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1回で理解できたら天才「マルホランドドライブ」完全解説

とにかくリンチのすごさに圧倒される。
「21世紀の偉大な映画ベスト100」にて1位を獲得してる作品です。

「夢や妄想は思い通りになるから楽。現実は辛い。」

サンセット大通りから多くの影響を受けており、タイトルもハリウッドにあるストリートの名前であり、さらにナオミワッツがパラマウントに行く場面ではサンセット大通りで実際に使われた現物のクラシックカーが映ります。

この映画のさらに凄いところはマルホに出るまでのナオミワッツは女優としてはあまり売れてませんでした。オーディション時代からの親友であるニコールキッドマンは瞬く間に成功していきました。キッドマンはナオミワッツをずっと励ましてくれてたそうです。現実と映画がシンクロする奇跡、映画の内容も現実と夢が交差する物語がこの映画の凄いところだとも言えます。

ーー解説ーー(ただ一つリンチ作品には本人も言っている通り正解の解釈はないそうです)

前半部が「ダイアンの見た夢(女優としての成功と主人公の願望、カミーラを殺した不安と罪悪感)」、そして後半部が「現実」である。いきなり「夢」のシーンから入ってしまうので混乱しやすい。「ダイアンの夢」では、ダイアンはベティとして、カミーラはリタとして登場する。

ー前半部ー

前半の夢シーンではいろんな登場人物や必要か?と思うような関係なさそうに見える出来事は全て主人公の不安や罪悪感、願望が象徴されたもの。そして「ダイアンの夢」に登場する人物は、ほとんどダイアンが「現実」において知っていた人物である。後半の現実世界で前半に出てきた人物が幾度か登場しているのはそのため。ダイアンの妄想は常にカミ―ラを殺さなければよかったという思いから始まっています。

前半部のシーンにおいて、明らかに連続しないカットが二つある。
 ファミレス、ウィンキースでダン(気弱な殺し屋の相棒)が立ち上がる前には、机の上には食べ残しのベーコンエッグとコーヒーカップがのっているが、すぐ次のカットではベーコンエッグの皿はなくなり、コーヒーカップは下向きの状態できれいに置かれている。明らかに、つながらないカット。すなわち、夢。さらにウィンキースでダンは、自分の見た恐ろしい夢の話を刑事に語る。そこでダンは言う。「夢以外の場所でそいつ(浮浪者)の顔を見たくない」、つまり浮浪者の出ているシーンは夢、現実ではないということがこのセリフに現れている。このウィンキースでは、 ダンが夢で見たシーンが、そのまま展開する。刑事がカウンターの前に立つ。そして、裏の囲いに向かって歩き、浮浪者が現れる…。つまり、このシーンは夢であることが二重に示される。このシーンに限らず、浮浪者が登場するシーンは夢ということになるだろう。すなわち、最後の方で浮浪者がブルーボックスを拾うカットも夢という解釈で良いだろう。すなわち、 ブルーボックスは現実部分には登場しない。 

ーダイアンの夢ー

「ダイアンの夢」に登場する人物は、ほとんどダイアンが「現実」において知っていた人物である。リタ(カミーラ)、監督アダム・ケシャー、ココ、殺し屋ジョー、12号室の住人。

 以上のことから、ハリウッドの映画会社の奥の院に鎮座する小人の正体が明らかになる。ハリウッドの映画会社の奥の院に鎮座する小人(ミスター・ローク)は、巨大な権力を持つ男であり重要な決定がこの部屋でなされる。当然、ダイアンが入ったことがあるはずがない。ダイアンの抱いた怪しげなハリウッドの奥の院のイメージ。権力と金の集まる場所。その怪しげな場所が、このベージュのカーテンと不気味な小人によってうまく表現されている。外界から、ミスター・ロークとは電話でしか話せないという設定も、彼とは直接話すこともできない遠い存在という雰囲気を演出し、その神秘性を高めている。よってベティの想像が補った産物ということになる。

田舎から出てきたダイアンには、大女優の叔母がいる。ダイアンの叔母は死んだ(パーティーでの会話)、すなわちその叔母が有名女優のはずがない。そして、その叔母の高級アパートでのリッチな生活が始まる。さらに、叔母のコネで早速、オーディションを受ける。初めてのオーディションで、その演技を絶賛される。キャスティング・エージェントのリニーはベティを気に入り、別の大作映画のオーディション会場に彼女を連れて行く。そこで有名監督アダム・ケシャーを紹介される。そして、その有名監督はベティに強い興味を示す。こんな都合のいい話があるはずない。これは、ダイアンの願望である。現実」のダイアンは、脇役専門の二流女優である。それもカミーラのお情けで共演させてもらっていただけ。

次にオーディションで歌を歌う女性(メリッサ・ジョージ)、カミーラ・ローズがリタ役のローラ・エレナ・ハーディングではないことだ。ここで、エレナが歌を歌ってると話は非常にわかりやすくなる。リンチの一種の映像的撹乱であるが、夢として解釈するなら、コネでデビューしたカミーラに対する羨望としてとらえられる。

 つまり、この「オーディションでカミーラが主演の座を勝ち取らなければ良かったのに・・・・」というダイアンの羨望、あるいはひがみが、カミーラがエレナでない別な女性の姿で登場させるのだ。

映画監督アダムは、マフィアから追われ、命まで奪うと脅迫される。預金口座に金は無くなり破産。妻には浮気され、家からも追い出される。とにかくアダムはひどい目にっている。なぜ、アダムがこれだけひどい目に合うのか。

 それもまた、「現実」部分で説明される。アダムとカミーラは婚約発表する。つまり、アダムはダイアンからカミーラを奪った人物である。「アダムさえいなければ、カミーラは自分のもとから去らなかったのでは?」ダイアンのそんな思い、アダムへの恨みが、夢の中でアダムをひどい目にあわせることで解消されるのである。

 前半部分に描かれたベティの夢(願望)。しかし、それはベティという一個人だけが描いた願望ではない。ハリウッドに来た女優の卵たち全員が、大女優になろうという大きな夢を抱いて、ロスにやってきたはずだ。つまり、ベティという個人の物語に、何十万人とロスにやって来ては消えていった女優の卵たちを重ねて描いているのである。

 金と名声。豪邸での華やかなパーティー。

 成功を収めたものが手にする高級車と高級住宅。

 あるいは、敗者の羨望、恨み。嫉妬。

 権力や人気からの失墜。

 スキャンダル。脅迫。映画製作に対する圧力。

 同性愛。セックス・スキャンダル。

『マルホランド・ドライブ』は、ハリウッドの縮図なのである。ハリウッドの成功は一筋縄ではいかない。その曲がりくねった小道を、実在のマルホランド・ドライブという。

なぜ、彼女たちはベティとリタという名前なのか。

テーマ的には、「ハリウッドの夢」であることを説明するためである。ティ・デービスとリタ・ヘイワースは、言うまでもなくハリウッドを代表する女優である。つまり、ベティ役とリタ役のダイアンとカミーラは、ハリウッドの女優たちの代表ということである。一方は、ヒット作に引っ張りだこの一流女優。一方は、万年脇役の二流女優。ハリウッドの成功者と敗者。

 この二人の個人の人格を借りて、ハリウッドの俳優たちの明暗、そしてスキャンダルやトラブルといったハリウッドの暗部を、集合的人格として描いている。

そしてなぜ、夢の中では、「ベティ」というウェートレスの名前が、「ダイアン」なのか。それは、ダイアン(ナオミ)がウェートレスとして働いていたからであろう。

二人の老夫婦の意味は?

『マルホ』は、「ハリウッドの夢」を描いている。すなわち、登場人物のほとんとんは、ハリウッド映画産業に関係する人物である。つまり老夫婦は、ハリウッド映画産業と直接関係のない人たち、いわゆる一般人世間の人たちの象徴、ということになる。

 では、この老夫婦が、なぜ自殺直前のダイアンの家に、小さい幻覚となって現れるのか? 

自殺直前のダイアンは、カミーラを殺してしまった、ショック、そしてその罪悪感にとらわれている。この老夫婦は、いかにも人の良さそうな人たちである。つまり、二人は世間の良識なり、世間の目である。ダイアンを嘲笑する小さくなった老夫婦。カミーラを殺したダイアンを責める世間の目、そして彼女の抱く罪悪感が、この老夫婦の幻覚を登場させたのである。

オープニングの赤い布団カバー

ダイアン目線で布団に入る様子です。現実世界でダイアンが起きた時全く同じカバーとベッドで寝ています。

リタ(カミール)のカバンになぜ大金が入っていたのか

ベティ(ダイアン)がカミールの暗殺依頼をした時に渡したお金だと思われます。

ウィンキーズの裏手に潜んでいる黒い人物は何者か

黒い男はダイアンの後ろめたい気持ちや自責の念が形となって現れたものです。彼女はカミ―ラを殺してしまったという罪悪感に苛まれ、眠れない日々を送っていました。朦朧とするダイアンの意識のなかで、蘇るのは殺し屋にカミ―ラの殺害を依頼したあの場所、ウィンキーズです。あのとき、カミ―ラ殺しを依頼しなければ…と、ダイアンは後悔していました。また、ダイアンの妄想の中で、ダイアンとカミ―ラがダイアンの部屋を訪れたとき、寝室に横たわる死体は黒くミイラ化した顔でした。この顔はウィンキーズの裏手にいた黒い男の顔と同じようにも思えます。ダイアンにはもっと利己的な欲求がありました。それは妄想から覚めたくないという願望です。少しづつほころびかけてはいますが、妄想の世界では何もかもがうまくいっている。現実には目覚めたくない。その思いが、ベッドで眠るダイアンの顔を分からなくさせた理由であり、ウィンキーズの裏手に回りあの人物をあの男に確かめさせに行ったのです。

さらに青い箱はダイアンがあのクラブの中で見つけました。黒いあの人物も同じものを持っています。ベットで自殺したのはダイアンであり、夢の中でベットで死んでいたのはダイアンでありあの黒い人物と似たような容姿をしてました。よって黒い男はダイアンその人だったのです。

後半部分

後半部分は現実とはいっても、それはカミーラ殺しを依頼し、それが成功したことを知ったダイアンが、混乱した状態の中で過去の実際の出来事を回想した現実となる。その証拠にダイアンとカミールがソファーで戯れるシーンで前のシーンで12号室の住人が灰皿を持っていったはずが机の上にまだ置かれていたり、バスローブを脱いでいたり、コーヒーを入れたコップが置いた時には変わっている。これは過去に戻っている証し。さらにコーヒーカップはウインキーズにあったものと同じで夢の中とダイアンの部屋が入り交じってる事を暗示してます。

夢⇨夢を見る前の過去の回想⇨現実という順番になってます。過去と現実の区別は灰皿とコーヒーカップとバスローブ。

カミーラ暗殺

ダイアンはカミーラのことを殺したいと思ったが、死んで欲しくないという気持ちがどこかにあった。それが、映画のオープニングである。絶対死ぬはずの交通事故。しかし、リタはちょっしたかすり傷しか負っていない。ありえない。しかし、これはダイアンの願望。絶対死んだはず。でも、ひょっとしたら助かったのかも。

 ダイアンは、本当は死んで欲しくないと思っていた。つまり、殺人を依頼しておきながら、「暗殺が失敗して欲しい」という願望も少なからずあった。そのダイアンの願望が、超ドジな殺人者ジョーの描写なのだ。これだけジョーがドジな奴なら、暗殺も失敗するかも・・・。

 「本当は死んでしまったけど、死なないで欲しかった」というダイアンの願望、それがドジなジョーを通して描かれるのだ。

ラストのダイアンの自殺。

それは、罪悪感にさいなまれて自殺したと考えられるが、それは彼女の心理の一面にすぎない。混乱した精神状態の中で、ダイアンの同一化欲求はピークに達する。カミーラは死んだ。死後の世界で、彼女たちは二人きりとなり、誰にも邪魔されることなく、愛を育むことが出来る。つまり、ダイアンもカミーラと一緒に死ぬことで、死後の世界での同一化が達成されるのである。同一化願望は、現実の世界では単なるダイアンの願望に過ぎなかったが、「ダイアンの夢」ではそれが体現するのだ。リタが長髪を切り、ブロンドのカツラをつける。これも同一化願望の別な表現である。夢の中で体現される同一化要求。

夢の中で出てきた死体はダイアン自身

黒くすさんでいたがあれはウィンキーズの裏手の人物に似ている。この黒い人物はダイアンと同じ青い箱を持っていた。さらにベッドで死んでいたことや、あの死体が映ったすぐ後カウボーイの掛け声によって起きたのはダイアンであったり。最も有力な情報は夢の中で死体を見て本気で泣き崩れたのはカミール(リタ)のみであった。あれはカミールが好きだったダイアンの願望を表したものだろう。

「彼女だ」―This is the girl

アダムが撮影現場に来たダイアンをじっと見る場面があります。ダイアンは途中で抜け出したときも、アダムは首をひねってダイアンを凝視し続けていました。これはダイアンに見覚えがあったからという理由ではありません。このシーンもあくまで、ダイアンの頭の中で構成されたもの、つまりダイアンの妄想です。従って、ダイアンの妄想の中のアダムはダイアンとは初対面のはず。しかし、ダイアンの中にはカミ―ラを殺した自分をアダムはきっと恨んでいるだろうという想像がありました。アダムは自分を憎んでいるに違いない、この思いがダイアンの妄想にも影響を与えます。

 また、アダムはあまりにも、現実世界でダイアンの愛憎に深く関わっていた人物でした。妄想の世界であれ、これ以上アダムに深入りするとこの妄想世界が崩れ、恐ろしい現実に向き合わねばならなくなる。ダイアンはその恐怖に怖じ気づき、監督に挨拶する前に現場から逃げ出してしまったのです。

 また、アダムは結局、映画製作会社の意向に沿い、主演女優を入れ替えるという決断をしました。その言葉は「彼女だ(This is the girl.)」。これはダイアンがカミ―ラ殺しを依頼するときに殺し屋に使った言葉と同じです。ダイアンの妄想は常にカミ―ラを殺さなければよかったという思いから始まっています。殺し屋にあの言葉を発しなければ、カミ―ラは生きていたのに…。ダイアンはこの言葉をアダムに使わせることで、自分が発した言葉だという記憶をすり替えようとしました。ダイアンは少しでも苦しい記憶から逃れたかったのです。そして、この醜い言葉を憎い恋敵であるアダムに言わせ、苦渋の決断をさせることで、ダイアンはある種の復讐心をも満足させることができたのです。

「クラブ・シレンシオ」とは一体何なのか? そしてそこで語られる「お静かに(=シレンシオ)」という言葉は?

まず「クラブ・シレンシオ」は「現実」に登場していない。「クラブシレンシオ」、すなわち「クラブ沈黙」沈黙。静寂の死の世界。死後の世界を象徴する。ブルーキーは「死」の象徴として描かれていた。暗殺成功の合図、それを見たダイアンの死。「シレンシオ」にいる女の髪の色は「青」、すなわちブルーキーと同じ色。さらに青い照明で主人公二人が照らされている。

「シレンシオ」は、お静かに、沈黙、そして黙祷という意味がある。イアンは自殺する。悲惨な死をとげたダイアン。しかし、死後(または、死の直前)にダイアンは夢を見る。輝かしい女優の道を歩んだ、願望の世界の自分を。画面は暗転し、「シレンシオ」・・・。「黙祷。ダイアンの死に」そしてクラブ・シレンシオ。このクラブは、生者と死者の同時存在が許される異空間。このクラブへとダイアンを導いてきたのはカミ―ラの方でした。ダイアンはこのクラブの前座を務める男の口上を聞いているうちに、震えが止まらなくなり、ひどく怯えた様子を見せています。ダイアンはこのクラブに恐怖を感じていました。それは、この心地の良い夢から現実に引き戻されてしまうという恐怖です。

 前座の男の口上は、「楽団はいません、これは全部テープです。オーケストラはいません、これは全部まやかしです」というものでした。彼は今見ているもの、あるいは聞こえている音がすべて嘘であると言っているのです。ダイアンがカミ―ラと現在築いている愛情関係や、今の2人の暮らしが全部まやかし、全部嘘だとしたら…。

白い煙

カミ―ラがマルホランド・ドライブで事故に遭ったとき、ダイアンが自殺したとき、そして、前座の男が消えるとき…全てのシーンに白い煙が出てきました。そして、ダイアンが自殺したときと前座の男が消えるときには青い光が見えます。そして、ダイアンを現実へと連れ戻すきっかけとなるあの小さな箱も青い色をしていました。青い色は死神の象徴、白い煙は死が訪れたことを意味しています。

泣き女の歌の意味

ダイアンのことを歌った歌。ダイアンそのものである。ダイアンの思いを、泣き女が全て代弁してくれた。その歌を聞いてリタが泣き崩れるというのは、ダイアンの思いがカミーラに通じたということ。ベティとリタは、二人して泣き続ける。このとき、二人は精神的に一体となった。精神的に同一化を果たす。

この瞬間、カバンの中にブルーボックスを発見するベティ。

ブルーボックスの意味は?

1つは夢から現実への扉。

もう1つはブルーキーを発見したリタ。ブルーボックスを発見したベティ。ブルーボックスにブルーキーを差し込む行為は、ベティとリタ、すなわちダイアンとカミーラが同一化を果たしたことを象徴する。そしてその時、ベティの姿はない。すなわち、ダイアンがカミーラと同一化を果たしていたからこそ、ダイアン(ベティ)の姿はなかったのである。そしてボックスを開けた瞬間にボックスが落ちリタ(カミール)さえもいなくなりダイアンは夢から覚める。

カーボーイの意味は?

カーボーイは、死後の世界の案内人。カーボーイは言う。「うまくやれば、君はもう一回私に会う。間違えたらもう二回会うことになる」この解釈として間違えたときに追加される一回は、カーボーイがアダムを殺しに来るということは間違いない。しかし、うまくやったときの一回は何か?それは死んだ後、誰もが死神に誘われて、死後の世界に向かう。つまり死後の世界の案内人。どんな人間でも、一度は死神に会うということ。

  死の間際に自分にとって都合のいい夢をみていたダイアン、現世(現代の世)への執着にとらわれたダイアンを、「目覚めよ」と現世への執着から目覚めさせ、あの世(死後の世界)へと誘う役どころが、カーボーイだった。

こう解釈すると、「シレンシオ」にもう一つ別な意味が見えてきておもしろい。「シレンシオ」と「目覚めよ」は、対立する言葉である。「目覚めよ」に対して、「静かに眠らせてあげなさい」という意味で、「シレンシオ」を理解することができる。

 映画の最後の「シレンシオ」

 「お静かに。ダイアンを心地よい夢の世界のまま、このまま寝かせてあげましょう」

一見悲しいラブストーリーに思える。しかし夢ではあるが、ダイアンの一人称的理解では、ハッピーエンド。

 悲惨な死をとげた少女が死ぬ間際に見た幸せな幻影。

 そう、これは「マッチ売りの少女」だ。

 つらい人生を歩んできた少女が、朦朧とした意識の中で見る夢。死ぬ間際の一瞬の至福。

〜リンチが観客に与えた10のヒント〜

1. 映画の冒頭に、特に注意を払うように 

  少なくとも2つの手がかりが、 クレジットの前に現れている

2.  赤いランプに注目せよ

3. アダム・ケシャーがオーディションを行っている映画のタイトルは?

 そのタイトルは再度誰かが言及するか?

4. 事故はひどいものだった。その事故が起きた場所に注目せよ

5. 誰が鍵をくれたのか? なぜ?

6. バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ

7. クラブ・シレンシオで、彼女たちが感じたこと、気づいたこと、下した結論は?

8. カミーラは才能のみで成功を勝ち取ったのか?

9. Winkiesの裏にいる男の周囲で起きていることに注目せよ

10. ルース叔母さんはどこにいる?

〜通常の時間軸に直した際のストーリー〜

「ジルバ大会での優勝をきっかけに、オンタリオから女優になる夢を抱いてハリウッドにやってき少女ダイアン。しかし、実際のハリウッドは厳しかった。脇役につくのが精一杯。二流女優としてやっていくのが限界である。しかし、ダイアンには愛人カミーラがいた。カミーラだけは信頼できると信じていたダイアン。やがてカミーラは、大女優へと駆け上がり、ダイアンとカミーラの距離が離れていく。そして、カミーラのダイアンに対する態度も冷たくなっていく。演技指導中に、いちゃつく有名監督アダムとカミーラの姿に、ダイアンはショックを受ける。ダイアンにパーティに誘われるが、そのパーティーでダイアンはアダムとの婚約を発表する。「裏切られた」信じていたと思っていたカミーラに裏切られた。許さない。私の持っていない全てを、カミーラは持っている。女優としての成功。愛。金。美貌。私もカミーラのようになりたい。私もちょっしたコネさえあれば、チャンスを手に入れられたはず。カミーラは好き。でも、私を裏切った彼女は許せない。殺してやる。叔母の遺産の残りを使って、殺し屋ジョーに殺人を依頼するダイアン。」

 殺人を依頼したダイアンは、3週間の間姿を消していた。警察に追われることを心配したためである。3週間ぶりに家に帰ったダイアン。カミーラの死を知らせるブルーキーが、机の上に置かれていた。カミーラを殺したいと思ったダイアン。しかし、ダイアンはカミーラを愛していた。本当は、死んで欲しくないという気持ちも心のどこかにあった。ブルーキーを見て、強い罪悪感にとらわれ、動転するダイアン。

 ドアのノック音。この瞬間に彼女は、ハリウッドにやってきてからカミーラとの思い出の全てを一瞬に回想する。混乱した精神状態であるから、時系列は滅茶苦茶。さまざまなカミーラとの思い出が、フラッシュバック的に湧き上がってくる。そしてさらに、ダイアンは混乱し、錯乱状態となり小さい老夫婦の幻覚を見る。

 強い罪悪感。でも、やっぱりカミーラが好き。カミーラと一体になりたいという同一化願望が、ダイアンを死へと誘う。

 「これで私は、カミーラと一緒に死ねるのね」

 死に至る朦朧とした意識の中で、ダイアンは夢を見る。

 もし、私にコネがあったら、簡単にデビューできたのに。

 カミーラとも仲良く楽しい同棲生活をずっと続けたかった。

 カミーラと私は一心同体。カミーラだってそう思っている。

 そう、私はダイアンではない。もう、カミーラなの。

 ベッドの上に横たわるダイアンの死体は、彼女にはカミーラの姿にしか見えない。そして、カミーラがブルーキー、ダイアンがブルーボックスを出し、その箱を開けることでカミーラとダイアンは同一化を実現した。

 ダイアンにとって、至福のひと時。

 その瞬間、カーボーイ(死神)が「目覚めよ」と至福の夢をさえぎる。

 青い髪の女は言う。「シレンシオ」意味は「お静かに。可愛そうなダイアンを心地よい夢の世界のまま、このまま寝かせてあげなさい」or「お静かに・・ダイアンの死に黙祷」

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