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マリファナ店のブラックフライデー

以下の文章は、ボストン大大学院で学んでいたジャーナリズムの授業の宿題として、2019年11月に執筆、提出した記事(を和訳して一部再構成したもの)です。とりたててアレな記事ではないですが、ヒラのお巡りさんからマリファナ店のお客さんまでふつうに実名で取材に答えてるあたりが、日本の常識とはだいぶちがっていてちょっと面白い。

【マサチューセッツ州ブルックライン】サンクスギビング前日の朝、その店の前には50人以上の人々が並んでいた。おしゃべりをしながら、開店を行儀良く待っているのである。

ちょっと早めのブラックフライデー、というわけではない。ボストン地区で唯一の合法マリファナ店、New England Treatment Access(NETA)にとって、こんな行列は当たり前なのだ。

この店は医療用マリファナの利用者のために、ブラックフライデー割引を用意していた。でもNETAの店員によれば、3月のオープン以来、店の外の行列は「ごく普通のことです」。

NETAの前にできた行列=2019年11月27日午前、マサチューセッツ州ブルックライン

NETAはマサチューセッツ湾交通局(MBTA)のブルックライン・ビレッジ駅に近く、店やアパートが立ち並ぶ繁華街にある。隣には託児所もある。

ブルックライン警察は、町の外から訪れる多くの人がトラブルを起こすのを防ぐため、この地域を巡回している。ダニエル・ヤネス巡査によると、この店が客で満員になるのに驚きはないという。

「客足は(開店して)最初からかなり順調ですよ」とヤネスさん。暖かくて晴れた日は、さらに混雑すると説明した。

NETAの出口で警備する警察官=2019年11月27日午前、マサチューセッツ州ブルックライン

4年前には違法だった商品は、お菓子やサプリメントのようなオシャレな箱に詰められている。行列の待ち時間を短くできるよう、ホームページから商品を予約できるシステムもある。

ほかの小売業と同じく、NETAもサンクスギビングの宣伝に余念がない。たとえば、グレープシードオイルにマリファナ抽出物を混ぜた「Elevation Oil」を使ったキャラメル・アップルのレシピをTwitterに投稿した。ティースプーン2杯のオイルにココナッツシュガー、ココナッツクリームを混ぜ、加熱してキャラメルを作る。これをリンゴにかければ完成だ。レシピ本は無料でダウンロードできる。

ほかにもブラックフライデーのセールで、「D-Line」と呼ばれるマリファナオイルを医療用利用者に15%から24%の割引で販売する。

だが、大麻はまだ売り手市場だ。

マサチューセッツ州では2016年に娯楽用大麻が合法化されたが、NETAが娯楽用利用者への販売を開始したのは、それから3年以上後のことだ。州全体でも免許のある大麻小売店が多くはなく、需要が供給を上回っている。

NETAにとって、今年は初めてのサンクスギビング。でも、大幅な値引きを待っているであろう利用客に感謝するタイミングでは、少なくとも今年はないのである。

開店前から並んでいたフアン・パブロ・モラレスさんは、ブラックフライデーだから来店したわけではない。彼は3.5グラムのドライフラワーと紙で包まれたジョイントを、税込み計84ドルで購入した。このジョイントは高濃度のエキスを含んでいて、他では買えないユニークなものだという。

「2回もやれば、ぶっ飛ぶよ」とモラレスさん。

モラレスさんは42歳のコロンビア人。マイアミに住んでいるが、2週間ごとにボストンに来て恋人に会い、NETAを訪ねている。

12歳のとき、年上の友人たちに教えられて吸い始めた。人生の75%をマリファナとともに過ごしてきたことになる。たしなむのは、映画を見るときや、食事をするとき。「感覚を開放して、ハイになるんだよ」とモラレスさんは言う。

マイアミの闇市では、NETAより安くマリファナを手に入れることができる。路上では1オンスあたり280ドルから250ドルで、上物が買えるという。NETAの製品なら1オンスあたり300ドルに加え、60ドルの税金を払わないといけない。

ただ、マイアミでは娯楽向けの使用は合法ではない。NETAで買うのは、マサチューセッツ州では安心してマリファナを楽しめるからだ。「違法なことをする苦痛がないから」とモラレスさんは言う。

モラレスさんによれば、マリファナが大好きなのは彼だけではない。

「今まで、人々は(マリファナに)心を開いてなかった。でも(NETAに)並ぶと、医者も看護師もいるし、それにビジネスマンもいる。みんないるよ」とモラレスさん。「普通になったんですよ」

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