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黒澤明、スティルバーグ、スコセッシ共同映画「夢」解説

黒澤が実際に見た夢を夏目漱石の夢十夜を元に描いた作品。メッセージ性がとても強い作品です。

テーマは「死」

主人公が子供から大人に成長するにつれて変わっていく死生観を一章一章で描いているのだと思います。

原発だったり戦争だったり死に対する恐怖を描きまさに「悪夢」と化しています。しかしラストの死は暗いもので無く明るく死を受け入れようというメッセージが感じられます。歳をとった黒澤の死に対する受け入れ方が成長した瞬間でもありました。

普通の映画だと思ってみると一貫したストーリーも無いのでつまらないと思うかもしれません。しかし映画とはこういうものだという型を破り自由に黒澤の見た夢を描いた結果である。

それにしても本当黒澤の映画は絵画の様に美しい。ワンカットワンカットに非常にこだわってるのが伝わって来る。そしてびっくりすることに自分も時々死ぬ夢を見るのでどこか共感できる部分があった。

ーー1章ずつの解説ーー

[日照り雨]

恐らく能や狂言を元にした格好と動きを取り入れた美しい映像。

狐が怒り主人公に様々な死を見せる冒険に旅立たせる章かと思われます。そして最終章で主人公は死とは何かを掴んだのでしょう。

[桃畑]

あの雛人形達が木に変わったのではなく切られた悲しい木達が雛人形に化けていたのだろう。ここに黒澤の環境破壊に対する怒りが感じられる。

『雪女』

ここでは恐ろしいものとして「女」が描かれています。『日照り雨』での「母」のような強さではなく、『桃畑』での純粋な「美」の対象としての「少女」でもなく、成熟した「女」が、主人公を破滅に向けて誘惑します。妥協するか、自身の信じる道を貫くかを、とても強い決意の伺える物語として展開し、身体的のみならず精神的な苦境からどう乗り切るかを短い時間で纏め上げています。「女」の美しさと恐さもしっかりと見せてくれます。

『トンネル』

ここでは実際に徴兵をされることなく戦争を終えた黒澤監督の後ろめたさと懺悔が描かれています。この『トンネル』はとても暗い作品ですが、その中でなぜか主人公に対して尻尾を振りながら威嚇する犬と、未練があって出てきたはずなのに、かつての上官であった主人公に命令されると、もとの玉砕地に戻ってしまう小隊の霊たちの哀れさが、言い方は不謹慎かもしれませんが逆に何ともいえない哀しい面白みを出していました。

『鴉』

ここでは、ヴァン・ゴッホとの対話から芸術性とは何かを、同時代の人間ではなく過去の革新者から探ろうとする監督の思いと悩みが伝わってきます。耳を切り落とし、弟を殺害し最後には自殺してしまったゴッホ。自らも自殺未遂をしてその後の作品を創りにくくなってしまった黒澤監督。自身に照らし合わせて見て共感できる部分があったに違いありません。出てくるゴッホはゴッホ本人ではなく、黒澤監督の芸術家としての分身です。黒澤監督の実兄も自殺しています。この夢は、黒澤監督のゴッホの作品に対しての心酔が良く判ります。

[赤富士]

原発事故を予言したという話題の1話です。

ここで描いた発電所の原発事故はその後実際に福島第1原発が起きています。黒澤明はむかしから原発問題について考える映画で幾度もその危険性を表しています。その為黒澤の夢の中にも出てきたのでしょう。赤富士のシーンで言ってるセリフは黒澤明の伝えたかったことなのでしょう。

黒澤は実際人間が制御できないものを人間が作るのは間違いだとインタビューで語ってます。

[水車のある村]

禅問答のような「老人」と主人公の会話。これは二人の会話ではなく監督の心の中での問答を映像化したものです。

主人公は最後に死ぬ事は悲しいことではないんだと決断したのだと思います。黒澤からのメッセージでもある「本来葬式はめでたいものだ。よく生きてよく働いてご苦労様でした。子供の死はめでたいとは言えないが。」「人生は苦しいとかいうがそれは人間の気取りでね、正直生きてるのはいいものだよ、面白い」というのは死とはめでたいものだと結論づけた瞬間でもあります。

ラストシーンで主人公は画面下のほうから上へ向けて歩き出します。そのとき下のほうの川、つまり「村」のあるほうの「川」はゆったりと流れ、主人公が向かっていく上のほうの川の流れはとても速い。「村」の時間は静かに流れ、再び喧騒の世界へ戻っていく主人公の時間は早く流れようとしています。

一本を通して見ていくと「嫁入り」で始まり、「葬式」で終わるという構成であります。本来おめでたいはずの結婚が、異形のものである狐のそれであるために薄気味悪さを感じ、反対に本来悲しいはずの葬式が、あのように明るいものに変わって見えるのがとても面白く感じました。

「人間は、動物の自然法を守るべき (1。日照り雨) 、植物を大切にするべき (2。桃 畑)、自然に対して尊敬と畏怖を持つべき(3。雪あらし)。更に、人間もお互いに保 護するべきです。人間性が消え去ったら、第二世界大戦の様な(4。トンネル)虐殺 が起こる。世の中を守って、大切にして生きて行けば、人間の芸術的な才能(5。鴉) なども楽しむ事が出来る。現代の欲張りな生活に覆われて、自然に対しての残酷な 扱いを続くと酷い目に会い、人生が全滅する (6。赤富士、7。鬼哭)可能性が有り ます。人性の始原を思い出して、世の中を幸せな場所に(8。水車のある村)する事 を目的として生きていきましょう。。。」

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