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レジ袋が開かないまま立ち尽くす43歳

鍋の用意にスーパーに買い出しに行ってレジを終えると、予想以上に荷物が多いのでレジ袋をもらいました。

で、エコバックに荷物を詰めて残りのお肉などをレジ袋に詰めようとしたのですが袋がまったく開きません。なにをどうやってもレジ袋がぴったり張りついて開かないのです。

わたしは折ったり湿らしたり数分のあいだ格闘しましたが、あまりの開かなさに驚き、そして軽く絶望しました。まるで宇宙が終わったかのようにそこに立ち尽くしたのです。

まわりをみわたせば主婦や主夫の方、ビジネスパーソンなどが、てきぱきと食品をバッグに詰めています。レジ袋だってパッと開いて生ものや加工食品を入れたりしています。

わあ、すごいなあ。

わたしは彼ら彼女らを見て、しばらくぼんやりと立ち尽くします。まるで自分がなにもできない人間かのようです。

ため息をついてもう一度われに返ると、また袋を開けようと試みます。でもダメです。やればやるほど、指先も疲れてきてなにひとついい方向に進みません。

5分くらい経ったでしょうか。5分近く袋が開かないまま立ち尽くしている大人っているのでしょうか。考えようによってはこれは珍しい。

そう思うとすごく自分が価値のある人間であるような気がして、よりその場に立ち尽くす意義を感じます。

そうだ、このままレジ袋を開けないままずっとここにいてもいいやという気持ちにもなるのです。

レジ袋を開けないまま立ち尽くす43歳。

なかなかいいフレーズです。まるで世の中からわたしひとりが取り残されたかのような錯覚すら覚えます。でもそれは決して焦りのようなものはなく、心やすらかなものです。

そんなことをふと思って、レジ袋に目を戻すといつのまにか袋はすこしずれて開いていました。ああ、一気に俗世に引き戻された感じです。

しかたがありません。まだまだ世間はわたしを必要としているようです。帰宅後の細々とした仕事を思い出すと、大きく深呼吸して帰路につきました。

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