見出し画像

カツオドリに誘われて、母島 小笠原ひとり旅5日目 #10

小笠原諸島には、父やら母やら、なんなら兄、弟、姉、妹、、、なかには嫁島なんてものもあるらしい。人が住んでいるのは父島と母島だけ。

行きのフェリーで見つけた母島のパンフレットには「日本一遠い離島」なんてキャッチコピーまであった。なんてことを言われたら、行くしかないでしょうと思い立ったのだった。

じつは、小笠原のことを教えてくれた友人も、まだ母島にはいったことがないと聞いていたから、あいつに教えてやるんだという謎の使命感も持っていた。

写真にも、話にも聞いていないまっさらな島。どんな人が暮らしているのか、それがみれると思うだけでワクワクが止まらない。

4日間お世話になったロックウェルズとも今日でお別れだ。

オーナーの佐藤さんは毎日朝早くからおいしい朝ごはんをつくってくれた。売店のない扇浦地区で、あたたかいご飯を出してくれるだけで、ありがたさで心がいっぱいになる。

この4日間、宿泊客へあまり干渉してこない姿勢が、佐藤さんらしかったし、気を遣わなくてもいい分うれしかった。1日だけ泊まるなら少しくらい話したいけれど、4日も泊まるとなると変に距離を詰めてもね。オーナーをやりながらみつけた距離感なんだろうなあ。

毎日、ごちそうさまでした

湿気のすごい父島では、出てくる海苔がいつも湿気ていた。袋に包まれていても湿気てしまうほどだった。

ムンとしたまとわりつく暑さは、行かないとなかなか伝わらないけれど、こうした小さい事象のほうが伝わったりするよね。写真ではつたわらないことのひとつだなあと考えながら、サバとごはんを巻いて食べる。うん、充分おいしいじゃないか。

朝早くに船が出るということで、村営バスがまだでてないからと、奥さまが宿まで迎えにきてくれた。お子さんは朝から元気よく家でお留守番をしてくれる。僕なんかのために朝からきてもらって申し訳ない…。

この一家はこの島で一生懸命暮らされているんだなあとなんだかしみじみする。

いい天気に恵まれて、いいときにきましたね。本当ですよね。

港まで送っていただき、母島行きの港につくと、集まっている顔ぶれがさらに選ばれし人々で、港に流れている空気も、なんだか違っていた。

父島はリゾート地にいくマダムたちの浮かれた雰囲気だったけれど、母島にいくのはひとり旅や研究をしにいく学生団体のような人が多く、浮かれるというよりは、どっしりとしていたのだ。

これから目にするであろうあたらしい世界に、静かに心を躍らせているようだった。

ひとり旅の玄人たちは自分の時間の過ごし方をよく知っていて、荷物も小さくビールを片手にぼーっとしている。

研究をしにきた大学生だろうひとたちは、網や参考文献を片手にどんな生態に出会えるのか、興奮して会話していた。学生時代に母島で研究なんて、そんな人生の選択肢があったのか・・・と横目にみながらおどろいた。

僕なんてお金ないからといって、夏休みを1ヶ月フルでつかって、車の部品工場で真夏の太陽の下毎日働いてたのに。すこし、いや、かなりうらやましかった。

出航の準備が整い、乗船をはじめる。島の外から外来種をもちこまないように、靴底を洗浄してから乗っていく。

ははじま丸の船内はおがさわら丸よりもぐっと小振りで、小振りな割には席もガラガラだった。

小笠原に来る人は「1航海」と呼ばれる、5泊6日の旅程が一般的で、そのうちの2泊は24時間かかる船でするものだから、実質島で過ごせるのは3泊だけなのだ。

そこからさらに2時間かけて母島にいくひとはなかなかいないのだろう。自分もいつもだったらいけなかったろうなあ。つくづく働き方というのは、ライフスタイルや得られる世界観に影響するのだと実感する。

無意識に2週間も島にいこうなんて、考えつかないようになっているんだ。

島の独特のテーマソングのような歌が流れているなか、席に着き、窓の外に目をやる。ちらほらと、観光客か現地の方かわからないかたがまばらに手を振ってくれていた。こういう見送りと歓迎の度合いも小振りでおもしろい。

誰かがかけたiPhoneのアラームが船内に鳴り響いた直後に、出発の汽笛がとおくでぼーっと鳴る。汽笛も小振りのようだ。「本日はははじま丸にご乗船いただきありがとうございます」と女性の声のアナウンスが流れ出す。音、音、音の連続に、4日間父島に慣れはじめていた身体に、一気に旅情が湧き出した。


ここからは下記「Listen in browser」を選択し、イヤホンで聴きながらご覧ください。

Sound - ははじま丸船内


5日目も晴れた。この旅が始まってからというもの、毎日うそみたいに晴れつづけている。信仰心が深いわけではないけれど、このタイミングで訪れたことには意味があっただろうと感じていた。

ははじま丸は船が小振りな分、おがさわら丸のときには遠くを飛んでいたカツオドリも、すぐ近くまで来てくれて臨場感があった。流麗なシルエットと、白黒青の色使いが妙に美しくて、影さえもかっこいいと興奮していた。

母島までは、父島から船で2時間で到着する。24時間の船旅を経たからか、カツオドリに夢中になっているとすぐに到着して、すこし物足りなさもあった。

ぼこっと凹んだような島の形をしているのが気になる。あの湾のようになっているところに入っていくのかと思いきや、島の横顔をみながら進んでいく。はたしてあの場所にもいけるんだろうか。

横をつっきりながら目に映る島の緑が、より野生味を帯びているように感じた。友人に写真を撮って送ると、「やばい、ナショナルジオグラフィックじゃん」と言われる。読んだことないからわからないけど、そんな感じだよ、と返した。

住民の生活圏が島の一部分しかないと調べて知ってはいたけれど、自分の目で見ると明らかだった。本当に船が到着する港のまわりだけに建築物があって、それ以外は自然が広がっている。

名前の知らないビーチから手を振ってくれる
また違う海の色
到着した

父島よりもムンとした湿度の高い空気に身を晒しながら、母島に降りたった。お世話になるペンションドルフィンの看板をもった、湘南あたりでSUPをしていそうな女性についていった。

(次回へつづく)
https://note.com/ryoma1015/n/nd3f669bc4555

↓マガジンに随時まとめています



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?