見出し画像

焼き芋屋でバイトすることにした

今月末までに税金と国民健康保険を支払う必要がある。合わせて確か2万円5千円ほど。失業手当は終了したので払える現金はもうない。銀行の貯金は解約して車の任意保険へ。あとはクレジットカードの支払いが100万円。カードで支払っても借金が増えるだけなので、使う分は働くことにした。使う現金の2倍働き、支払った残り半分をクレジットカードの残額返済に充てるとそのうち借金は無くなるだろう、計算上は。焼き芋屋で働いてもこれまでのキャリアを活かせないだろう。多分面白いだろうけど。自分のさつまいもも持参して作り比べてみたい。SNSに投稿するのは禁止らしいので、残念。皆様には写真などを報告できない。できればキャリアを活かせる形で働いた方がいい。でももうサイエンスと関わらなくていいのではないか?

昨日、KEK の一般講演があって、以前はやぶさの宇宙から持ち帰ったサンプルの分析結果を紹介していた。X線を使って試料中の元素を同定して、何が含まれているかを調べる。水やアンモニア、粘土鉱物など、地球上でも割とありふれた物質が含まれている。それでも、地上で発見される鉱物や粘土鉱物などとは違い、宇宙ならではの元素の組み合わせになっていたりする。地球上、つまり地球上の表面の地殻にはアルミニウムが豊富であらゆる鉱物に見られるが宇宙ではそうではない、とか海の水に含まれる金属イオンと海底の岩石に析出したもの、それらの生物に果たした役割とか結構面白い話だった。地球科学の研究者の話を聞くのは話の視点が違って面白い。講演自体は2本だてで、前半は若い研究者、ビームラインで徹夜で実験しているような人だ。徹夜実験自体は思考能力が落ちるのでナンセンスだが、まぁ時にはそんなこともあるだろう。後半はベテランの研究者、つくばの50年前の歴史を自分の子供の頃の写真と比較しながら話をしていた。かなり対照的だった2人の研究者。

前半の研究者は専門用語を使って説明、質問時間に専門用語、というかそこまで専門的でもない用語だけど、補足が必要な言葉だった。ある金属の価数、鉄の+3と+2という電子1個分の違いの話だった。こんなの1分で説明しろと言われても、わからせることはできない。でもわかった気にさせることは可能。そうしないと次の話の核心へ行けないからストーリー構成上問題がある。ストーリーがうまく流れなくなる。

昼ごはんの後という時間のせいもある。参加者のうち後ろに座っていた人たちは最大で半分くらいが午後の眠気にやられていた。それでもかなり後半のサイエンスという有名雑誌に載った話のあたりで、一気に起きる。多分講演者のバイブスが載ってるためだろう。ここは気に入っている、という講演者の推しの内容はなぜか伝わるのだ、話がわからなくても。

休憩時間に隕石や鉱物に群がる聴衆。20分という長めの質問時間に挙手して質問しまくる地元の専門家風のひとたち。おそらくリタイヤした周辺の研究者と科学好きな人々の混ざった聴衆。化学を専攻している女子大学生もいた。女子、と言ったのは彼女だけが自己紹介していたからだ。自分は大学で化学を専攻しているのですが、から始まる質問だった。女性、と言ったのは声から判断して。本当に性別が女性かは質問を聞いていてもわからない。

そうそう、講演を聞いて面白いと思うものの、紹介された実験ステーションはどれも馴染みのあるものだ。昨年まで所属していた研究グループはBL18のスティクサムというX線顕微鏡の実験をやっていたし、以前に所属した回折実験グループで馴染みのある実験ステーションBL3も使われていた。帰宅して夫にこの話をしたら、彼らは1番強いビームを使いたかったからBL3を使っただけだった。なるほど、装置、回折計を持ち込んで実験したのか。結果は面白いけど自分でやろうとはあんまり思わない。割と面白い講演での話と、全てに関わりのある私の研究所での仕事。なのにこの距離感は何だろう。本質的にサイエンスに対する興味がそこまでない、つまり寝食を忘れてのめり込むほどではないという段階だ。何かが好きで土日もそれから離れられず頭の中がいっぱい、という好きが極まった状態とはちょっと違う。週末は白衣を脱いで旅行に行きたいタイプ。科学は好き、だけどそこまでのめり込めない対象は追い求めても限界がある。最終的に好きには勝てないのだ。夜中に地震で実験中でも、装置を見に行ったりしない。夜中に試料交換に行くことはある。実験の切り替えのタイミングだったりするからだ。でも咄嗟のときの判断は本音が出る。大学院生の時に今の夫と一緒に実験していて、彼は地震で止まること確実の装置を大きな揺れの跡すぐに見に行ったらしい。疑いもなく。私は行かなかった。眠いから。一瞬行くかどうか迷ったけど明け方4時ごろで、とにかく行かなかった。その選択が間違っているとは思わない。その選択に価値観がのっているのだ。だから正しい選択肢なんて探しても意味がない。こうすればよかったと後悔しても仕方ない。あなたの選んだものは結局全て正しい。ある価値観が優先されているだけなのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?