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派遣スタッフの教科書~派遣で働くコツ~ 【派遣スタッフの基礎知識】⑤常用雇用代替防止とは

こんにちは!
派遣スタッフの教科書と銘打って、人材派遣で働く方向けのTipsを紹介していきます。
【派遣スタッフの基礎知識】編の第5弾!
「常用雇用代替防止とは」
行ってみましょー!

「ひたすら具体的」で「生々しく」派遣スタッフの教科書を作るという狙いなので、僕の独断で、派遣で働く人が知っておくと良いことについて超実践的に解説していきます。
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※僕は事務系の一般派遣の営業経験が長く、ここでは主に登録型の人材派遣についての解説が中心になります。



常用雇用代替防止=正社員の代わりに派遣を利用させない!

前回、派遣の歴史について触れました。

それと併せて知っておいて欲しいことの一つに「常用雇用代替防止」という考え方があります。
これは、労働者派遣法のコンセプトだと思ってもらえると分かりやすいです。



実は、日本の派遣法はとても、いびつです。

2015年の派遣法改正で、ある程度是正されたと言われていますが、それまではとても独特な仕組みがありました。(今も名残がありますし、それとは別に独特なルールもあります)

・専門業務にしか許可されていない
・でも普通の事務が専門業務扱い
・海外では認められることが多いが事前に派遣スタッフとの面接行為ができない
・原則1年まででそれ以上延長するときは組合の意見聴取がいる)
などなど・・・(面接禁止以外は今の派遣法には存在しないです)

派遣でお仕事を長くしている方は、専門26業務が・・・とか、付随業務は1割・・・とかの話を聞いたことがあるかもしれません。

正直、僕は入社3年目まで、ずっと、なんでそんな規制があるの?とほとんどの規制の意味が分かっていませんでした。(意味も分からず、「この辺はグレーゾーンでしてぇ・・・」って言ってました。そういうインチキ営業に気を付けてください!)



そのほとんどの規制が何のためか説明できる概念が「常用雇用代替防止」です。ではそれは何なのか・・・


常用雇用代替防止=日本的雇用慣行の中にいる常用労働者(正社員)にとって、派遣という海外からやってきた、働き方をしている労働者は脅威である。(黒船が来た!!)
派遣という「望ましくない」連中が侵入してきて、われわれ常用労働者の雇用が代替されては困る、法律でしっかり規制しよう!と言う考えです。

出典は僕の脳内


労働者派遣法というものはそもそも、派遣と言う働き方が、正社員(常用雇用の労働者)の席を奪ってしまうことから守るための法律と言うコンセプトが存在したのです。




そうすると、(派遣で働く人にとっても)利便性が悪く感じられるであろう面接の禁止の理由(面接なんてできちゃったら、正社員の代わりができちゃう!)も、長く派遣で働きたくてもできない(今も個人単位で原則3年)理由(長くいられたら正社員の代わりになっちゃう!)も、専門業務だけに限定されていた理由(派遣法作った時点で、請負契約でやっていた職種に限定された)も、スッと理解できます。



いよぎんスタッフサービス事件

ここで、「常用雇用代替防止」について、知っておくと派遣法改正の流れのイメージがつかめる裁判例があるのでご紹介します。

それは、2009年のいよぎんスタッフサービス事件最高裁判決です。

伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件(高松高判平18.5.18労判921号33頁〔上告=最二小決平21.3.27労判991号14頁=不受理〕,高松高等裁判所判決/平成15年(ネ)第293号
平成18年5月18日
雇用関係確認等請求控訴事件

【判示事項】
〔1〕 派遣労働者と派遣先会社との間に黙示の雇用契約が成立したといえるためには,単に両者の間に事実上の使用従属関係があるというだけではなく,諸般の事情に照らして,派遣労働者が派遣先の指揮命令のもとに派遣先に労務を供給する意思を有し,これに関し,派遣先がその対価として派遣労働者に賃金を支払う意思が推認され,社会通念上,両者間で雇用契約を締結する意思表示の合致があったと評価できるに足りる特段の事情が存在することが必要であるとされた例

〔2〕 派遣先銀行と派遣労働者Xとの間に雇用契約関係を締結する意思の合致があったと評価できるに足りる特段の事情は存しないとして,派遣先とXとの間の直接雇用関係の成立を否定した一審判断が維持された例

〔3〕 派遣元会社とXとの間の雇用契約は,派遣先での就労を前提として,半年ごとに契約を更新する登録型の雇用契約であって,常用型の雇用契約とはいいがたく,解雇権濫用法理を適用ないし類推適用されることはないとして,雇用関係存在確認請求及び賃金請求を棄却した一審判断が維持された例

〔4〕 派遣先銀行の支店長が,慰労金明細書に「不要では?」と記載した付箋を付着させたままXに渡した行為は,過失によって社会的相当性を大きく逸脱した違法な行為であって,不法行為を構成するとの判断により,一審判断が変更され、民法715条1項に基づき,派遣先事業主に慰謝料1万円の支払いが命じられた例

〔5〕 Xと派遣先上司との間で確執が生じていたこと,派遣先において派遣対象業務以外の業務への従事など派遣先の指揮命令権の行使に問題があったこと等について,派遣元事業主が対応を怠ったこと等による人格的利益(労働者として適法に雇用管理を受ける権利)の侵害を理由とする損害賠償請求を棄却した一審判断が維持された例
【掲載誌】  労働判例921号33頁   労働経済判例速報2047号3頁


この判決で注目すべきは、

13年間も派遣で同じ企業の同じ仕事に従事していた派遣スタッフにおいて、直接の雇用であれば有期契約を何回も反復更新すれば雇い止め(契約更新拒否による雇用終了)が制限される可能性が出てくるのに、「同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではない」、「原告の雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえない」といって、それを認めなかったことです。

言い換えると、派遣社員は正社員に置き換わらないためにも、長期的な雇用が守られる対象ではないと表現できます。

この事件は、ILO(国際労働機関)に、「直接雇用の有期契約労働者に比べて派遣労働者を差別することを要求している」として訴えられ、勧告までなされています。


つまり、日本の派遣法は、派遣労働者の権利を侵害しているとして、国際的に問題視されていたということです。これが、派遣法の改正についてすったもんだ繰り返し、今に至る要因の一つでもあります。(急に雑wですが、少なくとも2015年改正まではそんな流れです)

派遣で働くにあたって、「なんでこうなっているの!?」という疑問への説明が理解しやすくなるので、ぜひ、常用雇用代替防止と言う考えと、いよぎんスタッフサービス事件及び、ILOからの勧告については知っておくとよいと思います。


常用雇用代替防止の流れ


改めて、常用雇用代替防止の流れについてまとめてみます。

かつての派遣法の根底には、新卒一括採用から定年まで雇用を維持していく「日本型雇用システム」を守るという思想がありました。

その思想から、まずは、正社員が行っていないような専門的技術的業務のみ限定的に派遣を認めることにしましたが、その限定された業務の中に正社員が行っている事務業務などが入っていましたので、全く現実に即していないものでした。(すでに派遣法がない中で業務委託として実質的に派遣が行われていた職種を認めたという経緯もある


そして1999年の改正で、専門26業務以外の自由化業務については常用代替の恐れがあるので、それを防ぐために「期間制限」を設けることになり、当初は1年、これが2003年から3年に伸びました。当然ここでも、期間制限する理由は、あくまでも「常用代替防止」です。


しかし、正社員を保護しようとすれば、派遣社員の権利が侵されてしまうという差別につながる問題はずっと根底にあり、ILOからも指摘を受けている状況があります。

その問題意識から、2015年の派遣法改正では「専門26業務は現実に即していないから廃止する」「派遣労働者自身の保護へのスタンスを強化していく」ということが、考え方のベースになりました。

特に、無期雇用を是とする形、雇用安定措置の考え方は明らかに派遣労働者の保護を意図した部分であり、僕はこの時、現場の最前線にいましたが、ある程度、堂々と派遣スタッフさんに法改正の概要を説明できたことをうれしく感じたことを覚えています。


最後に

今日は、「常用雇用代替防止とは」というテーマでお話しました。
かつての派遣法でしか使用されていない専門用語が出てきたり、わかりにくい部分もあったかもしれません。

長くなりすぎても読みたくなくなるだろうな・・・と思い、補足は少なめにしましたので、詳しく知りたいことや困っていることがあれば、↓問い合わせフォームかTwitterDM、LINEオープンチャットから連絡ください!

次回は、引き続き基礎知識編として「派遣労働者個人単位の抵触日」について解説します。
いわゆる、「派遣は3年が上限」問題についてですね。
では、また!



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