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Ep.009: 時をかける少年たち-ニューヨークの追憶

 ある日、働いている店に強盗が押し入った。強盗といっても、刃物を突きつけられて、「金を出せ!」といった景気のいいものではなく、4、5人の悪ガキ共が、フードをすっぽりと被り、隙あらば商品を掴んで一目散に逃げていくというもので、一年に数回はあることだ。

辺りが暗くなった閉店直前に事件はおきた。

監視カメラをチェックした上司によると、数人が交互に店内の中を覗き見しており、私達が縦に長い店の奥の方で、談笑しているのを確認した。勢いよく店内のドアが開かれ、数人が蜘蛛の子を散らすように四方八方にばらけた。それを見た私は反射的にかなり大きい声で彼らに「挨拶」という名目の警告じみた声を投げかけ、早足で彼らに駆け寄った。

その声が合図であったように、彼らは一番近くにある商品を掴み、出口に向かって走り始めた。私と部下のOはその時点で怒声と共に追走し、店の外に飛び出したが、二人で飛び出してしまうと、店が一時的にカラッポとなることもあり、数メートルで私たちは停止し、逃げていく彼らを悔しく見守った。

店内に戻ってみると、地下にいた部下が戻ってきていて、心配そうな顔で私を見ていた。警察に連絡したあと、周りを見渡し被害状況を確認しようとした。おそらく盗まれたのは4点ほど、アドレナリンが私の体を駆け巡っていた。すると鮮やかな血が点々と床に垂れていることに気づいた。私はその時初めて自分の左手からかなりの量の出血をしていることに気づいた。

痛みは全くない。こんなに大量の血を見るのは人生で初めてかもしれない。ツヤのある質感、濃い赤、私の肌に何本もの線を描き、床にポタポタと血は垂れ、それは次第に血だまりに変化していった。止血を施し、警察が来る間、部下が詳細を聞きたがったが、私は左手を少し高く上げ、黙って虚空を見つめ考えこんでいた。それはこの事件の数時間前に見た光景についてだった。

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