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相反する2つの自分と、生きていきたい気分

銀座の創作中華のお店で、久しぶりに大学時代からの親友と落ち合った。昔は一緒にラーメンとか、食べ放題とかばかり行っていたのに、いつのまにか東京ですました顔で一緒にコース料理を食べていると思うと、ちょっと嬉しくて面白かった。

彼女は昔から料理好きだったが、最近は食べることも趣味になったようで、時々こうやってご飯を一緒にすることも増えた。メイン料理が運ばれてくる頃、とある相談をされた。

「最近、自分が行ったお店のログのためにも、レストランのレビューをつけはじめたんだけど、一方で『こんなにこだわって出してくださった料理に点数をつけるなんて……』と気が引けることもあるんだよね。だけど、レビューからこのお店の素晴らしいところを知ってほしいという気持ちになることもあるし……。そういうとき、どうしてる?」

昔から誠実な友人らしい悩みだと思った。私は昔から面倒くさがりだから、今回もまた、ずぼらな回答を返した。

「うーん、どうもしないかな。その悩みを抱えたまま、つづける」

答えになっているようでなっていない回答に、きっと彼女は困っただろうけれど、最近は案外こういった考え方を大事にしているかもしれない、と私は時間を追うごとに思うようになった。

コンフリクトする複数の欲求や考えがあるとき、私たちはいつも「解決したい」「良い対処法を見つけたい」「自分を納得させられる答えを見つけたい」と考える。

例えば今回みたいに「レビューを書いてみんなに知ってもらいたいけれど、点数をつけるのは気が引ける」とか、「この仕事は好きだけど、一緒に仕事するあの人は苦手」とか、「何かに挑戦したいけど、失敗が怖い」とか。

こういうとき、この状況にケリをつけたいのは、どちらかの気持ちを自分から追い出したいからだろう。両方自分の中に存在していると、心のかみ合わせが悪く感じてしまう。

けれど、最近私は「別に急いで両方追い払わなくていいか〜」という気分なのである。レビューは書き続けたら良いし、仕事は続けたら良いし、挑戦はやってみたらいいけど、別にその時にもう1つの気持ちを追い出す必要性が絶対じゃないならば、別に綺麗に気持ちを整理しなくっていい。

なぜならそれは嘘だから。

答えを見つけない間に、どちらかに気持ちを寄せようとして自分に嘘をついているとガタが来る。安易な答えにすがると、次の選択をする時に、選択を見誤る。

例えば、同僚が苦手だけど続けていた仕事がうまくいって、別の仕事をまた一緒にやろうということになったとき。以前に追い払った「この人苦手」という気持ちが、遅効性の毒のように効いてきて、憂鬱は大きくなる。そんなことないだろうか。

それを、「この仕事はすき」「こいつは苦手」みたいなものをこころの中に散らかしたままにしておいたならば、別の仕事が来てもしそれがそれほど好きではない時に、すっと身を引くことができる。

私は文章を書く仕事をしているけれど、なんでも "言語化" "シンプル化" しようとすることに気をつけなければならないといつも思っている。

言語化やシンプル化は、気持ちを軽くしてくれる。うじうじ悩んでいるのって結構しんどくて、だから手放したくなる。解けないクロスワードパズルがずっと前頭葉に貼ってある感じ。まあ、居心地悪いよね。

私の文章を読んでよく言ってもらえるのが「やっと自分の気持がわかってすっきりした」ということだ。それは私の一番の書くモチベーションである。だけどだからこそ、言語化のために自分の気持を嘘の方向に矯正したくないと思うのだ。

ごちゃごちゃした気持ちをごちゃごちゃしたまま放っておいたら、状況が変わることもある。もしかしたら、苦手なあいつが転職しちゃうかもしれないし。レビューサービスがアップデートするかもしれないし。

状況が変わらなくても、自分の気持が変わることもある。ずうっと放置しておいたからこそ、たまに思い出して気づく気持ちもあるかもしれない。

「とりあえずやってみる」とか、アクションを取るのは速いほうがいいこともあるかもしれない。でも、必要性がないならすぐに複雑な気持ちを手放す必要はない。白黒つけるのは、白黒付けなきゃいけなくなってから。

答えを出すには早すぎる。そんなこともあるかもしれないのだ。

答えは、出さなければならなくなるまで、出さなくていい。

[マガジン読者に裏話]この話を考えるきっかけになった元ネタ

この気持を「ああこれだ!」と思うようになったのはこの記事を読んでからだ。仕事にも応用できそうな考え方なので、マガジン限定でシェアしておきたい。(参考資料も面白い)

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半熟たまご

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コラムニスト・りょかちが、頼まれてもないけど伝えたいことを、こっそり書いていくマガジンです。 旅行日記、最近面白かった本・映画・漫画、考…

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