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純粋に勝るものはない「狩人の夜」解説

子供の純粋さに勝るものはない

1,心の純粋な者達は幸いである。彼らは神に会えるだろう。
2,その者の栄光も野に咲く花の美しさにはとても及ばない。
3,人を裁いてはいけない。
4,偽預言者(説教師)に気をつけろ。

デヴィッド・リンチ、マーティン・スコセッシ、コーエン兄弟などに強烈な影響を与えた傑作。情婦の名優チャールズロートンの唯一の作品。興行的には失敗したもののテレビに安く売られ放映してるうちに火がついたカルト映画。

作りや形式は「ヘンゼルとグレーテル」に似たグリム童話やおとぎ話なのに、残酷描写を表現し枠はおとぎ話で中身はセックス&バイオレンスです。

ーサスペンス映画としてー

エンターテイメント性やハラハラさせる演出も長けている。例えば金を人形に詰めるシーン。妹はお金と分からず切り絵をしてしまう。そこにハリーがやってきてなんとか隠すがお金の切り絵が風に吹かれハリーの足を通過するシーン。クールに装ってきたのにハリーが子供に逃げられ叫び出すシーンは恐ろしい。

ーLOVE&HATEの刺青ー

この映画のテーマを表している。愛と憎しみの対立。この対立こそが人間であり映画であり芸術を表してる。

ーハリーパウエルー

実在の人物であり未亡人連続殺人者をモデルにしている。ハリーは自分のやってることが正しく神の意志として殺しをやってる。そしてハリーは性器官が不能なのだ。だからその代わりにナイフをたて不能なことを怒りに女性のみを殺す。

ー映画を解くヒントー

この4つのヒントは物語が進むにつれ解き明かされていきます。

星空に浮かんだリリアンギッシュがナレーションで言ってる聖書の言葉はこの映画を解く最大の鍵になってます。

1,心の純粋な者達は幸いである。彼らは神に会えるだろう。

2,その者の栄光も野に咲く花の美しさにはとても及ばない。

3,人を裁いてはいけない。

4,偽預言者(説教師)に気をつけろ。

ーボートで川を下るシーンが意味するものとはー

兄妹が牧師から逃げて、ボートで川を下るシークエンスは、撮影技術の粋をこらした美しさで、世界の映画史に残っています。

ハリーがお金のありかのヒントとして聞いた「幼児が導く」という言葉。物語上ではお金のありかを表してますが伏線が張ってあります。これは聖書の言葉で、狼が子羊と、豹も子ヤギと、ライオンさえも子牛と一緒に暮らしてる平和な世界、これを導いてるのは幼い人間。弱肉強食なく平和な世界が聖書の中にはあります。物語の中でそれを導いてるのは純粋な子供でありその世界に入れるのは幼い”子供だけ”なんだと言っています。

この川を下るシーンは様々な動物が静かに佇んでます。互いに害することなく子供達と静かに調和してます。上で紹介した通りこのシーンは「幼児が導く」の物語の伏線だったんですね。そしてさらにオープニングナレーションの聖書の言葉「1,心の純粋な者達は幸いである。彼らは神に会えるだろう。」というところにも繋がっており心の純粋な子供達だけが平和な大自然の中に入れることを表している。それによってハリーは神の領域であるその川や大自然には近づけないため馬で追いかけている。

ーリリアンギッシュー

最後の方二人の子供はリリアンギッシュ演じるおばあさんに助けてもらいます。その後ハリーと対立しますが「頼れ頼れ」の賛美歌をデュエットします。ここでわかるのは二人ともキリスト教徒であるということ。なのにやってることは真逆、一人は殺人者で一人は捨てられた子を保護し命をつなぐ者。キリスト教とは一体なんなのかと思わせられます。

ーラストー

ラスト近く、自分たちを殺そうとしていたハリーが警察に逮捕されると、意外なことに主人公の少年はハリーを守ろうとします。そして、ハリーが好きになっていたレイチェル家の長女もまた、自分はハリーを愛していると泣き出します。そして金をあげるからとばら撒きます。これは冒頭ナレーションの「2,その者の栄光(金や権力)も野に咲く花の美しさにはとても及ばない」に繋がります。さっきまでは必死で逃げ回っていたのにです。そして裁判では子供の証言によって死刑にできたのにあの男の子は証言を拒否します。これは冒頭の「3,人を裁いてはいけない。」に繋がるのです。

それに対して、ハリーの説教に感動していた村人たちは、あんなにハリーを信頼していたのに、一転して「縛り首にしろ!」とデモを始めます。

純粋無垢な子供たちが選んだ「罪の許し」という選択に対し、大人たちは残虐な「集団リンチ」という選択にいたります。罪人ではあるものの人が人を裁いていいのかという根本的な問題に迫る純粋という素晴らしさと大人の汚さを比較した素晴らしいラストです。

罪人だからと言って殺せと言って集団で襲う民間人が一番怖いんだと言ってます。これは現実でも起きており罪人(ユダヤ)を殺せとヒトラー政権を賛成した一般人の選択によって一番恐ろしいことになってます。

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