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帝京VS二松學舎大附 2021年東東京大会準決勝

8月1日(日) 球場:東京ドーム

高校野球史上初の東京ドーム開催。2021年夏の高校野球東西の東京大会は東京五輪・パラリンピック開催によって“聖地”神宮球場を使用することができず、準決勝から高校野球として初めて東京ドームを使用することになった。応援団はコロナ対策のためにマスクを着用して外野席での応援。1塁側には2011年夏以来10年ぶりの甲子園出場を目指すノーシードの帝京が陣取った。昨秋は東京大会2回戦、今春は同1回戦で敗退したことにより、甲子園通算51勝の名将前田三夫監督は下級生を積極的に起用しチームの活性化に成功、ベスト4まで勝ち上がってきた。一方3塁側に構えた二松學舎大附は3年ぶり4回目の甲子園出場を目指す。過去決勝戦10連敗を喫した悲劇の学校であったが、「縦縞を倒す」という強い思いを持ち続け、2014年の11度目の挑戦で“縦縞・帝京”を倒し、悲願の甲子園初切符を手にした。関東一高とともに東東京を代表する両校が2021年東東京の“夏の陣”準決勝で先攻が二松學舍、後攻が帝京で対戦した。

二松學舎大附は大事な一戦にプロ注目のエース秋山を温存し、2年生左腕布施を先発に起用。市原勝人監督は1996年監督に就任、これまではエースと心中する戦略が主だったが、甲子園に出場して以来、これまでの経験に新たなエッセンスが加わったように思える。また昨今話題になっている球数制限や体力面、そして決勝を見据えた点もあろう。
試合は初回から動き出す。1回裏帝京はトップ小島がセンター前ヒットで出塁、続く本村が手堅く送り、3番高橋(大)がセカンドへの内野安打で1死1、3塁とチャンスを広げた。4番尾瀬が目の覚めるような一打をライト前へ放ち幸先よく先制、この間に一塁ランナーが3塁を狙う。ライトからの返球は追いタッチとなる際どいタイミングであったが、判定は無情にもアウト。その後のゲーム展開が変わると思えたビッグプレーだった。
帝京先発は1年生右腕高橋(蒼)、1回と2回に1死からヒットを許すも後続を打ち取り、3回は三者凡退に抑え無失点。一方二松學舍大附布施は初回に3安打を集中され失点するも2回、3回と無失点に。4回ゲームは微妙に流れ始める。二松學舍大附は3番瀬谷が死球で出塁、4番関の打席で盗塁を仕掛ける失敗、関と5番丸山は四球を選びチャンスを作り直すも、このチグハグな攻撃では流れを掴めず同点機を逸す。帝京は2死から2四死球でチャンスを作る。四死球で得たチャンスを潰し、逆に四死球での失点はゲームを左右しかねない場面で二松學舍大附が動き、エース秋山を投入し、後続を断つ見事な継投策。すると5回に二松學舍打線のトリガーが引かれる。先頭8番鎌田がショート内野安打、悪送球も重なり2塁へ。続く秋山がライトオーバーのタイムリーツーベースヒットを放ち同点。続く永見が四球を選び、親富祖が3塁側に送りバント、これが内野安打となり無死満塁に。瀬谷は前進守備のファーストの頭をワンバウンドで超えるタイムリーツーベースヒットを放ち逆転。1死後に丸山がセンターへ犠飛を打ち上げ、4点目。ここで帝京はエース安川にスイッチするも継投のタイミングに明暗が別れた。高橋(蒼)は打者23人に対し三振が奪えず、4回には突如制球を乱し、不安な兆候が見られ始めていた。特に永見へ与えた四球は二松學舍大附打線にリズムが生まれる痛い四球だった。しかしまだ1年生であり、今後注目される投手。ストレートの質を上げ、この経験を生かして大きく育って欲しい。リリーフした秋山の5回、6回のピッチングは圧巻。平凡に見えた外野へのフライがドーム独特昼間の飛球の見えにくさか、センターとライトがお見合いしてツーベースヒットにしてしまった。しかし2番本村をインコースへのストレートで見逃しに、続く3番高橋(大)には外のチェンジアップを振らせ連続三振に。6回はヒット2本に内野の失策が重なり1死満塁のピンチ、ここで8番川本を見逃し三振、9番安川をサードゴロに仕留め無失点。スコアリングポジションにランナーがいると明らかにボールの質が一段上がる。先輩のジャイアンツ大江竜聖と比較されるが、3年時では秋山の方が上ではないかと思えるほど。7回二松學舍大附は先頭親富祖が死球を受け、バントで送られるも後続が倒れる。8回は2死から鎌田がセンターへのツーベースヒットを放ち出塁、ここで帝京は新垣にスイッチするが秋山に四球を与えピンチが広がる。しかし1番永見を投ゴロに抑えここを凌ぐ。チャンスを作るも追加点が奪えず、流れを渡しかねない状況を救ったのはエース秋山。7回帝京は先頭小島がヒットで出塁も後続が外野に3つフライを打ち上げ無得点、8回は3者凡退に抑える。状況を見ながらギアを入れ替える大人のピッチングはプロのスカウトから評価されるであろう。9回、二松學舍大附は先頭親富祖がセカンドへの内野安打で出塁、瀬谷が送り、関がセンター前にヒットを放ち1死1、3塁と試合を決めるビッグチャンスが訪れる。しかしここで戦慄が走るような勝負手が市原監督からサインされた。相手投手は左腕で3塁ランナーが見えにくいが、打者は左の丸山、ボールカウントはすでに追い込まれた状況でスクイズを決行。場内からどよめきが起きるほどだっただけにこれを予測できた人はそう多くなかったと思う、だからこそ意表を突いた采配なのだろう。だが結果は外に大きくウエストされ、必死に飛びつくも三振、3塁ランナーは3本間の挟殺プレーでタッチアウトとなり一瞬にして将棋でいう「詰めろ」を逸してしまった。スクイズで思い出すのは明徳義塾の馬淵監督の言葉。「自慢じゃないけどスクイズは1回も外されたことない。甲子園でもウエストされたのは1回もない。というのは、外されるカウントのときにはスクイズは出さんということ。外されるカウントで出したら監督の責任や。『ここはどうしてもよう外さんやろ。外せるなら外してみぃ』というとこでしかオレは出さない」と。しかし、この場面で捕手の構えや捕球を見る限り、サインで外したように見えず、「走った!」の声に投手が反応し、咄嗟に外したように思える。賞賛に値するレベルの高いプレーである。9回裏、守りに着く二松學舍大附が、そして秋山が気持ちを切り替えられるかに注目する中、先頭岸本を追い込んで外へのチェンジアップで三振に仕留め嫌な「流れ」への傾きを消したかに思えたが、代打大塚が外目のストレートをはじき返し、ライトオーバーのスリーベースヒットを放つ。打順はトップに戻りこの日3安打の小島、ストレートをうまく捉えた左中間への飛球は押し込みが足らずレフトへの犠飛となり1点を返すが2死に。しかしここで終わらない帝京、2番本村がこれもストレートをライト前へ。秋山のピッチングが単調になり、ストレートを狙い打つ帝京打線、そのストレートで高橋(大)に死球を与え1、2塁とピンチを広げ、迎えるは4番尾瀬。この場面で帝京の狙いを察知できるのも秋山のセールポイント、冷静になって変化球を投げセンターフライに打ち取り、二松學舍大附が帝京を降し関東一高との決勝戦へ駒を進めた。

秋山は打者24人に対し、5回3分の1イニングを投げ被安打6に奪三振5、死球1、何よりメンタルの強さを感じたピッチング。試合後の市原監督は布施の先発起用について秋山をできるだけ短いイニングにしたかったと。そして試合のポイントに1回のサード封殺を挙げた。一方帝京前田監督はこの夏に“挑戦”し続けた選手たちを労い、新チームにて甲子園を目指し秋季大会を戦うと思われた矢先の8月下旬、前田監督の勇退が発表された。今後は名誉監督となり、秋季都大会から金田優哉コーチが指揮を執るが、来年以降の監督についてはもう一度考えるとのこと。

學舎 000 040 000= 4  H:9 B:4 E:1
帝京 100 000 001= 2  H:8 B:7 E:1
*Bには死球を含む

(可里 了)

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