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もし社会科教師が、未経験の『ハンドボール部』顧問になったら②

②定点観測が可能である

前回のテーマ「①マネジメントなど「組織運営理論」について学べる」は、学級経営や授業だって実現できるかもしれない。しかし、中学・高校において部活動が学級経営や授業と異なるのは、教師にとって「中長期的な定点観測が可能」という点である。

一般的に、担任がほぼすべての授業を行う小学校の「学級担任制」とは異なり、中・高では授業ごとに先生が異なる「教科担任制」を取っている。また、「どの学年を受け持つのか」「どの授業を担当するのか」というのは人事案件であり、自分自身に決定権があるケースは稀である。

一方、部活動もそういった側面がない訳ではないが、基本的には継続して担当できるケースが多い。したがって、中・高の教育活動においては、部活動が中長期的に定点観測できる唯一の機会といっても過言ではないのだ。

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公式戦のハーフタイムであっても、まずは生徒たちが考える。普段の練習でも、試合でも、先に「答え」を与えることはほとんどしない。生徒たちが自ら課題を設定し、考えることが優先である。その上で解決しきれなかったこと、見えていない点、精神的な面については、あとで「気付かせる」こともある(ときに、そうしない場合もあるが、本当にそうすることがよかったのかと自問する・・・)。

中長期的に定点観測できることには、大きなメリットがある。教師が、生徒一人ひとりの成長を見届けられるということである。しかし、それ以上に重要なことは「待てる」ということである。

—私の場合、新卒で教師になったころ、若さゆえ「自分が担当している間に何とかしなきゃ!」いう(潜在的な)責任感に駆られてきた。そして、「教える」ことに励んできた—。

ときに、教えることも必要であるし、それを全て否定しようなんて思わない。しかし、いつでも誰でもググれるようになった現代においては、すぐに役立つ知識の価値は相対的に下がっている。

高度経済成長期までは、それで良かったのかもしれない。効率よく、善良で従順な人間を育成するためだったら。しかし、変化の激しい時代において、「すぐに役立つこと」は、「すぐに役立たなくなること」と同義であることは、改めて言うまでもない。

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では、「待つ」とは、どうことだろう。「答え」をすぐに与えないとは、どういうことだろう。「待つ」とは、何もしないことではない。それは教育ではなく「放棄」である。かといって、すぐに何かを教えたり、押し付けることは「調教」か「飼育」に過ぎない。

私は、「待つ」とは「信じること」だと思う。生徒が道を逸れようが、回り道をしようが、立ち止まろうが、みんなが無理だ!というような道に進もうが、教師には「問う」こと、そして「信じて待つ」ことしかできない。

ソクラテスの時代から変わらない「問い続ける力」を、時間をかけて育むことこそが、教育の使命だと思う。フランスの哲学者、ジャン・ギットンが以下のような言葉を残している。

学校とは、一点から一点への最長距離を教えるところである。

「花まる学習会」代表・高濱正伸先生の講演会に参加した際、教育にエビデンスやデータを持ち込むことは、グランドビジョンを描く際には有効であるけど、目の前の子どもと対峙するとき、結局、大人には「見る」ことしかできないと仰っていた。

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スポーツの面白さは勝敗や数字がハッキリすることにあるし、それによって動機付けできることは間違いない。ただし、教育の本質は、自立にある。

長い人生、勝つこともあれば、ときには負けることだってある。負けたとき、窮地に追い込まれたときに、へし折れてしまうのではなく、それでもなお「なぜ?」と問い続ける力こそが、自立には必要なのではないだろうか。

―今まで綴ってきたことは、「待てなかった」私への自戒を込めた反省文でもある。いつだって、生徒たちに教えられたことばかりである。教育という「虚構」と向き合い彷徨いながら、これからも、どこにもない答えを問い続けたい。


【参考文献5選】

1.『「待つ」ということ』:社会学、哲学の見地から、「待つ」とはどういうことか徹底的に深堀りする。


2.『新編 教えるということ』:伝説の国語教師・大村はま先生からの厳しく、そして優しいメッセージ。教師としての姿勢を問い質される。


3.『「教えて考えさせる授業」を創る―基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」授業設計』:教えつつも考えさせ、セーフティネットを築きながらジャンプの課題を設定するインストラクショナル・デザイン書。


4.『最高のコーチは、教えない。』:もう、教えるんか教えないんかどっちなんだい!笑 教育はアートであると再認識できる一冊。


5.『Q思考―シンプルな問いで本質をつかむ思考法』:学校って、社会に迎合する人材を派遣する場所じゃない。未来の社会を創造していく人間を育むところだと信じてる。だからこそ、Q思考で想像力を伸ばしていきたい。




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