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監訳作業の手順

フレームワークで考える内科診断』では、自分でも翻訳を担当するものの、主な役割は監訳ということで、こちらは翻訳とは異なる手順で作業をする。

翻訳をするときには、原文を章単位などひとかたまりでザッと読んでしまって、全体の流れを掴んだあと、アタマから順にチビチビとゴリゴリと訳していく。

私が監訳をする場合は、これとは手順が異なり、原文を読むことはせず(とはいえ、一回は読んでいるので、なるべく内容を忘れて)、訳者からいただいた翻訳の原稿を日本語だけで読む。そうすると、日本語としては不自然なところや、パッと読んだだけでは意味がわかりにくいところが出てくる。こういうところがあると、すぐに原文と照らし合わせたくなるのだが、その気持ちをググッと抑えて、気になるところは印を付けて、ひとまず日本語だけで読み切る。これがまずは最初の段階。

次に、英語の原文と、日本語の原稿を横に並べて、逐一訳を見ていく。これは紙でやるとなかなか面倒なのだが、翻訳するときには原著のPDFファイルをもらっているので、コンピューターの画面でキッチリ横に並べて作業する。自分で翻訳するときには専門用語の和訳をいちいち確認しながらの作業になるが、先に翻訳してもらった原稿だと、そのあたりは済んでいるものとして、表現を中心に確認する。

それぞれのチャプターの質を上げつつ、本全体としての統一感を出す必要があるので、訳語や言葉遣いに関しては一旦保留にしておくこともよくある。例えば、「低ナトリウム血症」のチャプターと「高ナトリウム血症」のチャプターでは似たような内容が扱われているので、両者を対比して、用語や表現を統一していくという作業もこのあとに行うことになる。複数のチャプターに出てくる用語に関しては、一覧表を作って、それぞれの翻訳者がどのように訳しているかをまとめておく。『フレームワークで考える内科診断』では、最終的に統一用語リストは160項目ほどになった。監訳は「ザッと見てOK!」ではなく、割とマメで時間がかかる作業である。