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2024.07.01 Enfants 「Q.E.D.」@表参道WALL&WALL

Enfantsをしっかりと聴き始めたのは今年の初め頃。

もともとバンドの名前と「Play」という楽曲だけは知っていたのだが、とあるテレビ番組でこの曲が紹介される機会があり、「やっぱり良い曲だな~」と思った。これを機にほかの楽曲も聴いてみることにした。

それから間もなく2nd EP「E.」がリリースされることを知り、配信が開始されたその日に早速聴くことにした。Enfantsのライブに行きたいと思うようになったのは、このEPを聴いてからである。

最初は音の緻密さや楽曲全体の雰囲気をなんとなく感じる程度で聴いていたのだが、ところどころで耳に入る歌詞が、まるで自分のことを歌っているのではないかと錯覚してしまうほどに思考とリンクする。しっかりと歌詞を読んでみるとその感覚はあながち間違ってないように感じてどきどきした。普段からさまざまな音楽を聴いてはいるが、あまりこういう感覚になることはない。

その感覚を確かめるためにもライブに行こう、とチケットを取ったのが5月の終わりくらい。人生初の表参道、人生初のEnfantsのライブ。緊張とわくわくした気持ちで会場へと向かった。


表参道WALL&WALLという会場は、ライブハウスとしての役割にとどまらず、立食パーティーやワークショップなどさまざまなイベントに使用されるらしい。「多目的デザイナーズ空間」と位置づけられるだけあり、会場内の雰囲気も独特である。ライブハウスにしては会場内の空気も冷たい。

会場が暗転しメンバーが登壇すると、天井の蛍光灯が白く発光。白んだ世界のなかで、「R.I.P.」と「HYS」が演奏された。

コンクリート製のグレーを基調とした壁は無機質さを感じるが、照明による演出が加わることで幻想的な空間に仕上がる。モノクロに近い景色のなかで躍動するメンバーの姿は非現実的に見えて、この時点ではライブに来たという実感が持てずにいた。

Enfantsは静と動がとてもはっきりしているバンドだ。「R.I.P.」のようなローテンポの楽曲ではそれぞれの楽器の響きを優しく、儚く届けるのに対し、「HYS」のような楽曲では豪快なシャウトを織り交ぜながら、心の全てを吐き出すような動きのある演奏をする。そのコントラストに、序盤から圧倒されてしまった。 Vo.松本大さんの声は芯の強さと儚さを兼ね備えており、どんな曲でも感情が直感的に伝わってくるような歌を歌う。本当に魅力的なボーカリストだ。

最初のMCでは、今日のライブに関しての説明があった。大さんはこの2日間のライブに関して「謝罪したいことがある」と切り出した。

今回2daysで行われているこのライブのタイトルは「Q.E.D.」。彼らは既に「Q.」「E.」という二つのEPを出しており、このライブはこれらを締めくくる「D.」というEPのリリースパーティーという名目で決定したものだったらしい。しかし、「E.」のリリースはこの日までに間に合わず、今年の3月に行われたワンマンから一曲も新たなリリースがないままここまで来てしまったようだ。

今回の公演は新しいEPのリリースパーティーとしてこぢんまりと開催しようと思っていたらしいのだが、チケットは即完。3月に行われた渋谷クアトロのワンマンも完売させているのだから当然といえば当然である。それを踏まえ、急遽追加されたのがこの追加公演である。

さっきまで謝罪モードだったのに、追加公演に関しては「お前らがありがとうって言え!!」と逆ギレ(?)する大さん。客席からは「ありがとう~!」というたくさんの歓声が。筆者は前日の公演の申し込みをなぜか失念してしまっていたため、これには「ありがとう」を言うしかない。

上記のように、このイベントはあくまでも新曲のリリースパーティーという形をとっている。そのため、新曲が解説込みでいくつか披露された。

「この曲は社畜のために歌ってるところがあるかな…」と大さんが語るのは、「社会の歯車」という楽曲。1日の中で何も得ることができなかったときの絶望感について歌われた楽曲のようだ。

中原さんが弾く重々しいベースのリフが印象的な「社会の歯車」。徐々に演奏は激情的なものに変わっていき、ドラムの勢いもさらに増していく。伊藤さんが叩く緩急のあるドラムは、楽曲全体に緊張感をもたらす。あまりにも隙が無さすぎる演奏に、音源化がなおさら楽しみになった。


「前世」との決別、「前世」があったからこその今


彼らが「前世」として位置付けている前身バンド、LAMP IN TERRENについての話もあった。

LAMP IN TERRENが活動を終了したきっかけは、中学時代から共にバンド活動を行ってきたドラマーの脱退であった。このまま新たなドラマーを迎えて活動を続けるという選択肢もあったが、メンバーが変化してしまえば今までと同じような曲作りはできなくなると考え、活動にピリオドを打ち、かねてからやりたいと思っていた別のプロジェクト(Enfants)を新たに始めることを決意したのだという。

長年活動を続けていたLAMP IN TERRENには既に多数の根強いファンがおり、「なんで活動を終わらせたんだ」という疑問をぶつける人も少なくはなかったようだ。自分たちが長い間愛してきたバンドが過去のものになってしまうんだから、それは当然のことであると思う。メンバーがほとんど変わらないんだから尚更その疑問は多かったのだろう。

しかし、それでも彼らはEnfantsとして、新たな活動を始める決意をした。「Enfantsを始めなければ、今の自分はいなかったと思う」と語る大さん。長く歩みを進めてきた大切なバンドを手放すのはとても勇気がいることであると思うが、彼らはもう、新たな方向を向いて音楽を続ける決意を固めている。

それと同時に、今後もライブではLAMP IN TERRENの楽曲を歌い続けていくということも明言した。「過去と未来は点で繋がっているから、これからも前世の曲をやり続けます」という言葉のとおり、この公演でも3曲、テレンの楽曲が披露された。



………そのような話がしばらく続いていたのだが、途中で機材トラブルが発生し、マイクの電源がプツリと切れてしまった。ざわつく会場。その空気を切るように、「今やっている音楽が大好きだし、それを聴いてくれるお前らのことが大好きです!!」とマイクを通さずに叫ぶ大さん。今日の会場はキャパ200人と小さめだったため、その叫びは会場中の空気を大きく震わせた。

その後無事にトラブルは収まり、マイクの電源も復活したのだが、大さんはマイクを通さず、「バンドで食えるためには売れなきゃいけない。だから、このままずっとバンドを続けられるかといったらそれは嘘になる。でもできる限りは続けていきたい!」と叫んだ。この言葉の後に披露されたのは「Drive Living Dead」。過去への決別と、過去から地続きに伸びている現在、そして未来。〈それでも今を選んできたんだ ああ もう戻れやしないぜ〉というフレーズを力強く歌い上げる姿に、「Enfants」としてバンドを前に進めていく覚悟を感じ取った。

彼らが「前世」についての話をしていたとき、筆者の右隣にいた女性が涙を拭っている様子が横目に見えた。きっと、長年にわたって彼らの音楽に心救われてきた人なんだと思う。筆者は彼らの前世の姿を見ることはできなかったけれど、きっと多くの人が、LAMP IN TERRENというバンドの生涯に魅了されたんだろうな、と思った。


「苦労は忘れる、作品は残る」


上記は、スマブラやカービィなどのさまざまなゲームを手掛けてきた、ゲームディレクター桜井政博氏の言葉である。
大さんはこの言葉を引用し、曲作りには苦労が伴うが、曲が完成した時にはその苦しみを忘れてしまうと話した。

「いつまで曲を作り続けられるんだろう。いつまで声が出るんだろう……と考えることが増えた」「死なないという約束はできない。だけど、生きているうちは精一杯音楽を続けていきたいと思っている」というMCはとても赤裸々であるからこそ、重みを感じる。

このMCの後には、「Q.」を締めくくる楽曲である「Autopilot」が披露された。これまでの演奏、MCが走馬灯のように思い出され、涙が出てくる。この後に演奏されたのは前世の楽曲、「fragile」。初めて聴いた曲なのに、初めてじゃないくらいに心に刺さって感極まってしまった。(この後ちゃんとテレンの楽曲も聴こうと決意した)

「いつまでも子供のままでいたいよね、っていう曲です」という解説のあとには、「Kid Blue」という新曲が演奏された。疾走感あるギターロックでありながら、いまにも炭酸の泡に溶けて消えてしまいそうな儚さも感じられるナンバーである。淡くて青い照明の中で演奏する4人の姿は美しい風景画のようにも見えた。烏滸がましい願いではあるかもしれないけど、Enfantsがステージで音楽を鳴らす世界をずっと見ていたい。この曲を聴きながら心からそう思った。

最後に披露されたのは、彼らがEnfantsとして初めてリリースした「Play」。これでライブが終わってしまうのだと思うと本当に悲しくなった。こんなにも過ぎ去ってほしくないと思った時間は今までにない。演奏を終えてステージから捌けるメンバーの姿を目で追いながら、終わってしまった……としばらく呆然としていた。


「Q.E.D.」とは何だったのか


1時間半、アンコールなし。突風のようなライブだった。

今回のライブタイトルである「Q.E.D.」は【証明完了】の意をもつ。「結局何を証明したかったのかはよく分からないけど、」と当の本人は言っていたが、このライブはきっと、LAMP IN TERRENという前世と、Enfantsとしての今の姿が線でしっかりと繋がっているということの証明だったんだと思う。

これはあくまでも主観でしかないが、この日一番の盛り上がりを見せていたのは、「ニューワールド・ガイダンス」だったと思う。この曲のイントロが流れたときの歓声には、「待ってました!」といわんばかりのものすごい熱量があった。過去は今に、今は未来につながっている。形が変わろうとも、歩んできた軌跡が変わることはないのだと実感した瞬間だった。

バンドは突然終わってしまうものだし、人間だって思っているよりもあっさりと死んでしまう。Enfantsがこれから先、どのような道を進んでいくのかは分からないけれど、このバンドがステージで音楽を鳴らし続けている間は、何度でも足を運び続けたい。いや、続ける。そう心に誓い、会場を後にした。


物販で「E.」を購入しました。(CDだと反射がすごいので歌詞カードだけ撮った)
多分、人生のベストアルバムのひとつになると思います。大切にしよう。





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