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note限定復刻:コロナ禍で幻と消えた或るカフェの物語(一部有料)

コロナ禍による飲食店の窮状には胸が痛む。なぜなら私自身、突然のコロナウイルスの感染拡大によって、早々に大切なお店を失った身だからだ。
今にして思えば、延命ということで言えば、もっと戦う方法があったのかもしれない。しかし、あまりに突然過ぎ、当時は情報も少なすぎた。まして、オープンから一年に満たないお店だ。すでに、二店舗目、三店舗目の構想も同時に走り出していたが、運営にかかわるすべての人の生活を守るための先行きを保証されないまま営業し続けることの怖さが勝ってしまった。
まさに悪夢でしかない。閉店から数か月して、このお店はニュースにもなった。美しいお店が取り壊される様が写真として掲載されていた。実際、記事にも、瀟洒なお店がコロナウイルスの影響で閉店に追い込まれたと表現されていた。
私は、過去飲食店で担当してきたネーミングやコンセプトからさらに踏み込んで、これら以外にビジュアルやデザインも含めたブランディングに関わっていた。「サードプレイス」という言葉が陳腐化し始めたあの頃、ファミレスを経由して育まれた日本の外食文化には、三番目よりふさわしい「1.5プレイス」があるはずだ、それを全身で味わいかけがえないひとときを過ごしてほしい。その一念で、9年の構想期間を経て立ち上げたお店。負けるつもりの勝負でないばかりか、勝ちしか見えない夢の実現は、苦い幻に消えた。
このお店は、まさに「旅情奪回」の出城とも言えた。少なくとも、お店のコンセプトを考えた私はそのように想定していた。だから、そこには「旅」や「旅先」、「帰還」や「安らぎ」を感じる旅情がたえず漂っていたはずだ。
このコンセプトを、のちに戯れでひとつのストーリーにしてみた。この物語は、お店に関係のあった仲間しか目にしたことがないはずだ。この記事は、閉店からさらに二年が経過しようとする今、寂しさはいっこうに消えないが、あの当時、どんな想いをあの場所に託していたのかを今に伝える、これまた幻となってしまったコンセプトストーリーだ。
もう20年も、フィクションを書いてなかった私が、久しぶりに書き上げた創作とスケッチの間のような、そんな物語だ。

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