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学生とのセッション2024こんなで

 ゲイ迫害の歴史を象徴するピンクトライアングルが中心にあって、性的少数者の解放を象徴するレインボーフラッグが片隅にちんまりとある表紙スライド(上の画像)。講師の性質が出ますね。
 だから(?)90分の講義は「アイヌもやもや」の書籍紹介から始まった。

 とはいえ、90分しかないのだ。時間は割けて数分。だから本を最前列の学生に渡して、「パラパラめくってみてね」と回覧をお願いする。おい自分の本は回さないのか。誰かから怒られそうだけど、持ってきてさえいなかった――しかし担当の方によるアシストで(ご持参下さっていた)そちらも手から手へ。ありがとうございます。

2ページめ。講師紹介もこれだけ。「そんな奴です。じゃ次!」という。
3ページめのスライドでどーん。なぜか。良い本だからだ
このページ隅々まで分かりすぎる。胸がいたい
横組み、かわいい色使い。若人たちよ手元に置いて熟読したまえ

 90分なんてあっという間に過ぎてしまう。学生は誰でも(人は誰でも)性的少数者のことなど知っていると思いながら授業に臨むのだが、開始10分で自信は打ち砕かれる。友達からカミングアウトを受けたら「気にすんなよ、ゲイでもいいじゃん」と言えばいい程度の認識で実社会に放り出されようとしていた人たちだ。だが授業ではステークホルダーとしての捉え直しが求められ、自身の無知と加害可能性にも向き合い、「冷や水を浴びせられるような」思いだって経験する。しかし次に性的少数者に出会うのは「医療者として/患者に」向き合う時なのだ。あるいは上司や同僚という立場の「当事者」と共に働くのだ。そして学生のうち数名は、親として性的少数者を育てる。もちろんこれらパターンの中には、共に育てばよい関係性もある。しかし病院の看板や「医療全体」を背負って患者と向き合う時は、一切の猶予はない。エクスキューズも通用しない。患者はただ治療をやめるのだ。患者の人生を変えてしまうのだ。そしてもちろん信頼失墜を起こした病院は、スタート地点に戻すまでに多大なコストをかけなくてはならなくなる。それでも墜ちたイメージが回復できるとは限らない。学生たちが飛び込もうとしているのは、そんな「卒業すればすぐに始まる」終わりなきテストのような日々だ。私の役割は「少なくとも自分はひとりの生身のゲイとセッションした」という経験を学生に与えることだろう。学生にとっては初回にして最後かもしれない90分で、どこまで自信を育てられるかは講師にかかっている。

 しかし、圧倒的に時間が足りない。
 だから良い本が必要なのだ。
 傷つくかもしれない。傷つけてしまうかもしれない。
 変えられないかもしれない。心折れるかもしれない。
 だから歩き出そうとする人には、良い本が必要なのだ。
 こんな本が。芯がブレないよう支えてくれる本が。


 「性的少数者いわゆるLGBTの方々」(←よく聞くけど何の説明にもなってないしカタガタ要らなくね)の「問題」が取り沙汰されるようになって、私はときどき大学で非常勤講師をしている。その私もまた「日本社会で生まれ育った日本人で」「和人で」「健常者で」「男性で」「シスジェンダーで」「まださほど年寄りでもない」スーパーマジョリティだ。ただ、ゲイであるだけだ。そのゲイというマイノリティ性は、他の「問題」における自身のマジョリティ性という荷物と比べて果たして重いだろうか。その自問にいつも答はない。どちらも重苦しい。

 マジョリティにとってもマイノリティにとっても、差別問題にどうスタンスを取れるか学ぶことは大切だ。しかし「自分の加害(可能)性とどう向き合えるのか」という教育は本当に少なくて、「他人の被害問題にどこまで目配りできるか、どれだけ深く共感できるか競争しましょう」という型のヒトゴト教育がずっと行なわれてきたのだと思う。だから自分の「加害」意識や経験をどう扱っていいか分からない人が大勢いて、忌避感情から反発しちゃうっていうことが起こるのさよね。たぶんね。だからいつまで経っても抑圧する側であるときの自分の立場に適切なスタンスが取れないし差別問題に対してリラックスできない大人たちがいる。平常心じゃいられないのね。

 でもマイノリティだけを楽にするのではない(と思う)、マジョリティに自分を見つめ理解する時間を与える本がある。この本で取り扱われている問題は決して易しくはないかもしれないが、この本は優しい。

 講義で紹介できなかったけど、こっちも良かったです。定価安くねえ?


 あ、性的少数者についての部分? ええ、ちゃんとやったですよ。そっちメインですよ当たり前じゃないですか。あ「多様性は認めるものじゃなくて見つめるものだよね」って言うの忘れた。


 最近ロックだった記事。LOVE。「スキ」はあちらに。

 向き合わない限り、何も過去になんかならない。いろんな問題にそう思うよ。よし寝る。

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