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Prologue

(※過激な表現は避けてありますが、同性愛についての内容が含まれます。苦手な方はご注意下さい)

某人気占い師いわく、俺の「人生最大のモテ期」だった1年が終わった。
つまり32歳で、独身で、やや低所得なゲイである俺の人生における「モテ」は、今後尻すぼみというわけだ。

なんだそれは。超焦るではないか。知りたくなかった。

20歳の時ゲイになって12年。

干支一周分の俺のゲイライフは、果たしてどの程度充実したものだったのだろうか。

愉快な友達は沢山できたが、男を選ぶ目の方は正直自信がない。

(占い師いわく)今後減って行く(らしい)俺の恋愛の数少ないチャンスから、運命の相手を選び損ねないよう、自分史代わりに、現在及び過去の男遍歴を、備忘録としてここに記していこうと思う。

ゲイの恋愛市場って、本当にシビアなんだから。

Prologue



十代の頃は俺もちょいちょい女の子と付き合ったりしていた。
自分で言うのもあれだが、決してモテない部類ではなかったはずだ。

でも、人生をいつも退屈だと感じていた。

だから大学の同級生たちと刺激を求めて遊びに行った新宿2丁目のゲイクラブで、タバコを吸っている時「火貸してくれませんか」という、少々古臭い口説き文句でその男性からナンパされた時、連絡先を交換してしまったのは面白半分とはいえ運命的だったとも言える。

当時はまだみんなガラケーで、アドレス交換は赤外線通信だった。

2日後、ふたりで飲みに行き、酔って彼の家に上がり込むまでの間に彼がフレンチレストランの副料理長で、俺よりも12歳、そうつまり干支一周分年上の32歳で、別居している奥さんがいることを聞き出した。

タバコを勧めたら「本当は吸わないんだけど、喫煙者の子に声かけたい時用に持ち歩いてるんだよね」と実に実に気持ち悪いことを言った。しかし「ごめんね」とイタズラっぽく謝る彼のはにかんだ笑顔が、なぜだか可愛く見えた。

だから彼が俺を抱きしめようとする手を制止しなかったのだ。
俺も若かった。

そして他の若者同様、他人に求められることにひどく飢えていた。

ベッドの上で彼は、副料理長のことを「スーシェフ」と呼ぶのだと教えてくれた。

こうして俺はあっけなく同性愛の世界へと足を踏み入れてしまった。

翌日大学の学食で一部始終を話した時の、友人達の驚愕した顔は忘れられない。

ある者は食べていたたぬきうどんを吹き出し、ある者は笑いすぎて椅子から転げ落ち、ある者は「腹が痛くなってきた」と言って青白い顔でトイレに駆け込んだ。

それでも俺はどこか清々しい気分だった。痒いところに手が届いたような。こうなることをずっと前から、遺伝子レベルで知っていたような。

そう、目覚めた後のゲイはみんなこう言うのだ。「なんとなく自分で気がついていた」と。

少なくとも後悔はなかったし、そしてもう以前のように、人生を退屈だと感じてはいなかった。

「きっと面白いことになる」

あれから12年。

俺はもうあの夜の彼と同じ年齢で、すっかりスレて小慣れたゲイになってしまった。

彼とはあの一夜以来会うことはなかったが…と続けば文学的なのだが、残念ながらこの12年間で何度かみっともないすったもんだを繰り広げてしまったのだった。

が、それはまた別のお話。

現在彼はもうスーシェフではなく、料理長「シェフ」だ。

しかし32歳のアラサーが、20歳の大学生にちょっかい出すのってどうなんだ?ちょっと犯罪の香りがする。そう思うと、あいつすげえな。

つづく

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