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ドアと鍵の物語2〜第一章 3

アパートの3階にいくつか部屋がありそのうちの一つに泊めてもらった。部屋の壁には女性の顔が描かれた大きな絵画とずいぶん昔の地図が貼られている。地図は北アフリカと南ヨーロッパのもので、かなり古い時代のものだった。第二次世界大戦の前の国境が描かれていた。モロッコがフランス領になっているし、現在スペインとジブラルタル海峡を挟んで南に位置するタンジェもそこには描かれていた。昔モロッコがフランス領だった頃、北アフリカには鉄道が敷かれていた。今もその名残がモロッコにありローカル鉄道に乗るとその痕跡を辿ることができる。

地図を見ていると数ヶ月前に行ったモロッコの記憶が蘇ってくる。タンジェから繋がる今パリにいるこの瞬間、目の前に広がる昔の地図。流石に今がいつかを忘れたりはしないけれど、何かの物語の入り口になりそうなシチュエーションだ。第二次世界大戦前の地政学的な背景にそこまで詳しくはないけれど、フランスは北アフリカに一定の影響力をずっと持っていた。そして今でもフランス語が人々の非公式な公用語として使われている。フランス語ができないとホテルや商店街で買い物ができない。アラビア語ができれば別だけど。

2〜3日して時差ボケがだいぶ良くなった頃に、車で大西洋の方面へ移動した。スラックという避暑地へ行き、別荘を持っている友人の家で数日を過ごす予定なのだ。友人宅まで電車で移動した。エッフェル塔が見えて大興奮、高いものには上りたい私は前回パリでトランジットした時に、この塔へ登った。東京タワーと違いエレベーターが建物に沿う形で設置されていた。そのため遠くから見た時の姿が美しい。しばらくの間郊外へ向かう電車に乗り、車内の内装デザインの美しさにため息をつきながら、フランス滞在を楽しんでいた。こういう普段人々が使っている電車に乗ったり、街歩きをするのが旅の醍醐味だと思う。

30分ほど電車に乗った後、ある駅で降りて友人宅に立ち寄った。キッチンの内装が赤でコーディネートされた素敵な家だった。コーヒーを一杯飲んだ後、車に乗り5人で移動した。フランスで車に乗せてもらいどこかへ出かけるなんて1年前の私には全く想像できなかった。フランスへ行く理由もなかったし、そんなこと思いつきもしなかった。でも、こうしてその場にいると、むしろそこにいるのがごく自然に思えてくる。

高速道路で途中立ち寄った施設は日本のサービスエリアの施設とは違い、ちょっとした売店と軽食エリア、本屋が併設されていた。コーヒーマシンはめちゃくちゃ充実していたけど、食事はサンドイッチか軽食のみだった。ユーロが円に対して高くなった今、売店のランチボックスは2000円から3000円する。こちらにいるとだんだん高い物価に慣れてくる。日本の高速道路のサービスエリアなら定食は1000円くらいだろうか。


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