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ファンイベントを設計するために『最高の集い方』は何度も読み返したい良書

高橋 遼 / Ryo Takahashi

今月発刊され『最高の集い方』(プリヤ・パーカー著)は、いわゆるお客様を招いてのイベントだけでなく、社内の会議やプライベートでの集まりにいたるまで、人が集まる場のつくり方についての実践法が詰まっていて、様々なイベントを開催する人にとって参考になるところが多そうな本です。

特にブランドとファンが集うイベントを設計する方々にとって、<お客様をおもてなしするイベント>と、<ファンが集うイベント>のちがいが分かりやすく整理されるかもしれません。

同じ場所で同じ時間を過ごすことは、何より貴重なものになるかもしれない

そもそも現実の場で「人が集まる」という行為に対して解説された本は、これまでそう多くなかったように思います。友達や恋人と会っていても、傍でスマホを見てしまう生活が当たり前になってしまった今、スマホに触れずに同じ場所で同じ時間を過ごすことほど、人にとって貴重な時間の使い方はないかもしれません。

この人と人が「集う」という行為を価値のあるものに高めていくために何をすべきかというのが本書のテーマです。

ファンイベントを支援するなかでも、ブランドとファンとの集い方によって、場の熱量が上がることもあれば逆に下がってしまうこともあります。ブランドとファンが「会えてよかった」と思える場の設計は、時間を一緒に過ごすことがより貴重な現代だからこそ、大切になってきているといえます。

ニューヨークタイムズの「ページ・ワン」会議

イベントという場のつくり方について、象徴的なエピソードとしてニューヨークタイムズの例が挙げられています。

およそ70年のあいだ、ニューヨークタイムズの一面をどの記事にするかを決める会議は「ページ・ワン会議」と言われ、当時その会議に出席することそのものが社内でも名誉とされていたそうです。ニューヨークタイムズの一面に掲載されるニュースが世界に及ぼす影響を考えると当然かもしれません。

しかし、2014年にニューヨークタイムズの編集長に就任したディーン・バケットは、オンラインの閲覧者数が増えていくなか、もはや紙版の編集会議を最優先する必要がなくなっている現状を見て、当時70年近く続いていたその会議の形式を変えることを決断したそうです。

変更したポイントを整理してみました。

ページワン会議.001

紙版のニューヨークタイムズが家に配達される前に、オンラインでそのニュースが閲覧されている状況がある中で、70年間続く会議の慣習を見直し、そのあり方を柔軟に変えていったそうです。

本書にも「いまこの瞬間に、またはこれから二時間のあいだに、ニューヨーク・タイムズがスマホでどんな体験を提供できるかをみんなに考えてほしいんだ」(中略)「先のことを考えるのもいいけど、『いまここ』が何より大切だ。報道局の体質を根っこから変えるのが、僕たちの長期目標だ」というエピソードにある通り、会議の目的によってやり方を変えていった分かりやすい例として挙げられています。

人が集まる目的から、その場のあり方を変えていくべきということが分かる象徴的なエピソードです。

『最高の集い方』はファンイベントにこそ生かすべき

ファンイベントを開催しようとする視点から本書を読むと、参考になる点が多く、あげればキリがないぐらいです。例えば以下のような項目が挙げられます。

◎ はっきりとした揺るぎない目的を掲げること
◎ 集まりの規模で目安になるマジックナンバーは6人、12〜15人、30人、150人
◎ 選ぶ会場によって人の行動が変わる
◎ 裏方に徹しすぎない
◎ 集まりに名前をつけることで参加者に何を期待しているかを伝える
◎ マナーよりルールづくりがだいじ
◎ ある研究によると観客は講演の最初の5%と最後5%とヤマ場だけしか覚えていない(オープニングとクロージングにこだわる)

このように、ファンイベントで心に留めておきたいポイントはいくつもあるのですが、本書で僕がもっとも大事だと思っているのは2章の「あえて門戸を閉ざす」という章で書かれている内容です。

「誰を呼ぶか」より「誰を呼ばないか」

イベントを設計するうえで、「誰を呼ぶか」より「誰を呼ばないか」を考えることがファンイベントの成否を決めると言ってもいいと思います。

イベント主催者はまず、告知してから当日までにきちんと集客できるかどうかという不安を取り除きたいため、さまざまな人たちに来てもらうということを優先しがちです。しかし、特に熱量の高い小規模のファンイベントに関しては、多様なファンをイベントにごちゃ混ぜに招待してしまうと、来てくれた人たちすべての期待値を満たそうとする企画になってしまい、結局平均的に満足度が下がってしまうことがあります。イベントに来る人たちにはそれぞれの期待値があります。その人たちの期待値を超えていけるように、まず「呼ぶべき人は誰なのか」をしっかり絞ることが不可欠です。

以下は本書で語られている、ミートアップの創業者、スコット・ハイファーマンの主張です。

どうしたら 、人が集まる価値のある何かを見つけられるのだろう ?斬新で大胆で意義のある目的には 、どんな要素があるのだろう ?絶対に欠かせない要素の一つは 、特殊性だ 。的が絞られていて特殊であればあるほど 、またその範囲が狭ければ狭いほど 、そこに注がれる情熱は強くなる 。わたしは仕事の経験からこのことを知ったが 、あるクライアントがそれをデ ータで裏付けてくれた 。 「ミ ートアップ 」はオフ会を企画するオンラインのプラットフォ ームだ 。世界中の人がミ ートアップを使ってさまざまな目的で何千というオフラインの会を企画している 。これまでに数百万もの人たちがミ ートアップを使って集まった 。どうしたらオフ会がうまくいくのかをミ ートアップの立者たちが調査したところ 、意外な発見があった 。最も人気があったのは 、すべての人のあらゆる望みを満たすような 、総花的な会合ではなく 、特殊で的が絞られた集まりだった 。 「特殊であればあるほど 、うまくいく可能性が高い 」とミ ートアップの業者で C E Oのスコット ・ハイファ ーマンは話す 。

ここから逆算して、イベント参加者が「なぜ集まるのか」から設計していくことが必要だと著者は語ります。

"「誰を招かないか 」は 、この集まりが一体どんな会なのかを参加者に伝えるメッセ ージにもなる 。"と書かれているとおり、時間や場所よりもまず「誰を呼ばないか」がそのイベントは何なのかを定義することが、イベントの目的を雄弁に語ります。

「誰を呼ばないか」は、その場の参加者の文脈を考え尽くすことそのものです。このプロセスこそ、ファンイベントを質の高いものにしてくれると思います。

ファンイベントは、ファンとの関わりをつくっていくうえで、もっとも重要な入り口といえます。本書はその関わりを設計するうえで十分すぎるぐらいのヒントを提供してくれます。

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高橋 遼 / Ryo Takahashi
株式会社トライバルメディアハウスでコミュニケーションデザインのお仕事をしています。ブランドの熱狂的なファンを大切にするマーケティングの考え方を『熱狂顧客戦略』(翔泳社)という本にまとめています。 その他、ヤッホーブルーイングのエア社員、I&COの外部パートナーを務めています。