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#詩

〈掌編小説〉 『鯨』

〈掌編小説〉 『鯨』

「僕、実は鯨なんです」
 最近よく顔を見るようになった男はそう言った。私が働いている定食屋でいつも唐揚げ定食を食べている。27歳の私と歳の近そうな男だ。
「わざわざ大海原から遥々いつもありがとうございます」
「いえ、海と比べたら陸なんて大した広さではないので」
「それでも泳ぐよりは遠いでしょう」
「この2本足というのが面倒で」
「いつもはヒレですもんね」
「そうではなくて、4本あるんだったら4本使

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〈詩〉 あ、春

まるで 違う生き物のように
うつくしい言葉を使う あの人も
同じように iPhoneの画面をなぞる

それは 鳥が鳴くのと 同じで
からすも うぐいすも みな
鳥ののどを使って
同じ空気をふるわせ さえずる

僕は からす色のiPhoneで
あの人は うぐいす色のiPhone

あ、春だ

〈詩〉火葬場

まだ誰も焼いていない火葬場に
まだ誰も焼いていない火葬場の人が
まだ誰も焼いていないのに
もう誰か焼いたような扉して
もう誰か焼いたような顔した人が
初めて誰かを運びいれて
火葬場は初めて人を焼く
もう誰か焼いた火葬場
もう誰か焼いた人
火葬場は誰かを焼いて火葬場になって
火葬場の人は
誰かを焼いて火葬場の職員になる
まだ誰も焼かれていない火葬場が
そこにある
真新しい 火葬場が