小説 王国への旅 第2幕 27話 「道の上で」

ようやく時間は動き出していった。サナギのフェアリーが魔法使いとクモの間から抜け出して飛び続けている一方で、マネキンのリバティと黒猫のパスも次第に意識を取り戻してきた。
「なんだかずーっと眠っていたような気がするわ」
「僕もそうだな。まるで自分を忘れてしまったようだよ」
「こんな道の上で止まっていたなんて不思議ね」
「そういや、魔法使いが一旦時間を止めるって言ってたね。止まった時間なのだから、それを眠りのように思うのはおかしなことだね」
「まるで私達が動かない間にも、本来の時間は実は動いてましたって感じだわ」
「そうだね。実際にそうじゃないのかな」
「じゃあ、また私達は動けるということはこの旅を続けなくちゃね」
 リバティとパスはひとまず、歩いている道を辿り先へ進みだした。起きている出来事が何であれ受け入れていくかのように。先々のことは決まっていない。それでも歩み続けるしかない。
そして、しばらく歩いていくと、パスが「おや」と呟いた。前方に何か人影が見えるという。リバティとパスは近づいてみると、道の上で女の子が眠っていた。その女の子は金色の髪の色でショートカットだった。道の上で大の字になって、いびきを立てていた。
「ねえ、女の子が寝てるよ」
「なんでこんなところに寝てるのかしら。可愛らしいわね」
「起こそうか」
「悪いやつに遭遇しても良くないしね。なんて無防備なのでしょう」
「その辺は大丈夫なんじゃないか、ほら」
パスが辺りを見回すと、木の影に槍を携えた兵士が身を構えていた。
「護衛がいるから」
「ってことは、この子、この道の上で寝たくて寝ているの?」
「まあ、それは起こしてみよう」
そういってパスは座って寝ている女の子の鼻に自分の黒い尻尾をふわっとのせた。女の子は心地よさそうにガーっていびきを立てていた。その動きで女の子の鼻はパスの尻尾に当たり、次第にくすぐったくなるのであった。女の子は、ヘッヘッと咳き込む寸前のところになった。その様子を見て、樹の影に隠れていた兵士が、あの猫め!と飛び出そうとするが、また別の岩陰に隠れてた兵士が、まあ、待てと諌めていたので、じっとしていた。
「ぶえっくしょん!!」
と大きくくしゃみした女の子は目を覚ました。寝ぼけた状態で
「あれ?」
と見回すと見知らぬマネキンと黒猫が自分を見ているではないか。
「気がついたね」
「ああ、あれ、あ、ぽかぽかしてたから、寝てたんだった。え、どちら様で?」
「私はマネキンのリバティ、こちらは黒猫のパス。あなたはなんて名前なの」
「わたし?わたしは、、コニーというの」
「はじめまして、コニー。あなたはどうしてここで寝ていたの」
「うんと、花のいい匂いがしたから」
「確かに。この辺は野生の花々が溢れているね」
「いい匂いに包まれるのハッピーな気分になるから寝てたの」
「護衛も君が起きるまで待たなきゃいけないのだから、大変だね」
「あっ」
パスの言葉に、コニーは後ろを振り返ると、二人の護衛が槍を持って立っていた。その様子がコニーはおかしく思った。
「ハハハハハッ」
「姫様、笑いすぎです」
「ごめんごめん。でも二人して見守ってくれてたなんて知らなかったから」
「さあ、もう帰りましょう。まだ行くところがございますよ」
「そうだね、フフフ、次の町へ行かないとね」
「コニーはよく笑うんだね」
パスの呼びかけにコニーは振り向き答えた。
「さて、ンフフフフ、自分の言い方で笑っちゃうの。じゃあね、猫さん。それと、リバティさん」
リバティは何気なく辺りを見回すと、周囲の草花や樹木まで色鮮やかに光り、活力を取り戻していた。
「コニー、これはあなたの力なの?」
「コニー姫様が笑いますと、そのニコニコの力が周囲まで影響を及ぼすのです。植物や動物を元気にさせる癒やしの力が姫様の笑顔にあるのです」
兵士のひとりがそう答えるともうひとりの兵士が付け足した。
「然しながら、そういった影響が知れ渡ると、姫様の力を、何かに利用するという者があとをたちません。だから我々が見守っているのです。この能力と引き換えになのかわかりませんが、姫様は心地よさそうな環境を見つけるとその場で寝てしまいます」
「そうだったの」
「一度、姫様の眠りを我々が中断させたことがあったのですが、早くに眠りを遮ってしまうと、かえって姫様はその日、一日元気をなくしてしまいます。そちらの黒猫さんが起こしたときは、姫様は事前によく眠っていたので大丈夫でした」
「そっか。尻尾でくすぐってごめんなさい、コニー」
「あ、そうだったの。キャハハ、道理で鼻がくすぐったかった訳だ」
「にしても姫様だったとはね」
「パスも知らないことあったとはね」
「うーん、知ってる範囲と知らない範囲って、ほんとそれぞれだと思うけどさ、やはり知らないことの方が多いよ」
「認識の世界も広いってわけね」
「さっ、姫様もう行きましょう」
兵士たちは会話を中断しようとした。
「では、ごきげんよう、猫さんたち」
「ごきげんよう、コニー姫」
そう言ってコニー姫と二人の兵士は去っていった。
「人って面白いわね」
リバティがぼそっと呟いた。
「うん、それがこの旅の醍醐味かな」
そうパスは振り向かずに答えた。

つづく

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