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「フランス人は10着しか服を持たない」は本当か。91歳になるおばあちゃんの生き方を通した考察

最近になってようやく遅ればせながらベストセラーである、ジェニファー・L・スコット著の「フランス人は10着しか服を持たない」を読みました。フランスに住み始めてからずっと読みたいと思っていた本の一つです。

本書ではアメリカのカリフォルニア出身の著者が交換留学でパリに行き、出自を貴族にもつ家庭での半年間のホームステイを通した得た、理想の生き方や人生観について語られています。この本のタイトルにある「10着しか持たない」というのはマダム・シック(ホームステイ先のお母さん)のライフスタイルの一つであって、この本がその全てを語っているわけではないです。この本では、日常の中で暮らしの質を高めるにはどうしたら良いのか、ということについて書かれています。

正直読む前は、フランスを美化しすぎてる固定概念ばかりの本だと思っていました。また女性が生活改善を試みるための指南書みたいな印象操作もされているような、そんな気もしていてました。でも読み終わって振り返ると、たくさんの気づきがあり、老若男女全ての人、世代にお勧めできる本だと思いました。

著者の経験は、パリの中でもとりわけブルジョワの集まる16区に住む貴族由来の家庭で経た経験なので、僕が住む北フランスのリールで経験するそれとは大きく異なると思います。でもこの本を読む上で大事だと思ったのは、一度「フランス」「パリ」というフィルタを外して、マダム・シックの一つのライフスタイルを見ることです。そうすると自分の環境と照らし合わせて、たくさんの気づきと学びが得られるかなと思います。実際に著者はそのライフスタイルをカリフォルニアに戻ってからも続けていると語っています。

この本を読んでて、僕の頭の中にはある一人の女性が浮かんでいました。それは、僕の彼女のおばあちゃんです。僕は現在フランス人の彼女とフランスに暮らしていて、おばあちゃんともよく顔を合わせます。91歳になるおばあちゃんですが、彼女の身のこなし、喋り方、服装、全てがエレガントで、この本に登場するマダム・シックのそれと重なるのです。

著者は、マダム・シックのことを〝アール・ド・ヴィーヴル〟(暮らしの芸術)の達人”と呼んでいるのですが、おばあちゃんもまさに芸術の中に生きていると思うのです。91歳になりますがお酒もよく飲むし、車の運転もするし、買い物に歩いて遠くまで行くし、本当に元気です。いつも綺麗な格好をしてハキハキしていて、素晴らしい歳の取り方をしているなあと思います。

3月半ばから5月半ばまで、コロナウイルスの影響でフランスでは約2ヶ月の外出禁止措置が取られていました。僕は、その2ヶ月間彼女の実家で、家族とそしておばあちゃんと過ごしました。この2ヶ月間の濃い共同生活を得て、リアルなフランス人のライフスタイルが垣間見ることができました。

この記事では、本に書かれているマダム・シックのライフスタイルと、おばあちゃんのライフスタイルを比較してみたいと思います。


フランス人はほとんど間食をしない

著者はマダム・シックの家庭ではみんなが間食をすることはないし、決まった食事以外は基本口にしない、と語っています。僕が知っている限りだとこれは本当だと思います。しかし、その代わり食事はしっかりと食べます。前菜、メイン、そして必ずデザートも食べます。ビール、ワインと好きなものを飲みます。ランチ、ディナー両方です。そして、時間をかけて食べます。間食をしない分お腹が空いているので、毎回の食事がすごくありがたく感じるし、何より美味しいのです。綺麗にテーブルシートを敷いて、お皿を並べて、というふうに実際に本に書かれているような食事を毎回取っていました。平気で2、3時間食事に時間をかけます。そして家族間でよく喋ります。僕はこのゆっくり流れる食事の時間が好きです。

フランスでは一緒のテーブルで食べる、ってことがとても大事にされていると思います。話が少しそれますが、僕の職場のレストランでも忙しくても10分でも良いのでスタッフみんな一緒に座って賄いを食べるようにしています。同じテーブルで食事をして絆を深めるという、この感じが僕はとても好きです。

おばあちゃんはテーブルマナーを大切にしている人で、綺麗にお皿を並べて、食事をします。僕もおばあちゃんから多くのマナーを習いました。

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(日曜日は特別に赤の綺麗なテーブルクロスを敷きます。僕がお土産としてあげた味噌汁のボウルを前菜を入れる器としてよく使ってくれてます。笑)


本ではマダムシックは朝5時半に起きてみんなの朝食を準備していたとありましたが、僕のところではそんな感じではなく、自由に起きて庭で簡単に各自食事する、という感じでした。

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(ほぼ毎日バゲットとジャムとコーヒー、フルーツです)


食べる喜びを我慢しない

夕食は毎晩、少なくとも3皿のコース料理。たとえば平日の夜なら、ポロネギのポタージュ、ローストチキン、付け合わせはチコリーの蒸し煮と新じゃが、そしてサラダ。デザートにイチゴのタルトをいただき、チーズで終わる。

マダム・シックの家庭ではこのような食事を毎晩していたという。そして、なぜマダムが太らないか常に疑問に思っていたといいます。それは日々、歩いてマーケットに行ったり、掃除をしたり、常に体を動かしているからだと説明しています。確かにおばあちゃんもスラっとしてて、91歳になった今でも腰も曲がらずに体型を維持していますおばあちゃんはよく歩くし、いつも掃除しています。食事もデザートまで本当によく食べます。ワイン、マティーニをいつも嗜んでいました。きっといつも体を動かしてエネルギーを消費しているからバランスが取れているのだと思います。普段の生活に体型を維持するコツがありそうです。



10着しか服を持たない

カリフォルニアからパリについた著者は、ホームステイ先のお家で用意された理想的な部屋に感動しますが、クローゼットが小さすぎてびっくりします。スーツケース二つに沢山の洋服を詰めて持ってきていたので、収納するスペースが足りないのです。マダム・シックは10着ほどしか洋服を持たない人だったので、スーツケース二つ分収める大きなタンスを使うことを想定してなかったのである。その代わりマダム・シックは常に綺麗に着こなし、自分に似合う洋服を心得ていたという。そのかわりとびきり良い質の洋服を揃えていたという。10着しかない選択肢から、色々な組み合わせを編み出し、その服を最大限に活用するのだ。

おばあちゃんもこのような服の着こなし方をしていました。よく彩り鮮やかな服を着ていて、それにスカーフなどを足して綺麗に仕上げていました。外出禁止中でも、毎日このような感じでした。日本にいた頃の僕なら一日中パジャマのまま、ソファーに横になってだらだらしていたはずですが、おばあちゃんを見ると背すぎがピンと伸びて「しっかりしないと」と思うようになりました。

おばあちゃんがいつも綺麗に着こなしているので一度僕が

「いつも綺麗に着こなしていますね」

と言いました。すると

「私はこの服、かれこれ20年以上着ているわよ」

とおばあちゃんはおっしゃっていました。

他にも、「自分が若い時に着ていたドレスだよ」と半世紀以上も前に作られたであろうドレスを僕に見せてくれました。映画でしか見たことのない綺麗なドレスでした。「もちろん今では着ることはないけどね」と言っていました。おばあちゃん今でもこんなに綺麗なのだから、若い時どのような感じだったんだろうとすごく気になりました。

自分に合うと思った服にはお金を惜しまずに、そして大切に長年使用する。一番良いものを普段使いにする。おばあちゃんは本当の意味でのミニマリストでナチュラルだし、こういう歳の取り方ができたら良いな、と思います。


何歳になっても新しいことを学ぶ、興味を持つ

著者はフランスでの経験を通して、新しいことに常に挑戦する姿勢の大切さを学んだと言います。マダム・シックはいろんなことを知っていて、普段の食事でも友人とのパーティーでも話題に尽きることはなかったといいます。それは日頃から新聞を読んだり読書したり、と勉強することを続けていたからだといいます。

おばあちゃんも新しいことに挑戦するのが好きです。90歳の誕生日の時に家族がipadをプレゼントしたらしく、最初は難しかったみたいですが、今では問題なく使いこなしています。姪っ子にスカイプを使って電話したり、youtubeで編み物のやり方を学んだり、と日々何か新しいことを学んでいます。


ミステリアスな雰囲気を漂わせる

著者は、マダム・シックはとてもミステリアスな人物だったと語っています。わざとらしく振舞ったり、気取ったり、別人になろうとすることなく常に自分らしいけど、人を惹きつけるどこかミステリアスな側面があったと言っています。

少し抽象的ですが、著者のいうミステリアスな側面のことがすごくわかる気がします。おばあちゃんもそういうところがあるからです。

モナリザのようなかすかな微笑みを見せたり、自分のことを語りすぎたりしません。いつも人の話を聞く側で、喋るときはゆっくりはっきりと喋ります。

僕はおばあちゃんの過去が気になってるので、色々聞いてみたいのですが未だに聞けずにいます。というのも、自分のこと過去のことを多く語らないので、聞いたら失礼なのかなと遠慮してしまうのです。おばあちゃんのそのミステリアスな部分は確かに魅力的だな、と思います。


まとめ

フランス人みんながこの本に描かれているマダム・シックと、僕の彼女のおばあちゃんみたいな生き方をしているとは思いません。もしかしたら、二人の世代ではそれが当たり前だったのかもしれません。よくおばあちゃんは今の流行りをみて「昔はそれがみんな当たり前にできていたのよ」と言います。例えばそれが断捨離や、ミニマリストだったりします。91歳になっても美しく元気で人生を謳歌できる秘訣はきっと、五感をフルに活用してその時やっていることに全力に取り組み最大限に楽しむことだと思います。





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