めていた。僕もそちら側の世界に行ってみたいと強く思った。そしてこれは何より、分かりやすい自分の武器になり得る。


二つ目は、オーストラリア大陸を車で縦断することだ。

高校生の頃、「アナザースカイ」で俳優の北村一輝さんが、車でオーストラリア大陸を縦断している姿を見て、感覚的に「これだ!」と強く感動したことを覚えている。何故、周囲に何もない道をただひたすら走るだけの姿にこんなに自分が強く惹かれているのか。それは、圧倒的な”自由”をそこに見出していたからだと思う。気ままに車を走らせ、気ままに休憩し、気ままに食事をとり、夜は星を見て。そのような時間の過ごし方には、現代の日本では得ることのできない、圧倒的な時間の余白があった。

この2つの目標は、僕がこれまで散々羨望を抱いていた、何かを生み出し「何者かになる」ことからは、かけ離れているかもしれない。

これらの目標を達成した先に見える景色があるかもしれない。その未確定な希望にすがりつきながら、我武者羅にこの先、生きていく。

そして僕は新たに気づいた。僕は、「何者かになりたい」のではないんだ。
ただひたすらに”生きている”ことを強く実感したいだけなのだ。未知の空間に飛び込んで、時間の流れが現世と異なる感覚を味わいたいのだ。ただそれだけなのだ。


ネガティブで嫉妬心に溢れ、劣等感を抱き、そのくせに何も武器を持っていないただの凡人の僕。


だが、情熱はある。

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