「ご感想への返信2023」No.01
授業を振り返ってみる
問診票は患者に性別を問う。だが、患者によっては身体的な性別が自認する性別と異なることがある(例:トランスジェンダー)。性別は男女二項でもないし自認は多様であるから、「男・女どちらかに〇をつける」問診票のみでは患者の状態を正確に知ることには困難があった。そこでまず授業で私たちが確認したのは「医療者が患者について出生時の性別を問うのは正しく、必要なことである」という点だった。その上で、現在「自分たちのためには医療が開かれていない」と感じている患者に何をどのように伝え、患者の医療に対する忌避感を軽減し、アクセスさせるかが課題となる。問診票に「出生時の性別」だけでなく「自認する性別」を書く欄も併設したら「医療はあなたにも開かれている」「ここでは話してもいい」という病院からのサインになるのではないか、というアイディアが出ていた。
性自認申告型「問診票」はカミングアウト強制なのか
この学生はトランスジェンダー患者の困惑や苦痛を軽減するために、やはり「出生時の身体的性別」また「自認性別」の両方を記入できる性別欄を考えたのだという。その形式が現実的ではないかと私も感じる。「身体的性別が診断や投薬面で考慮されなければならない場面は多々あり、身体的性別を医療者が知らずにいることはできない」という点でも、完全に同意する。
しかしこの学生は最終的に「性別違和を伝えたくないトランスジェンダー患者もいる」という着眼から「申告を強要すること」の是非に悩んでいる。それはカミングアウト強要につながるのではないか、という懸念である。
ちょっと整理しよっか。ね。下図をご覧ください。
目的① 「伝えたい人に」選択肢を広げる
現在「性別不同を伝えたいけど伝えられない」ニーズをもった患者について、私たちは話し合っていた。これは図の「伝えたい人」になる。フェーズ①の問診票を現状として、あなたが考えたのはフェーズ②の「強要型」問診票だよね。確かにそれでは「伝えたくない人」にカミングアウトを強要するリスクがある。だから「自認性別欄が併設された問診票」は、やはりフェーズ③の「任意型」がいいかもしれない。もし②を不適として①に戻るのであれば、再び選択肢はなくなる。でも③なら? 実は「伝えたくない人」にとっても未来に選択肢を広げている部分にも気づいてくれているだろうか。
目的② 問診票は病院の方針を伝え、啓蒙するツールになる
私たちがイメージした問診票は、患者が病院に対して「潜在的に抱く不安」と「経験的に抱いてきた不信」を払拭し、医療にアクセスさせる目的をもっていた。ポイントは「トランス患者にも開かれ、相談できる病院である」と示すこと。今まで見ることができなかったニーズも見えるようになるし、性別不同がない(心身の性別が一致する)シスジェンダーにもメッセージになる。私はシスジェンダーだがゲイでもあるから、その問診票を見て、「この病院ならインフォームド・コンセントの場に同性パートナーを同席させられるか相談できそうだ」と思う。「思い」は波及するのだ。
まとめ
あなたは問診票が「すべて要記入なもの」と考えていると思う。しかしそもそも問診票は全項目に記入し申告するよう求めていない――原則としては全項目記入必須なのかもしれないが、現実にはそうではない。情報として必須の内容と、任意の内容が混在するのが問診票なのだ。「患者からの申告に頼れない」項目は、そもそも存在さえしていない(例:血液型)。また、自由度も高い。開院以来50年間でも問診票を見直さない病院だってある。誤字がずっとそのままだったりね。今はインターネットであちこちの病院の問診票が入手できるから、比較してみると興味深いのではないだろうか。問診票って自由だよ。少なくとも、改善する余地はある。
「伝えたい人」、「伝えたくない人」。きっと患者の事情はさまざまだ。しかし「伝えたくない患者に選択肢は不要だろうか」と考えられることが重要だ。現状の問診票で「伝えたくない人」は不自由ないのかもしれない。しかしそれは「選択の結果」ではない。選択肢あって選択したのではない――そして「伝えたくない」のは「病院不信」からかもしれないのだし、将来的に「伝えたい人」に変化するかもしれないのだ。「一軒目の病院では言えなかった、でも二軒目では伝えられた」ということだってあり得る。サインを出して待っていよう。
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