【連載】限りなく詩的で上品な理系「笑わない数学者」森博嗣S&Mシリーズ③
森博嗣S&Mシリーズ③
前回の記事はこちら👇
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起源は忘却され伝統の手法だけが取り残される。
たとえ、神のトリックであっても。
さて、森博嗣のS&Mシリーズも三作目。
この「笑わない数学者」はトリックをわかりやすくした、と作者も言っているようで、レビューサイト等みていると「簡単だった」とか「途中でトリックがわかった」など言われている。
まったくわからんかったわたしはいったい・・・???
ミステリー初心者なもんで許してください。
この三作目の舞台は「館」となります。
一作目同様、移動地点が舞台となるわけですが、今回のテーマ設定というか、お話の情景がとても上品でありました。
一作目が「強」
二作目が「難」
とするならば
三作目は「美」かな。
人が死んでるんで、美しいとはなかなか言えないですが、舞台である館のディティールがとても上品であり、登場人物たちの立ち回りもどこかスタイリッシュであります。
もちろん、今回も森博嗣作品の醍醐味であるセリフまわし、犀川と萌絵のふたりのかけひき等、前作前々作に全く引けを取らない魅力がありますが、今回はこの簡単(らしい)であったトリックがより話の雰囲気に入りやすくしてくれた要因ではないかなと思います。
「数学者」と聞くといわゆるカタブツとかキチガイ、気難しい理系野郎を想像しがちですが、今回登場する天才も全くその通りです。
しかし、この気難しい理系野郎も森博嗣氏の手にかかればあっという間にオシャレになります。
テンションコード入れまくりのジャズのよう。
解説「理系ってなんだろう」にもありましたが、もう「理系ミステリィ」といわれ、それはそうなんですけど、「文系よりも詩的な理系」と表現したほうが正しいかと。
ある意味では理系と程遠い理系なのかもしれませんね。
トリックや設定などはかなり理系ですが、随所にちりばめられた言葉のオシャレさが猛烈にスタイリッシュです。
*この「詩的」さは次巻である「詩的私的ジャック」でさらに昇華されます。
目次にも作者にしかわからないようなポエムが副題として入っています。
そして何より、一番知りたい、気になるところはボカシて終わります。
着地点がふわっとしている。そこがまたいいんですね。
S&Mシリーズでもこの作品は、読みやすさもあいまって人気が高いようです。
作品単体として独立しているので、一冊目に読んでもいいかもしれませんね。
最後に、シリーズ好例であるこの巻のかけひきはこちら。
「戻ってくるまでに解けたら、お食事をおごります。もし、解けなかったら、私にキスしてくださる?」
あらすじ
偉大な数学者、天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」。そこで開かれたパーティの席上、博士は庭にある大きなオリオン像を消してみせた。一夜あけて、再びオリオン像が現れた時、2つの死体が発見され……。犀川助教授と西之園萌絵の理系師弟コンビが館の謎と殺人事件の真相を探る。超絶の森ミステリィ第3弾。
100円でいい事があります(僕に)