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単位について

 アメリカの本でやっかいなことに単位の扱いがある。アメリカはメートル法の国ではないので、日常生活での長さの単位はインチ(inch)とかフィート(feet)だし、体重などの重量の単位にはポンド(pound)を使う。

 三谷幸喜監督の映画『みんなのいえ』には、田中邦衛さん演ずる昔気質の大工、唐沢寿明さん演ずるアメリカ帰りのデザイナーが登場し、長さの単位が尺かインチかで口論する場面がある。これは実は笑い話で済む問題ではなく、NASAが火星探査機”Mars Climate Orbiter”を事故で失ったのも、単位の違いが原因だったとされている。というくらい、単位の話は大事である。

 アメリカの本である『フレームワークで考える内科診断』には、「2ヵ月で20ポンド体重が減った」などという表現が出てくる。文芸書の場合、翻訳らしさを残すためにあえてそのまま”pound”の表現を残すことがあるらしいが、医学書の場合、「20ポンド体重が減った」とするのか、「20ポンド(約9kg)体重が減った」か、「9kg体重が減った」なのか悩ましいところである。ほとんどの日本人の読者にとっては20ポンドという情報は役に立たないだろうと考えて、本書では省略することに。

 その他に、医療分野で使われる悩ましい単位として、距離を表す「ブロック(block)」がある。かつては心不全の重症度分類にも使われており、本書でも「4~5ブロック歩くと息切れする」というような表現が登場する。そもそも1ブロックというのがどれぐらいの距離なのかわからないと、息切れの程度がわからない。というわけで、実際に調べてみると、これがまた面倒なことに街によっても違うのだそうだ。確かに都会と、私の住むような田舎町では1ブロックの距離にだいぶ差がある。田舎の方が距離が長い。

 このように、一概には言えないのだが、例えばマンハッタン(ニューヨーク)であれば1ブロックの距離は80メートルである。とすると、「4~5ブロック歩くと息が切れる」と言うのは、320~400メートル歩くと息が切れるということになり、そこそこ客観的な指標とも言える。しかし、日本で代わりになるような指標がないため、翻訳する場合には元のまま「ブロック」にするのか、あるいは「メートル」に置き換えてしまっていいのか悩むことになる。